信仰に関する事柄だけを述べるのが宗教ではない。どんな宗教にも必ず生活のための知恵が含まれている。古代にあっては、
まさに宗教こそが尊ぶべき知恵であった。そうした宗教に含まれているのは、「お金をどう扱うか」、あるいは「お金に対してどう
いう態度を取るべきか」という知恵
である。お金についての知恵や教えは人間の考え方、ふるまい方に影響をもたらす。その
人の発言や行動を通じて、さらに経済社会にははっきりとした影響をもたらす。つまり、宗教がお金についてどのようなことを教え
るかということで、人間社会の倫理が変わってくるともいえるだろう。
 古代から現代まで、歴史に深い影響を与えている、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教の世界四大宗教に加え、ジャイナ
教、儒教、ギリシャ古代宗教にも触れている。
ユダヤ教発生のあらまし
紀元前2000年頃、中東の名もなき遊牧民の部族長であったアブラハムというヘブライ人が、神から「カナンへ行け」と命じられ
て現在のパレスチナに向かったのが啓示宗教の明確な始まりである。その後、カナンに住んだアブラハムの子孫の一部が飢
饉や天災のためにエジプトに移住した。しかし、彼らヘブライ人の人口が増えてきて敵対するのではないかと恐れたエジプトの
王はヘブライ人たちに重労働を課した。そのときにヘブライ人を救い、カナンへと導いたのがモーゼだった。モーゼは神から幾
度も語りかけられ、神の名が明かされた。それはJHWH(かつて在り、今在り、未来にも在る者という意味。ヤハウェと読む)だっ
た。モーゼとヘブライの民は神から十戒をさずかった。しかしヘブライ人はしばしば他国の宗教の神を拝んだりした。そのうち
彼らは宗教国家イスラエルを建て、国王をも擁立した。有名な国王としては、二代目ダビデと三代目のソロモンが広く知られて
いる。イスラエル国内のエルサレムに神殿が建てられ、宗教儀式も華麗に執り行われた。だが、信仰は揺らぎその罰である
かのように他国に侵攻されてしまった。そして紀元前60年頃には、イスラエルはローマ帝国の領土になった。侵攻するローマ
との戦いの中で主に生き残ったのがイスラエルのユダ地方にすむ部族だったので、彼らはローマ人からユダヤ人と呼ばれ、そ
の宗教が「ユダヤ教」と呼ばれることになった。ユダヤ人の中からイエズスという男が出てきて十字架刑で死んだ。するとイエ
ズスこそが救世主であり、神だったのではないかというキリスト教の信仰が生まれた。そしてキリスト教徒の数が広がる勢いだ
ったのでユダヤ教徒たちは自分たちの歴史と言葉を編纂した。これが聖書である。現代日本において旧約聖書と呼ばれている
ものである。国家を失ったユダヤ人は国籍をも失い、いつも外国の居留する民とし
ての歴史が始まった。それは1948年の
イスラエル建国まで続いたのである。
ユダヤ教とお金
ユダヤ教のその経済を簡単の紹介する場合でも、ユダヤ教徒につけられた名称をまずは説明しておかなければならない。そ
れは「ヘブライ人」「イスラエル人」「ユダヤ人」、この3つの名称がみなユダヤ教徒を指すものだということだ。この3つの名称は
人種のことではなく、歴史の時代に沿って名づけられた
ものである。
 ヘブライ人とは「川の向こうを行く人」という意味がある。紀元前十数世紀の遊牧民が流浪していく様子を誰かが見て呼んだ
名称である。だからヘブライ人と記されているとき、多くの場合は古代の遊牧民のことを指す。
 イスラエルとは「神は強し」という意味だが、これはヘブライ人たちが紀元前11世紀頃に建てた国の名前である。イスラエル人
とはしかし、血統の純粋なヘブライ人たちの集合ではない。当時すでに雑婚が行われていたユダヤ人とは紀元前60年頃にローマ
帝国がイスラエルを占領して領地とし、そのユダ地方に住んでいた人々を呼んだときの名称である。それから、彼らユダヤ教徒は
ユダヤ人と一般に呼ばれるようになった。現代ではユダヤ人とはユダヤ教を信じる人のこととされる。白人もいるし黒人もいる。
民族の名称でもないし、人種の名称でもない。
お金を取られたら取り返すユダヤ人
ユダヤ人は金持ちだとか、金銭に執着しているという風説がいまだに根強く残っているが、こういう風説は長い間かかって醸成され
たデマにすぎない。しかしながら、彼らの歴史と神の言葉を記している聖書がお金に対して多く語っているのは事実である。ユダヤ
人は聖典である聖書を神からの言葉と信じるから、神が語るようにお金に対して自分の態度を決定しているのである。
「タルムード」の知恵をエッセンスの形で紹介しているラビ・M・トケイヤーは、著書「ユダヤ5000年の知恵」の中で、ユダヤ人の性
格と金銭感覚についてこう書いている。「長い間、ユダヤ人は迫害され、殺されてきた歴史を持っているが、憎しみを語った文学書
や文献は一つも存在していない。というのはユダヤ人は激しい憎しみを抱けない人間だからである。したがって、シャイロックが憎
しみにかられて「もしあなたがお金を返さないなら、1ポンドの肉を、とくに心臓を切り取って返せ」と言ったという話(シェイクスピア
作「ベニスの商人」)は、まったく架空のものであって現実のユダヤ人には起こりえないことである。シェイクスピアはキリスト教徒で
あるから、これはキリスト教徒の考え方を示しているのであって、ユダヤ人とはまったく関係がない。ユダヤ人はお金を取られても絶
対それを罰しようとはしない。あくまでもユダヤ人は相手を罰することよりも、お金を取り返すことに関心がある。だからお金のかわ
りに自動車をとったり、時計を取ったりするけどもまさか腕や心臓などをとってもそれは使い物にならないことはよくわかっているは
ずだ。」

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