本書では、詐欺に関しては筆者の見聞と研究を読者諸賢に供したい。いわゆる「オレオレ詐欺」「宮様詐欺」などのような子供だましめいた小口詐欺は対象にしない。筆者が専門として究明しようとするのは億単位あるいはそれに近い大型一流詐欺であるし、小口詐欺に関してはすでにたくさんの本が出ている。昨今、1997年以降のわゆる「金融ビッグバン」の落とし子とも言える最先端の金融技術を証券市場内で使い、合法裡に大型詐欺的資金調達をする手法が横行している。MSワラントまたはMSCBは違法行為ではなく、最先端金融技術として合法なのである。違法性がなければ詐欺ではない。詐欺よりももっと大掛かりで、しかも白昼に堂々と開示の上で行われる。これは資金調達の虚業的方法ということになる。気安く虚業というが虚業と実業とはどこでわけるのか、違法性がなければ虚業ではないのか、ということを我が国における実業・虚業の事実の累積と理念の構築過程の両面から明らかにする。
裁判官の無知が日本の金融界を滅ぼす。
筆者は村上ファンド事件の一審判決に異議を唱える気は毛頭ないし、もっと厳しくあるべしとさえ思う者であるが、その判決文の非常識さは大いに呆れ、仰天のあまりわが眼を疑ったほどだ。裁判官は「(私は資金を預かって運用するものだから)株は安ければ買い、高くなれば売る」という村上被告の利益至上主義には慄然とする」という内容の判決を述べた。この判決文にこそ慄然とする。「株を安ければ買い、高くなれば売る」ということが悪いことなのかと判事に聞きたい。判事はおそらく生き物である金融市場、株式市場のなんたるかを少しも知ろうとせず、他の数々の不祥事件も知らず、法文と立件された事件調書しか読まずに判決文を書くのか、とさえ思う。利益至上主義というものは、普通は最低限度、法律と契約だけは守るものだ。市場での利益至上主義がいけないのか。市場で慈善運動でも展開せよと言うのか。良識を疑うような判決文はこと金融市場に関する限りたくさんあるひどいうのは法治国家の法律不遡及の原則を踏みにじった貸金業者への判決だ。貸金業者の金利グレーゾーンに相当する部分を法律改正前にまで遡って取り上げた。法律とは制定されて以降の事柄に対してのみ適用されるというのが法治国ではないのか?
スティールパートナーズに対して「濫用的な買収者」と評してその行為の正当性を退けた。同ファンドは買収を業務とするものだ。買収を機会あれば常時遂行するのは当たり前ではないか。
SECが摘発するインサイダー取引は国境を越えて一般市民にまで及ぶ。米国新聞大手にダウ・ジョーンズ社というのがある。19世紀末にダウ平均の算定法を開発した会社でNY市場に上場している。この新聞社に対して米国メディア大手のニューズ・コーポレーションが買収を打診した。その正式発表前に香港に住む中国人がダウ・ジョーンズ株を買った疑いがあるとしてSECは香港在住者にまで捜査の手を伸ばした。2007年5月のことである。ちなみに香港では2003年にようやくインサイダー取引が刑事罰になったという「遅れた市場」だ。しかもその後、関連の刑事訴追はほとんどなかった。真偽のほどは知らないが、かの国はインサイダーは諜報(インテリジェンス)ではなく正当な情報(インフォメーション)だと思われているという話だ。もちろん罪の意識は皆無だろうし、その罪の恐ろしさもあまり自覚は無いという話である。2007年2月末に生じた上海市場を端に発した世界同時株安については「上海の株式市場に上場している1300を超える企業の経理内容の不正確さは良く知られた事実であって2月末の急落はそれに端を発している。すなわち上海株式市場に上場している企業は、ほぼ例外ないくらい「粉飾」を繰り返していることはよく知られた事実といってよい」(世界大規模投資の時代、長谷川慶太郎著)
村上被告に対する実刑判決もアクティヴィストとファンド運用者の行動を峻別すべしとするものである。ファンド運用者が日本ほど尊敬を受けない国は先進国では珍しい。米国ではファンド運用者がFRB議長になったり、財務長官になったりするくらいだ。それは短期売買益のみを目的とする市場撹乱要因たるファンド運用者に対する批判と同一視してはならない。
投資詐欺 身近にある罠から資産を守る法 (講談社プラスアルファ文庫) 山崎 和邦 講談社 2008-03-19 |
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