ビンラディンは通商「アルカイダ・キャンプ」を設営し、AK-47として知られる自動小銃カラシニコフを大量に調達し、手榴弾、小型地対空ミサイル、対戦車ロケットランチャー、プラスチック爆弾も購入して貯蔵していた。まさにペシャワルはアルカイダの軍事基地そのものといってよい。AK-47とは、ロシアの銃設計者ミハイル・カラシニコフが1947年に開発した自動小銃である。AKとは「アフタマート・カラシニコフ」の頭文字である。軽量、廉価、防塵、耐久性に優れているため、大量の模造品が世界中に出回った。同様にロシア製ピストルのトカレフ銃は、銃設計の神様と呼ばれたトカレフの名前に由来する。武器アカデミーでカラシニコフの師匠がトカレフであった。
不毛の大地ロシアの「唯一の製品」なのではないだろうか?
アルカイダは国際テロ組織へと変貌を遂げる際に、東南アジア諸国を様々な角度から利用してきた。国ごとの機能を七項目、拠点、謀議の場所、中継地、人材発掘、妻と愛人、マネーロンダリング、武器・爆薬の調達先に分類してみたが、中継地を除き、6項目でフィリピンが一位の座を占めている。フィリピン人には家族と親せきの利益を守るという発想はあっても、国益という発想がないと、フィリピン人記者が私に嘆いたことがある。汚職体質がはびこり、治安機関も脆弱だからこそ、アルカイダはフィリピンを最大限に悪用できたのであろう。軍や警察など治安機関が影響力を十分に発揮できないミンダナオ島ではアルカイダは軍事訓練施設を建設してテロリストを要請してきた。大量の武器・弾薬は国内の闇市場で驚くほど簡単に入手できる。
フィリピンに次いで総合ランキングが高いのがイスラム教徒に寛容なマレーシアであった。マレーシアは現在、イスラム過激派に対して厳しい取り締まりをしているが、アルカイダに悪用された時期がある。またタイは中継地として第一位を占める。それ以外の項目でも、拠点、謀議の場、マネーロンダリング、武器・爆薬の調達先で上位にランクしており、アルカイダにとってタイの重要性は明らかだ。武器・弾薬の調達先でカンボジアが2位に顔を出しているが、長い内戦を経験したカンボジアでは武器があふれていた事情が影響している。闇市場で簡単に入手できる自動小銃や手榴弾が、タイ経由でインドネシアのスマトラ島に密輸されるルートが確立していた。これがテロ組織に流れたのである。
民が国益という発想がないのはフィリピンに限ったことではない。国益を考えている民など世界中のどこにもいない。単に民の私利私欲によって国益を失わないようにする国家体制を構築できているかが違うだけなのだ。
中東・湾岸諸国ではフィリピン人の出稼ぎ労働者が大勢働いており、アラブ人にとってフィリピン人はとても身近な存在である。サウジアラビアを筆頭に、フィリピン人がメードとして大量に雇用されている。UAEの首都アブダビやドバイのショッピングモールはフィリピン人抜きでは商売が成り立たない。ドバイの国際空港で免税品店を覗いてみると売り子の大半がフィリピン人である。むしろフィリピン人以外の売り子を探すのが難しいほどだ。耳を澄ましてみると、店員同士がタガログ語で会話をしている。
アラブ人が家族を伴って訪問しやすい国がマレーシアである。7月から8月まで、アラブ諸国は40-50度の気温に襲われるため、金持ちのアラブ人は家族で海外へ避暑に出かける。マレーシアはその格好の地になっている。イスラム教徒の掟を守りつつも、ある程度自由のある点が好評な理由だ。日本人から見ればマレーシアが避暑地であるはずがないのだが、アラブの過酷な真夏から見れば遥かに快適であろう。とりわけ9・11以後は、アラブ人旅行者が急増した。ヨーロッパに避暑に出かけると、なにかと疑いの目で見られて不愉快な思いをするため、代替地としてマレーシアに白羽の矢が立てられたからだ。
クアラルンプールは避暑地ではないが、キャメロンハイランドは日本人にとっても避暑地となりうるだろう。標高が高いので、気温が年間通して20度くらいで安定している。朝は寒いくらいだった。
http://www.ichizoku.net/2008/09/post-117.html
なかなか良い所で東南アジア在住諸君の避暑地としてはお勧めです。
東南アジアのイスラム紛争地
ビンラディンやアルカイダにとって都合のよい場所はイスラム紛争地である。アルカイダが資金援助を行い、経験を積んだ工作員を派遣して破壊活動の指南役を演じることができるからだ。
フィリピン南部のミンダナオ島は、イスラム教徒が実効支配している。もちろんカトリック教徒も生活しているが、大半はイスラム教徒である。ミンダナオ島の大都市ダバオはカトリック教徒の姿が目立つものの、郊外へ足を延ばすとイスラム社会が姿をあらわす。イスラム過激派が拠点を置いてきたことで知られるサンボアンガやコタバトはイスラム社会の中核を占めている。長年にわたってイスラム過激派はマニラの中央政府から分離独立を求め、イスラム国家の建設を叫んで爆弾テロ紛争を繰り広げてきた。中央政府や治安部隊はイスラム過激派を封じ込めることができず、ミンダナオ島での爆弾テロ闘争は現在でも、都市部を中心に毎年のように発生している。
フィリピンについで重要なのは13000余りの島を抱えるインドネシアである。スハルト政権下(1968~1998年)ではイスラム過激派への弾圧が全国的に厳しく実施され、多くのイスラム過激派は隣国のマレーシアに逃亡して、海外で拠点作りを行っていた。スハルト政権がアジア経済危機をきっかけに崩壊して社会秩序が破壊された1998年以後のインドネシアはアルカイダにとって格好の獲物になったはずだ。インドネシアのイスラム過激派が大挙して移り住んだ国がマレーシアである。カリマンタン島(ボルネオ島)ではインドネシアからマレーシアへは小船や徒歩で国境を越えられる。幹線道路を覗いて国境検問はないに等しく、イスラム過激派にとっては自由地帯である。
マレーシア北部ではイスラム原理主義運動がさかんで中央政府の世俗主義を批判してきた。2003年ごろからタイ南部で宗教対立が発生し、多数のイスラム教徒と仏教徒が殺害されている。マレーシア国境に近い南部三県(ヤラー、ナラティワート、パッタニー)は住民の大半がイスラム教徒で生活水準も低い。この地域では元々タイ陸軍が、二つの治安期間と特別開発区を設定してイスラム教徒との共存を進めてきた。ところが警察官出身のタクシン首相が登場して以来、陸軍の治安機関は解体されて、新たに警察部隊が中央から投入され、南部三県の治安と開発を担うようになった。これを境にして、警察署や交番への襲撃が起き、さらに公立学校が相次いで放火されるなど、政府と関連のある建物が標的となった。2004年~2005年の2年で約1000名が殺害されており、治安は悪化の一途をたどっている。2005年5月、タイ南部のイスラム過激派の軍事訓練施設でアルカイダの軍事訓練教本がはじめて発見されており、この地が国際テロネットワークに組み込まれる危険性は十分ある。
アルカイダ幹部がフィリピンの国内社会に深く浸透していくプロセスでフィリピン人の妻や愛人が置きな役割を演じていた。たとえば、アパートやマンションを長期で契約する場合、契約書に地元連絡先としてフィリピン女性の名前が登場した。また事務所を借りる際に不動産屋へ同行して交渉を手助けしたのもフィリピン人の妻や愛人であった。マニラ市内で銀行口座を開設する時は、アルカイダ幹部に代わって妻や愛人が続きを行っていた。長期でレンタカーを契約するにもさまざまな書類を作成する際にも英語とタガログ語が堪能なフィリピン人の妻や愛人が大活躍したのである。
ビンラディンの義兄ハリファは若いフィリピン人女性と結婚してミンダナオ島では夫婦そろってイスラム過激派のリクルートを行っていた。ハリファは多額の工作資金を調達し、複数の銀行口座を開設していたが、そのうちのひとつはフィリピン人妻の名義であった。フィリピン人妻は羽振りの良い夫に信頼を寄せ、自分の家族への仕送りも行い、ミンダナオ島での過激派リクルートにも積極的に協力していたと、現地紙で報じられている。
米国ニューヨーク世界貿易センタービルの駐車場を爆破した首謀者ラムジー・ユーセフはフィリピン人の愛人と共同生活をしていた。マニラ市内のマラテ地区の長期滞在者用ホテルにフィリピン人の愛人が頻繁に訪れていた姿を受け付けに居た管理人が目撃している。フィリピン女性を媒介に、アルカイダ幹部はフィリピン社会に急速に、しかも深く溶け込み、誰からも怪しまれることなく、地域コミュニティの一員として暮らした。日常は「スリーパー」として目だないように生活し、テロ計画を実行に移す段階でテロリストに豹変するのは工作員に共通した特色である。
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