17世紀以降の植民地を相手とする貿易において、英国の主要な輸出品は毛織物であったがインドなどの東方地域では毛織物は風土に馴染まず、結果的に英国は毛織物の輸出を諦め、金や銀と引き換えに香辛料や綿製品を輸入する貿易構造に移っていくことになる。一方でインド製綿製品が国内繊維産業を揺さぶることになり、伝統ある毛織物業、絹織物業が痛手を受けて仕事がなくなってしまったからである。英国内でインド製に負けない綿製品を製造する試みが始まり、これが産業革命の呼び水となったといえるだろう。その結果18世紀末には英国製の綿製品はインド製に追いつき、追い越すこととなる。そして英国の米国からの綿花輸入、英国からアフリカへの綿製品輸出、アフリカから米国への奴隷輸出という三角貿易が構築され、一方でインドの綿工業は急速に没落していくことになった。英国の綿製品輸出はその後20世紀前半まで100年以上にわたって世界の中心に座すことになる。20世紀初頭において世界の主要国の貿易に占める綿製品など繊維製品は約20%を占めており、そのなかでも英国のシェアはほぼ半分近いという圧倒的な規模を誇っていた。貿易量でトップの位置を占める原材料も英国が綿製品の製造に用いるために輸入する綿花の割合が大きく、これらがすべてポンド建てで取引されるのだから、ポンドが基軸通貨として君臨していたのも頷ける。
>食うために働く必要の無い私が、なぜ糸を紡ぐのか、と聞かれるかもしれない。あなたの懐に入ってくるすべての貨幣の跡を
>たどられるがいい。そうすれば、私の言うことが真実なのを実感されるだろう。何人も紡がねばならない。
by マハトマ・ガンディー うーんさすがやねぇ・・・正しいねぇ。
国内での決済であれば国内銀行同士の預金の振り替えなどで完結するが貿易の場合は、決済通貨が当事者国の通貨でなければその通貨が流通する第三国が関与することになる。たとえば、スペインの業者がドイツの企業から工作機械を輸入するとしよう。機械はドイツからスペインに運ばれる。一方、資金の決済としては金銀の地金であればスペインからドイツに貴金属が移動すればよい。だが欧州で発展した為替手形の仕組みは煩わしい貴金属の運搬を必要としなかった。ドイツ企業はスペイン企業に対し、取引銀行の信用状を発行してもらうよう依頼するのである。ドイツ企業は受け取った信用状に船荷証券と輸出手形を添えて自分の取引銀行に買い取ってもらう。これでドイツ企業は機械輸出の資金を回収できたことになる。そのドイツの銀行は買い取った手形を英国の銀行に引き受けてもらう。その手形は満期になるとスペインの銀行によって支払われるが、それは最終的には機械を輸入したスペイン企業に呈示され、輸入代金として決済される。このプロセスにおいて第三国である英国の金融機関が仲介することによって、その間のファイナンスが行われていることになる。これがポンドと英国金融機関の役割であり、簡単に他国の通貨や他国の金融機関が大体できぬ機能であった。
英国金融の始祖「マーチャントバンク」
英国で活躍したマーチャントバンクといえば、ロスチャイルド家とベアリング家が双璧である。ロスチャイルド家は18世紀ドイツのフランクフルトから始まる。古銭商から身をおこしたマイヤー・アムシェルがその家紋であった赤い盾を意味する「ロスチャイルド」商会を創立。だが本格的なロスチャイルドの国際金融ビジネスへの登場はその息子たちが活躍する19世紀であった。マイヤーは5人の息子達をフランクフルト、ウィーン、ロンドン、パリ、ナポリに「国際分散投資」するという手を打った。ワーテルローの戦いで英国ロスチャイルド家が一稼ぎしたのも有名な話だ。政府よりも先に英国ウェリントン将軍の勝利を知ったネイサンは、まず国債市場で売りに出る。ナポレオン優勢との前評判で神経質になっていた市場はネイサンが英国敗北の情報を得たものと考えて狼狽売りに出た。そこでネイサンは買い戻しに入り、巨額の益を得たという話である。
投資一族って何ですか? って聞いてくる読者が居る。こういう意味なのだよ。わかるかね? 5人の子供たちを北京、上海、ジャカルタ、ニューヨーク、ロンドンに国際分散投資するという手を打った。あるものはコモディティ、あるものはプライベートエクイティ、あるものはカジノ経営まで幅広くカバーし、その全てを横断的に、この俺が、デリバティブが、突き刺して見ているのだ。
ともあれマーチャントバンクは、英国が築き上げた世界最大の貿易構造と世界最古の財政システム、および世界最強の海外投資戦略にぴたりと寄り添う形で発展し、20世紀半ばまで英国の金融力をさせえたのである。米国や大陸の外資系資本が支配する現在にあっても、またユーロという新しい通貨圏の外にあっても、英国の金融力は至るところで発揮されている。
【金融・通貨制度】
2011.06.16: 巨大穀物商社 アメリカ食糧戦略のかげに 1/4
2010.07.12: 資本主義はお嫌いですか ~貧しい国々が豊かな国々に貸している
2010.06.02: 数学を使わないデリバティブ講座 ~測度変換
2010.03.01: 噂のストップ狩り
2010.01.07: 金融vs国家 ~国の金融への関与
2009.03.12: ゆっくり見ると為替(FX)が通貨(Currency)に見えてくる
2007.12.19: 円保有のリスクって? イギリスで学者街道を進む後輩より
金融史がわかれば世界がわかる 3/6~基軸通貨ポンドの誕生
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