総理は在任中に51回の外遊を行った。電話での首脳会談は数えきれない。訪問国は延べ81ヶ国、実数でも
49ヶ国を数える。国別では米国の8回を最高に、韓国7回、インドネシア4回、中国3回、タイ、マレーシア、ベト
ナムはそれぞれ2回、ブルネイ・シンガポール・フィリピン・ラオス・カンボジア・モンゴルに各1回などアジア近
隣諸国への訪問が多い。ロシアにも4回行った。これまで日本の総理大臣が訪問したことのないウズベキス
タンやカザフスタンにも訪問した。
外遊日程、訪問国の決定の一つとっても、外務省が全てお膳立てをして持ってくる。総理に就任するとまず
訪米である。次にサミットメンバー国などの先進国、中国、韓国、それから国連総会等々ということになる。
発展途上国は後回しだし、大使館はあっても大使がいない国(近隣国の大使が臨時大使として兼ねている)
にはまず行くことができない。モンゴルやウズベキスタン、カザフスタンなど、総理就任直後から行きたいと
思っていた国でも、結局訪問したのは退任直前の2006年夏である。これも5年5か月の長期政権だからここ
まで順番が回ってきただけの話で普通これらの国に総理が行くなどということはまずない。
>短命内閣は、外交的にも大きな問題あるね。
外務省についてはもう一つ言っておきたいことがある。それは「大使」の人事についてである。我が国は191
ヶ国と国交があり、117ヶ国に大使館が設置され、大使が任命されている。残りは近隣国の大使館が兼務
で管轄している。大使とは正式には「特命全権大使」という。任国において日本国を代表し、特命により日本
に関するすべての権限を付与されている存在である。任国における彼の発言は日本国の見解であり、彼が
交わした約束は日本が交わした約束になる。大使は、任国に関する様々な情報や任国と日本との外交関係
に関する意見を総理大臣に直接具申することができる。大使というのはそれくらい重要で「偉い」存在なので
あり、大使には外交官としての能力だけではなく、場合によっては政治的判断を自ら行い、政治責任を負える
ような識見と責任感が要求されるのである。
>大使って、無駄に高い所に住んで消費して任国に媚を売る役割だと勘違いしてました。
米国では大使は完全な政治任用ポストである。現在の駐日大使シーファー氏はビジネスマン出身でブッシュ
大統領の信頼が厚い人物である。歴代の駐日大使の顔ぶれをみると、かつてはライシャワー氏に代表される
ような知日派の人物が日本の国際的地位が上がるにつれて上院院内総務だったマンスフィールド氏、副大
統領だったモンデール氏、大統領首席候補だったベーカー氏など、時の政権中枢に近い重要人物が着任す
るようになった。他方、我が国では少数の例外を除いてほとんど職業外交官が大使に任命されてきた。外務
省に国家公務員として入省し、書記官、参事官、公使と上りつめた官僚が大使になる。要するに外務省役人
の上がりポストになっているのである。何度も言うが、職業外交官が全て悪いと言っているのではない。しか
し、任国で大使が果たすべき役割・責任・判断の重さを考えたとき、事務方で経験を積んだ職業外交官を順
送りで発令する、ということだけでいいのだろうか。
私は日本語を話すことのできる駐日大使を集めて会食をする、ということを以前からやっていた。日本語が話
せる大使というのは結構たくさんいる。中国の王毅駐日大使も、前任の武大偉大使も大変流暢な日本語を
話される。日本語ができる人物を大使として送り込んでくる国は、例外なく日本との関係を重視している国で
ある。少なくともそういうサインを日本に送っている国である。これに対して日本国は任国の言葉を話せる大
使をどれだけ赴任させているだろうか。語学グループがある英語圏やフランス語圏、中国語圏などはいいの
だろうが、例えば、イタリアという国はどうか。ヨーロッパの大国でありG8のメンバーでもある。歴代の駐イタ
リア日本大使の中で、イタリア語のできる人物がいったい何人いただろうか。もちろん、イタリア語が専門の
外交官(語学専門職)を大使館に配すれば大使自身は別にイタリア語はできなくてもいいかもしれない。だが
もし語学は問題ならないということなら、大使にふさわしい資質とは何だということになるのだろう。職業外交
官でなければ務まらないのだろうか。イタリアの文化や歴史に造詣の深い文化人、イタリアの政界・財界に
知己を多く持つ実業家、例えば塩野七生女史のような方を大使に任じ、それをプロの職業外交官集団が支
える、ということにしたらきっとイタリアとの関係はさらに親密になるのではないだろうか。
>塩野先生~♪ ご指名はいりました~♪
小泉官邸秘録 飯島 勲 日本経済新聞社 2006-12 |
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