半世紀にわたる東西冷戦の終結によって世界はいま、権力と価値観のある種の空白期に入って
いる。この間隙を埋めるかのように、世界各地で宗教が政治、社会の表舞台に登場してきたので
ある。旧ソ連・東欧諸国ではロシア正教やイスラム教、カトリックなどが一斉に復活、中東諸国で
はアルジェリア、トルコを中心にイスラム原理主義運動が新たな高まりを見せている。
新たな地域ブロック、ゾーンを形成
ポスト冷戦時代の新たな国家間のブロック、またはゾーンの形成が宗教を媒介にして進みつつある。
この数年の間に最も変化の激しかった、欧州大陸から中東諸国に及ぶ地域を俯瞰してみると、そこ
にカトリック・プロテスタント圏(西欧諸国を中心にバルト三国、ポーランド、ハンガリー、チェコストバキ
ア、クロアチア、スロベニア)、ロシア正教を中心とした正教圏(ロシア、ベラルーシ、グルジア、モルド
バ、ルーマニア、ブルガリア、セルビア、ギリシャ)、イスラム教圏(中東諸国、旧ソ連イスラム系国家、
パキスタン、アフガニスタン)という宗教の違いをベースとした3つのゾーンが形成されつつあることが
指摘できる。旧ソ連・東欧社会主義国の中でも、歴史的にカトリックやプロテスタントの影響が強かっ
たバルト三国やポーランド、ハンガリー、チェコストバキアが同じ宗教圏である欧州共同体(EC)との関
係を急速に深めている。一方、旧ソ連邦から独立したイスラム系五カ国(アゼルバイジャン、トルクメニ
スタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタン)は1992年2月、同じイスラム系国家のイラン、パ
キスタン、トルコで構成する経済協力機構に加盟した(カザフスタンはオブザーバー参加)。イスラム教
という共通の絆を土台に政治・経済関係を強めていていこうというねらいからである。
ロシア正教ブーム 赤の広場に教会を再建
モスクワ中心部、赤の広場入り口。「宗教は徹底的につぶさねばならない」といったソ連建国の父レー
ニンが眠るレーニン廟(びょう)からさほど離れていない一角に1991年5月、木造の小ぶりなお堂が忽然
と姿を現した。このお堂はかつて赤の広場入り口にあった聖カザン寺院復興、1612年に建てられたこ
の寺院は1936年、宗教弾圧政策の真っ只中、スターリンによって取り壊された。メーデーの「市民パレ
ードの邪魔になるから」というのがその名目だった。
ソビエト政権の弾圧
1905年の第一次革命後、ロシア正教会内部でも体制的な性格を少しでも排除しようと革命の気運が
高まる。1917年ロシア革命の年には実に約200年ぶりに総主教座が復活し、チーホンがその座につ
いた。だが、新たに政権を握ったポリシェビキの目には教会は旧体制の手本としてしか映らなかった。
弾圧が始まった。それはまた無神論を掲げる共産主義社会の建設の重要な一環でもあった。
新政権は翌1918年、教会と国家の分離を決め、教会財産を没収した。1922年、ソ連が大飢饉に襲わ
れると、レーニンは教会の貴金属などを国家に供出させた。
1929年には各地に宗教問題評議会がつくられ、教会は当局に登録を義務付けられた。これを拒んだ教
会は次々と閉鎖され、倉庫や博物館に姿を変えた。
1940年には、1917年に163人いた主教は4人に、革命前51,105人いた司祭は数百人に、帝政ロシア時
代54,174の数を誇った教会は1000足らずまで減ってしまった。第二次大戦の独ソ戦の際、ヒトラーがこ
の弾圧をとらえ、「キリスト教の解放戦争」を宣伝した時はスターリンも一時的な協会保護に動かざるをえ
なかった。スターリン批判を行ったフルシチョフも宗教弾圧には積極的な姿勢を見せた。ある時フルシチョ
フは訪れたウクライナの共産党大会でこう演説している。「われわれはあと数年のうちに『最後の信者』と
いう珍しい人間を見ることができるだろう」---。
宗教復活のきっかけはよく知られるようにゴルバチョフ政権のペレストロイカである。ゴルバチョフは教会
活動により大きな自由を与えられることの見返りに、自らが推進する改革路線への信者支持を取り付け
ようとしていた。
宗教から読む国際政治 日経 日経 1992-09 |
【宗教関連記事】
2010.09.24: 世界四大宗教の経済学 ~ユダヤ教とお金
2009.12.10: 公明党・創価学会の真実
2009.08.21: インド独立史 ~ナショナリズムの確立
2009.08.20: インド旅行 招かれざる観光客
2009.07.23: タイ旅行 スローライフと?な習慣
2009.07.22: タイ旅行 農業と宗教vs金融と資本主義
2009.07.21: タイ旅行 究極の製造業である農業
2009.07.07: 世界一レベルの低いDerivatives Investor
2009.05.07: 幸福感と欲の関係
2009.04.24: 中東の歴史 「蛮族」を迎え撃つ「聖戦」(ジハード) 反十字軍の系譜
2009.01.30: イラン 世界の火薬庫
2009.01.27: Globalに通ずる現地化度Check試験設問
2008.12.10: アラブとイスラエル パレスチナ問題の構図3
2008.10.03: 土地信奉と不動産業