メディアバッシング
私を取り巻く環境が一変したきっかけは、いわゆる「NGO問題」だった。私の圧力で2002年1月に行われたアフガン復興支
援東京会議に二つのNGO(非政府組織)が参加できなくなったと言う具枠だった。この2つのNGOは大西健丞氏がそれぞ
れ代表・常務理事を務める「ジャパン・プラットフォーム」と「ピースウィンズ・ジャパン」だ。NGOに対する費用は「草の根無償資
金」という予算が充てられる。しかし、これはおかしな話だ。「草の根無償資金」は「海外でかかる費用に対する予算」という条
件がついていたからである。その資金を国内で開催されるアフガン復興支援NGO国際会議に使うと言うのでは本来の趣旨に
反してしまう。予算の流用になる。状況によっては背任で告発されるかもしれない。外務省は頭を抱えたようだ。外務省は、
すでに大西氏をはじめ、この会議に出席する予定のNGOに対して予算支出を約束していたからだ。私の指摘で約束を反故
にすると外務省は大西氏から文句をつけられることになる。ここで外務省が考えたのは、「鈴木宗男が反対しているから予算か
らカネを出せなくなった」という筋書きにして、「鈴木宗男vs大西健丞」という対立の図式をつくることだった。
外交の世界にNGOはなくてはならない存在だ。なぜなら政府や民間から独立した組織でなければ、複雑に絡み合った利害
関係のなかで有効な支援活動ができないことがあるからだ。カネの問題は重要かつデリケートである。カネは出すが口は出さな
いということはありえない。とくに政府は甘い組織ではない。カネを出すことを通じて、徐々にNGOを支配していこうとする。日本
の場合は外務省や財務省といった行政機関が絡み、一部のNGOはいわば「政府丸抱え」の状態にあるため、自由な活動が
制限されている。このようなNGOは「Non-Governmental-Organization」の態をなしていないのである。
ムネオハウスの真実
ムナオハウスの疑惑とは、北方領土に建設する「友好の家」というプレハブは北海道道東の業者を指名するように私が圧力を
かけたというものだった。北方四島のロシア人が「ムネオハウス」などという英語名をつけるはずがない。かなり以前の話だが、
「現地には『ムネオハウス』と呼ばれる建物があり、鈴木氏の名前はかなり浸透している」という文脈で日本の新聞記者が命名
したわけだ。当時のモスクワは経済破綻の影響で北方四島に対して経済的なサポートが全くできない状況だった。地震を含め
た災害支援はおろか、日々の生活必需品すら満足に用意できなかった。「友好の家」の建物は、ビザなし訪問で滞在する日
本人が宿泊するための施設だった。しかし、あえて飯場のようなプレハブにした。北方四島についての日本の公式的な立場は、
「ロシアが不法占拠している」ということになる。したがって、基礎工事のある建築物を造ってしまうとロシアの不法占拠を助長す
ることになりかねない。いつでも撤収できるものにするというのが建前だ。ところが、日本のプレハブはかなり頑丈にできているので
ロシアの住宅などよりもよほどしっかりしている。しかし、「友好の家」は原則としてロシア人は使えないことになっている。日本から
ビザなし訪問団が訪れた時の宿泊施設という名目があるためだ。一方で、「友好の家」にはもう一つの目的があった。「北方領
土が日本に返還されると、こんな素晴らしい建物がたくさん建ちます」という地元の方々へのアナウンス効果を狙っていた。日本
基準では飯場でも、北方四島では最高の建造物だ。しかし当時そんな戦略で「友好の家」を建てているのだとロシア側に知
れたら、「ならばいりません」と門を閉められてしまう。人知れず、徐々に依存させていくというのが日本の国家戦略だった。使え
ないが、立派な建物を見ていると、早く島が日本に返還されて、このような施設を使いたいと言う気持ちがロシア人の間で広が
るという計算もあった。事実、そのような声も出てきた。
三井物産ディーゼル発電疑惑や、「ムネオハウス」疑惑で指摘された北方領土への支援事業に対する費用は、「ロシア支援
委員会」の予算から出されていた。成り立ちは1993年、渡辺美智雄外相とコズィレフ・ロシア外相との日露外相会談での
合意だった。支援委員会は国際機関だが、委員にロシア側の人間は入っておらず、実質的には外務省欧亜局ロシア支援室
が実権を握っていた。支援委員会が使う金は全額日本政府が拠出し、100億円の予算がつくこともあった。予算は倉井高
志氏が室長の時にもっとも膨れ上がった。国後島の発電所の件では、倉井氏から「私のほうでゼーマ南クリル地区長(国後・
択捉の責任者)に根回ししておきました。ゼーマから『発電所を作ってください』といわせますので、鈴木大臣、受けてください」
支援事業でこんなことをいわれたのは初めてだったので驚いた。現地からの要望ではなく、倉井氏の意思が強く働いていたのだ。
「友好の家」の建設については、おかしなことがあった。支援室権限で日揮という会社に内密で発注を決めていたのだ。この会
社は外務省OBが天下りしている会社だった。そもそも外務省と根室市・北方領土隣接地域との間で、支援事業については
地元業者を使うという取り決めしていた。そのために「友好の家」は地元の犬飼工務店と渡辺建設工業が手がけることに決ま
ったのだ。しかし、それは形ばかりのものだった。「友好の家」を建てる資材を地元の業者はすぐに用意できない。そこで、日揮に
やらせるように事前に仕組んでいたのである。こうした「丸投げ」は国内の公共事業なら違法だが、支援委員会には国内法が
適用されない。法の隙間を十分認識した上で倉井氏は仕事を進めたはずだ。このことが発覚した後も、倉井氏は日揮にきち
んとした処分をしなかった。倉井氏と日揮との間にどんな密約があったかはわからないが、彼は支援委員会を間違いなく私物
化していた。
北方領土への訪問は「ビザなし交流」という特殊な形態をとっている。パスポートやビザを持って訪れるということは、そこが外国
であることを認めることになるから日本は呑めない。妥協の産物として生まれたのが、この形態だった。しかし、そこで渡航用に
顔写真を貼ったパスポート代わりの「身分証明書」やビザ代わりの「挿入紙」というものを作った。日本側の理解ではパスポー
トやビザではないが、ロシア側の理解ではそれがパスポート・ビザに当たるという形を整えた。また、税関の記録をロシアから求め
られ提出すると、ロシアの管轄に服してしまうので、日本としては受け入れられない。そこで、税関の記録と全く同じものを「携
行品リスト」として自主的にこちら側から提出することにした。
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