核兵器の管理
ロシアは4万発の原子爆弾を製造可能な濃縮ウランやプルトニウムをソ連から引き継いだが、その管理に大きな問題を
残しているという。原子力潜水艦や多数の核物質をコントロールしている企業を支配下において、それらを材料に恐喝
などに利用とする動きもある。93年、あるマフィアグループが極東の造船所の副企業長に協力を求めたが、副企業長が
拒否したため殺害された。地方では、核兵器の管理が行き届かないこともあり、注意が必要である。安易に原子力関連
企業を私有化したり、地方移管すると、核物質が闇市場に流出しやすくなりかねないのだ。
軍事国家ソ連の戦争経済
ソ連経済は「指令経済」(国家による中央集権化を極点まで推し進め、国家計画による再分配を基軸とする経済体制)と
市場的要素や互酬的要素をもった「シャドー経済」(個人ないし組織によるルール違反を内在させている非公式経済体
制)が一体化した形で存在した。問題は平和時に戦争のための経済を準備するという意味での「戦争経済」あるいは戦争
に物資や人員を動員できる体制を意味する「動員経済」というものをソ連が内包していたことである。ソ連建国当時、
ドイツ、ハンガリー・オーストリア帝国の第一次世界大戦での敗戦の研究から、国家経済と戦争遂行能力の関係に気づ
いたソ連は「戦争経済」体制の構築に向かった。ゆえに「ソ連の産業は戦争のためにつくられた」とする極論もある。
(チェシンスキー)
軍事費負担を検討する際には、通常、軍事費をGDPで除した割合が用いられる。ただし、市場経済がシャトー経済とし
て部分的にしか機能していなかったソ連時代に、GDPやGNPの推計が極めて困難であったことは指摘するまでもない。
CIAは82年ソ連の軍事費をGNPで除した割合を13-14%と見積もっていたのに対し、エプステインは25-28%と推定した。
ソ連はどう軍事負担を賄ったのか
ソ連の軍事化を推進したスターリンは、国有企業の利潤をそれと気づかれずに収奪する「黙示的課税」によって、「戦争経
済」の資金を調達したのだ。
この黙示的課税の典型は、農産物調達価格を国家統制によって低く抑え、小売価格を相対的に高く設定して、その差
を国家が収奪する方法だ。ウォッカのようなアルコール類など最終消費財の統制価格と原価のとの差額の多くが、取
引税という形で国家に徴税された。工業生産物については、物的支出と賃金からなる原価部分を、価格統制を通じて
低く抑え工業卸売価格と小売価格との差額は、利潤控除や取引税といった形で国家が収奪した。ここでいう利潤控除
は資本主義的な意味での利潤ではなく、企業の帳簿上に残される収益部分で利潤が残ったからといって、企業が使途
自由に使えるわけではない。その利潤の一部を国家に納付したわけである。
国防発注の支払い状況は95年武器・軍事技術にかんする国家発注が実際に決済された割合は35%にすぎず、96年
には29%だった。97年には19%が資金提供され、研究開発活動に関しては14%にすぎなかった。軍需品の生産は92年から
急減し、91年を100とするとソコロフの情報では97年には8.8の水準まで減少した。99年の時点で、軍需企業の80%が破
産状態にあるという見方もある。軍需企業の破産の責任は国防発注に対する支払いを契約どおりに遂行してこなかった政
府自体にあるともいえるからその破産手続きは困難を伴っている。生産減少を受けて、武器輸出指向が強まった。事実上、
無償支援に近い形で武器輸出を行ってきたソ連時代と異なり、冷戦後の支援打ち切りと「鉄のカーテン」の消滅でロシアの
武器輸出は大きく減少した。99年以降、好調な輸出や攻防発注の増加に支えられて徐々に回復の兆しがみられることに留意
する必要がある。この背後には、ユーゴ紛争やチェチェン紛争の激化によってロシアにおける国防関係者の発言権が強まっ
たことがある。2003年のイラク戦争が与えたロシア製兵器への影響は現段階では判然としないがロシア製武器の需要を喚起
することにつながると、ロシア通常兵器庁の長官は強気の見方を示している。あるいはイワノフ国防相はイラク戦争の結果、ロ
シア製通常兵器に対する関心が高まったことから、「無償の広告をどうもありがとう」とまで語っている。
予算に明示されない黙示的補助金を連邦政府や地方政府から間接的に、つまり、戦略的に重要であるガスプロムや
エネルゴ(地域の電力会社)などから受ける共謀関係が構築されている。それによって軍需企業を含めた、本来なら死す
べき多くの企業がまさに生き残っているのである。たとえば、ガスプロムはガス料金の未払いを許容すること(インフレを前提
にすると未払いを放置するだけで事実上ガス料金は割り引かれる)や、バーターや手形決済、相互補正(相殺)に際して
ガスプロムに供与される商品・サービスを市場価格より高めに評価して決済することによって顧客に黙示的補助金を供与
できる。こうすることで、私的所得と共同所得の区別が曖昧になっている。一方、エネルゴは、期限超過売掛金の放置、
収入(債権)と支出(債務)との相殺、バーターや手形の利用などによって黙示的補助金を供与している。これらは
補助金を受け取る企業とその企業の所在する地方政府などとの共謀のもとで実施されている。
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