2003年3月20日から始まったイラク戦争で、イラク側が使用した武器の中で脚光を浴びた武器が一つある。米国の主力戦車
M1エイブラムス2両を機能停止に追い込んだとされるロシア製の対戦車ミサイル「コルネット」
だ。持ち運びできるコンパクトなもので、
製造している国有集権企業《器具製作設計ビューロー》は、政府の干渉をあまり受けずに武器輸出ができる数少ない軍需企業
で、世界各国に取引先がある。冷戦期の負の遺産、ソ連崩壊の前後に独立したウクライナなどの国々が旧ソ連製およびロシア
製の武器輸出に関与している可能性もある。ソ連が無くなり、ロシアも「資本主義化」を進めているからもう安心というわけにはゆか
ないのだ。米ソ対立を軸としたわかりやすい状態から、どこに敵が潜んでいるのかわからないわかりにくい混沌とした状態に変化して
しまった。
93-2000年の世界への武器供与状況を各国別にみてみると、米国が1360億ドルで1位、2位は465億ドルで英国、3位
はフランスの293億ドル、そしてロシアが第4位の253億ドル
だった。(米議会調査報告2001年)
ソ連時代から継続的に行われてきた武器輸出を考慮すると、ソ連・ロシア製の武器が世界の安全保障において無視しえぬ存
在であることもまたたしかであろう。とくに、ロシアからの核物質の輸出の危険まで考えると、ロシアの軍需産業のもつ不気味さは
なおなくならない。核物質の安全管理には、2020年までに約22億ドルもの資金が必要という説もある。テロリストから核を守り、
安全に管理するだけでもこれだけ多くのコストがかかるわけである。
ロシア軍の誕生
91年ソ連崩壊後もソ連軍を維持しようとする動きはあったが、ウクライナなどがそれぞれ軍隊を保有することになったため、ロシアも
独自軍を形成することになった。ロシア軍は、282万2300人からなり、うち将官は2303人だった。兵員数は資料によって数字
が異なっており、創設時の兵員数を270万人とみる見方もある。いずれにしても当時にロシアの人口は1億4800万人台であった
から、人口の約1.9%が軍人で、米国の約3倍ほどの割合となる。なお、ソ連時代の88年、兵員総数は339万人にものぼった
といわれており、まさに軍事経済を実践していた。このほかに国境警備軍や内務省軍に代表される準軍隊が存在するほか、軍
属(文民)もいることを忘れてはならない。ロシア軍以外の準軍隊だけでも92年段階で52万人もいた。
ロシア軍はソ連軍当時から、陸海空三軍のほか、戦略ロケット軍、防空軍の5軍制という特殊な編成をとっていた。
核兵器関連の企業・研究所は基本的に、ソ連時代の「閉鎖都市」とよばれる、自由に行き来ができない秘密の都市に存在した
ニジニノヴゴロドにある「アルマザス16」やウラルの「チェリャビンスク70」といった都市で活動していた。「チェリャビンスク70」「トムス
ク7」「クラスノヤルスク26」の三ヶ所でプルトニウムや核物質の製造が行われていたとみられている。
プーチン政権下の軍事改革で示された情報安全保障ドクトリンとは、簡単に言えば、インターネットの利用にかかわる安全を確保
するために、インターネットを利用する個人や私的集団の権利を制限できるようにすることなどがうたわれている。eビジネスの発展を
促進しようとしている反面、ネット上の諜報活動をしやすくする面もある。ロシアには有名なエシュロンと同じような諜報活動として
業務調査活動システム「SORM」がある。コンピューターのプロバイダーの顧客が行うメールやインターネットの利用をKGBの後身で
ある連邦保安局がモニターできる
ようにするものだ。すでにバージョンアップしたSORM2が稼動している。
制服を着たマフィア
ロシアになってから過剰な兵員を抱えていたソ連時代の軍を大幅に削減することに表面上成功したかにみえる。「ロシア軍は第三
世界の予算で、第一世界の軍を維持している」ともいわれる。ロシアの資本主義化の過程は厳しい財政難から、軍人の給与未
払い、生活水準の悪化、軍内部の規律低下、腐敗の蔓延という多くの問題を引き起こしている。ロシア軍人一人当たりの経費
は年間4000ドルに過ぎず、米国はこの45倍にのぼるという説もある。国際平和維持活動に参加したロシアの軍人は、武器か
ら燃料まで闇市場に売却したという話もある。「制服を着たマフィア」と呼ばれる所以である。東ドイツから駐留ソ連軍が撤収する
際には、手榴弾や銃火器が密売され、2001年にはグルジア国営放送が、グルジアの首都トビリシに駐留するロシア軍の基地
から武器・弾薬がカフカス系の武装勢力に引き渡される状況を放送した。98年の情報ではウラジオストクの闇市において、中古
拳銃なら数十ドル、カラシニコフ自動小銃なら1500ドルで売られていたという。

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