ダイヤモンドと石墨
ダイヤモンドが純粋な炭素だけでできている結晶体であることがわかったのはそれほど昔のことではない。1797年スコットランドの科学者テナントが酸化条件下でダイヤモンドの結晶を加熱したところ、ひとかけらの残りかすも残さず完全に燃焼してしまい、生成物として炭素ガスを発生した。このことからダイヤモンドが炭素のみからなる結晶体であることがわかり、同時に、安価な炭素から高価なダイヤモンドをつくりだそうというダイヤモンドの人工合成の試みが始められたのである。結晶の中で原子が規則正しく配列していることは、ドイツの物理学者ラウエがX線を使ってはじめて実証し、その後、X線を使って物質の結晶構造を決定する学問が急速に発達した。ダイヤモンドの結晶構造はイギリスの結晶学者ブラッグ父子が1926年に決定し、石墨の結晶構造はフルが1917年に決定している。
劈開
ダイヤモンドの結晶に、ある特定の方向(8面体面に平行な方向)に沿って力を加えると容易に割れる。つまりダイヤモンドは八面体面に並行な方向に劈開するという特性をもっている。この特性に最初に気づいたのは、おそらくインドの宝石職工たちであったろう。不規則な形を持った原石を劈開すると、規則正しい八面体の石を作ることができる。
外から加えられた刺戟で着色中心にあるエレクトロンが励起されて起こすもう一つの現象として蛍光とか燐光などの現象がある。ダイヤモンドは暗闇の中でも光ると古くから言われている。この現象やダイヤモンドの中で最高価とされている青白い色をもった石のその青白さの原因などは。いずれもこの蛍光、あるいは燐光によるものである。太陽光線中の紫外線のエネルギーがエレクトロンを励起して燐光が発生する。ダイヤモンドには紫外線をよく通すものと、通しにくいものと二つのタイプがある。99.9%のダイヤモンドは3000Åまでの波長の紫外線に対して透明で、一方は2200Å以下ではじめて不透明になる。前者をⅠ型、後者をⅡ型と呼ぶ。さらにⅡ型のなかのまた1/1000くらいのⅡb型は普通ブルーの色をしており、かつ電気的に半導体である点が他のダイヤモンドと著しく違っている。ダイヤモンドのほとんど全てが電気的に絶縁体であるからである。ダイヤモンドが工業の分野で珍重される理由には、その以上な硬さの他に高い耐酸性と特異な熱的性質があげられる。ほとんどの酸やアルカリに犯されない。加熱弗酸でも犯すことはできない。ただ硝酸カリウムのような強い酸化剤の中で摂氏550度ぐらいで加熱すると腐食されるだけである。そのため厳しい作業条件の中でも犯されないで十分使用ができるわけである。ダイヤモンドは電気的には絶縁体であるが、熱的にはアルミニウムと同じくらい良い導体である。熱膨張係数は異常に低く、印バール(不変銅)よりも50%も良い値をもっている。作業中によって出る熱によって変化しないから、厳密な精密さが保たれるわけである。
ダイヤモンド合成
1955年春、ゼネラル・エレクトリック社、石墨のチューブの中に種子のダイヤモンドの結晶、炭素、硫化鉄を入れ、両端をタンタルの金属板で押さえたカプセルを超高圧ベルトの中に入れ、95,000気圧、1600度で数分間加熱加圧した後取り出してみると、タンタル板上に透明な三角形の面を持った微細な結晶が無数にできているではないか!GE社はダイヤモンドを人工的に合成する方法に関する広範な特許を世界の主要国で申請したり獲得したりした。その特許範囲は原理特許とも言えるほど広範なもので、その後のほとんどの人工ダイヤモンド合成の仕事がそれに抵触する可能性があるほどである。一方、デトロイト近傍に量産工場を作って、年間2~300万カラットを1959年頃から作り出した。GE社に続いて、スエェーデン、南ア連邦、イギリス、オランダ、日本、ソ連においてもダイヤモンドの合成に成功した。なかでも注目されるのは南ア連邦で、1960年には実験的に成功し、1961年には量産工場がヨハネスブルグ近くに設立され、ただちに操業に入った。現在はすでにGEと同じくらいの生産量をあげているだろう。さらにエール共和国に新しい工場を建設中であるという(GEはこの国には特許を出願していなかった)。彼らの合成方法に対してGEが特許権侵害の提訴を行うのは明らかである。それにもかかわらず南ア連邦のダイヤモンド・シンジゲートでは、人工ダイヤモンド生産を強行している。つまり天然ダイヤモンドの地位を保持するための対抗策であり、ダイヤモンド・シンジケートが事故のダイヤモンド販売の機構や系統を守るためにいかに激しい闘志と積極さとをもっているか如実に示しているものだといえよう。
天然と人工の違い
天然のダイヤモンド結晶には急速な成長を示しているような樹枝状の結晶とか、結晶状の面などは今まで全く発見されていない。結晶はほとんど全て完成された結晶面と外形とを持っている。ところが人工の結晶を顕微鏡下で調べてみると、まだ完成されていないような結晶がたくさん存在する。また結晶面上の模様は、天然の八面体の面上に必ず存在する三角形の成長丘とかトライゴンがある。しかし大部分の人工ダイアモンドにみられる模様はこれとは似てもにつかぬ珊瑚の枝のような模様である。両者の違いはX線的にも認められる。X線回析の反射点のうち、人工のものには天然のものにあらわれてこない反射があり、その上、多くの反射点に衛星状の反射点をともなっているという点である。人工ダイヤモンドはじつは純粋なダイヤモンドだけで構成されているのではなく、ダイヤモンドの結晶格子の一部を置き換えて同じような結晶構造をもった他の物質が同じ方位をもって存在しているのだろうと考えた。その物質として面心立方格子をもったニッケル金属、ニッケルの炭化物、あるいは他のニッケルの化合物を考えたのである。実際人工ダイヤモンドを分析してみると最大3%近くのニッケルが含まれている。そしてこのニッケルをは触媒として使ったニッケルがもとになって入ったものであろうということは賢明な読者のことであるから、すでにご推察になられたことであろう。
ダイヤモンド鑑定の手引き
特別の器械を使わないで鑑定するといってもまったく無手勝流というわけにはゆかない。せめて10倍ぐらいのルーペと高度を比較するための人口のルビーかサファイアの小片は用意しておきたい。ルビー、サファイアといっても人工のものは決して高価ではない。石だけなら100円以下で買えるであろう。またできうれば沃化エチレンの液を少々用意しておきたい。屈折率の違いを利用して類似の宝石と区別するためである。
まず目で見た特徴。ダイヤモンド特有の金剛光沢とカットした石に見られる虹色にきらめくファイアーである。似たようなファイアーを出すものに、白色ジルコン、ルチル、チタン酸ストロンチウムなどがあるが、一般にこれらのファイアーはダイヤモンドのものより強すぎて(色が多く出る)品がない。ダイヤモンドをみなれた人ならファイアーの違いは人目で見破るだろう。それからカットした面のみがきが非常によく、鏡のようで、石を少し動かしながら窓枠のさんや電灯などをうつしてみると、鏡のゆがみが非常に少ないのもダイヤモンドの特徴で、これはその高い硬度に原因する現象である。またブリリアント・カットした石の上部の面(クラウンの部分)を通して、石の下にあるものをのぞいてみると、何にも見えないし、逆に下の方(バビリューム側)から電燈をのぞいてみると、ピンのように小さな唯一点の光がみえるだけである。これはブリリアント・カットすると、結晶の中で光の全反射が起こり、クラウン側から入射した光はすべてもとへ帰っていって、バビリューム側の外までつきぬけないからである。クラウン側からのぞきこんだとき、実際の石の高さよりも薄い感じがするのもダイヤモンドの一つの特徴で、これはその高い屈折率に原因する減少である。決定的に判定を下せる方法は硬度を調べる方法である。カットした試供品のガードル部分をだし、人工のルビーあるいはサファイアの研磨した面にあて、少し圧力を加えながら引っかいてみる。もしルビーの方にひっかき傷ができ、試供品が今まで述べたような特徴を持っていれば、まずダイヤモンドと考えて間違いない。ガラスにはルーペで泡が見える。ただ注意しなければならないのは、これらの類似品が主として使われるのは、主宝石のまわりにつけた小粒の石の部分である点である。粒が小さいので余り注意を払わないし、またちょっと肉眼で見たばかりでは区別が困難だからである。
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