「愛媛県民と私の意識の違い」を随所に盛り込んでいくつもりなので、非愛媛県人は私を自分と置き換えてよいだろう。短い滞在である私がまず行く観光として「佐田岬」を挙げると、愛媛県人は「遠い…、なんで?」という感想を抱く。観光ガイドなどでは、道後温泉、宇和島などが一般的だ。佐田岬に対する意識の違いの原因は地図である。

「愛媛県の地図を見たことがあるかね? 日本地図の中にある愛媛県を見たことがあるかという意味ではない。」

我々は通常、愛媛県の地図は見ない。これから貼り付ける愛媛県の地図を見ると、佐田岬の特異性が理解できる。一方、日本地図の一環として見てしまうと、佐田岬は見えない。まぁ、表示されているので意識して見れば観測可能なのではあるが。では愛媛県の地図をご覧に入れよう。

地図で見ると明らかな異形な場所が目に飛び込んでくるだろう。この特異点としての佐田岬の地形、フロリダ南部、イスタンブールなんかが近いような気がするが、日本では、私は知らない。ここが重要なのだ。松山に来てるから初めて愛媛県の地図を見た。そうすると・・・、今まで見えていなかった幻の佐田岬が見える。諸君ら、佐田岬の異形を知っていたかね? 一方、愛媛県人は知っているのだが、明らかにアクセスの悪い場所で何の目新しさもない。私はアジアの各都市を回っているが、このような発見があるのだよ。「実際に行ってみないとわからないこともある。」 アナログ的な遊びの言い訳に聞こえる発言ではあるが、「幻の佐田岬」の存在は、日本地図で見ている限り、認識するのは困難であろう。

ただ、地図で見ると言っても航空地図で見ると、佐田岬はまた見えなくなる。松山や今治といったわずかな平野が愛媛県において如何に価値があるかということが一目瞭然だからである。愛媛県民の視点は、地図ではなく、より実践的な航空地図で捉えていると言えよう。私は無機質な「地図」で見ているので、「幻の佐田岬」が妙に目立つ存在に見えるのだ。

佐田岬がなぜ愛媛県の代表的な観光地にならないか? だが、それは圧倒的な利便性の悪さによる。

松山-(鉄道・バス 90分~2時間 1280円)-八幡浜-(バス 1時間+ 1290円)-伊方町三崎-(タクシー 30分 チャーターで8000円)-佐田岬駐車場-(徒歩 30分)-佐田岬灯台

ボトルネックは、伊方町三崎(バス停の名前は三崎口)までのバスである。ネットで調べると、一日6本あった。ただその先の、三崎自動車タクシーというタクシー会社に直接電話して問い合わせると1日3本とか言っている。不安になって、伊予鉄バスにも電話してもやはり1日3本と言っている。俺が見ていたWeb Siteのアドレスを読み上げると、伊予鉄バスのスタッフが「南予(なんよと読む)バスですね、ちょっと調べます」とのこと。伊予鉄バスと南予バスの2系統が走っており、伊予鉄は松山から三崎口まで、南予バスは八幡浜から三崎口までなのである。何しろ、一日6本しかないバスで、行きと帰り、そしてタクシーと徒歩でかかる時間を計算する必要がある。複数人の場合は松山からレンタカーで行ってしまうのが最もコストパフォーマンスが良いであろう。

みんなには関係ないことだが、三崎自動車タクシーが番号非通知電話を受け付けず、ホテルの部屋からかけるとつながらず、フロントに頼んで電話を貸してもらってかけなければならないというおまけ付きだ。

電話で三崎タクシーを予約し、いざ出発!

2月4日日曜日9:50分にホテルを出て10:20、松山発の電車を目指す。すると・・・、いきなり路面電車の駅の周りに警察車両。「事故?信号機故障?」 路面電車の駅に向かうと警察官が「どちらまで?」、「JR松山駅です」、「今日は年に一度の愛媛マラソンで、1時間ほど路面電車は運行停止です。」 なにーーーーーーーーーーーーーーー! しらねーよ!そんなの! バスでの移動を促されてそれに従う。結果的には9:56分、勝山町発のバスに乗ったので、良いのだが、そのバスはなんと30分おきだ! 路面電車は数分待てばすぐに来る。だがバスは30分に1本だと? 運良く問題なかったから良いが、民の路面電車をマラソンごときで止めるな!

松山駅にて、八幡浜~八幡浜~と、ん? 値段が2通りある、1180円と1280円だ。ネットで1280円なのは知っていたのであるが、日曜特別割引でもあるのかと、後で精算するつもりで450円の切符を買う。この行為に何が問題あるかわかるかね? なんと、ワンマン電車&無人駅なのだ。普通なら問題ない。だが、私の乗ったのは八幡浜までは直接行かず、伊予大洲で一度降りて、乗り換えなのである。すると、ワンマン電車&無人駅の運用の場合、降りるときに清算しなければならないので、松山から伊予大洲まで払ってから下車し、伊予大洲から八幡浜までのチケットを新たに購入する必要がある。運転手さんが良い人で、八幡浜の駅で精算できますよ、と言ってくれたので無事に下車できたが、厳格に運用すれば途中下車扱いとなる。

さらに、不安を掻き立てたのが、八幡浜に向かう途中で雪が降り始めた。「おっと、ぬかったわ。天気予報調べ忘れた」。調べると、愛媛の天気は「晴れ時々曇り」。思いっきり雪が降っているが、まー、ちょっとくらい外れることもある。すぐに止む雪だ、とタカをくくっていると、まったく止まない。そして雪は降り続けたまま八幡浜へ。そして、バスをしばし、待つ。その間、バスの待合所ではテレビが流れていて、そこでは、例の路面電車停止事件の犯人「愛媛マラソン」を報道している!「あれ? 走る選手の汗が太陽光で反射してる…」。

松山から八幡浜駅あで電車で90分、距離にしてわずか53km、詳しい標高は分からないが、八幡浜駅は海に近く、松山と激しく高低差はあるわけがない。それなのに、松山は晴天の中、マラソンをし、八幡浜は雪が降っている!

バスはすぐに出発(電車の時間に合わせてバスが運行しているので、1日6本しかない割にはスムースに移動できる)、海に向かっているはずが山深く、標高が若干上がり始める。とはいえ、耳に異常を感じるほどではなく、上り坂が多いな、という程度である。だが、雪が…、雪が止まない。むしろ強くなっている! 松山が晴天なのをテレビで確認しているので、この地域だけの特殊現象。愛媛県全体の交通網が麻痺することはあるまい。

「瀬戸内海気候は温暖だと思いますか?」と聞いて、「う~ん、そうかも知れないですけど、冬は普通に寒いです」と答える人も多いであろう。だが、それは認識が違う。松山が晴天なのに八幡浜も伊方町も吹雪いている。私も帰り道に、松山駅で電車から外に降りたら、寒かった。愛媛県人は嘘をついているのではない。だが、この違い、晴天と雪。これが山に囲まれた瀬戸内海気候なのだということがよくわかる。私の母は高松に住んでいたことがあり、「瀬戸内海気候は温暖で過ごしやすい」とよく言っていたが、私の友人の今治出身者は「同じ日本、そんな変わらないよ」と一笑に付したのである。だが、彼は間違っている。彼は長く住みすぎて(多分18年間)、織りなす山々が湿った寒気を取り除いてくれていることを忘れたのだ。

山一つ越えるだけ(トンネルを何個も通っているので正確には一つではないはずだが)で、わずか50km、しかも同じ県内で。晴天と雪ってあるのかね? 松山では雪も降ってないだろうけども、八幡浜の駅から撮った写真と見比べてほしい。

この積雪状態! 50km北上した松山では晴天の中のマラソン大会だ!

ともあれ、バスは順調に進む。この奇怪な地形の伊方町だが、実際に行くと、海は左に見ていることが多く、たまに右側も海になる。だが、左右両側が海になることは無い。だからつまらんと思うだろう? だが、左が海だと思えば、今度は右が海、とバスが進むにつれ、景色が目まぐるしく変わるので、これは最終地点を想像すると、バスで本を読んでいる場合ではない。そして、道中、一番の名所は、堀切大橋である。この地名が現れたら、レンタカーを使っていくならば速度を落としてゆっくり景色を見たらいいだろう。地図で見ると確認できないが、堀切大橋こそが唯一! 両サイドシービューが確認できる場所だ。バス停などもあるので停車しても良いかもしれない。堀切大橋近傍は低速運転、かつ堀切大橋一時停止して記念撮影はお薦めだ。

そして、坂は徐々に下り坂。三崎口に向かうと雪は緩やかになり、無事に予約したタクシーがバス停で待っていた。おそらく伊方町三崎においてタクシー運転手は一人か二人くらいしか居なさそうなので、予約はすべきである。30分運転+1時間(佐田岬灯台への徒歩での往復)+30分運転で、8000円は、私が調べた「適正値段」ではあるが、4000円くらいでもOKしてくれるかもしれない。あるいは待ちも含めてメーターという交渉にもおそらく応じてくれるだろう。伊方町へのODAとチップ込みの8000円だ、まぁ良い。

ミカン畑と風車の風景も素晴らしい。そして駐車場へ。ここからは一人で徒歩だ。普通に歩けば灯台までは30分。今日はかなり風が強い方らしいが、恒常的に風は強い。歩けばわかるが、松山の周辺の山々が、この風の防風体となってくれているのだ。ここは海からの風が容赦なく吹き付ける。よろけてしまうほどの強風が襲いかかるが、その中で、お薦めは、「椿山展望台」。道しるべを辿って行ってみると良いだろう。最終目的地、四国最西端の地である「佐田岬灯台」よりも、360℃絶景は楽しめる。遥かなる九州・大分の大地が見え(正直言うと無い方が完璧なオーシャンビューなのだが)、太陽と海の景色は絶景だ。雪は降っていたが、晴れていた。夏行けば、俺が言った通りになるだろう。ただし風は強い。360度カメラで撮影しても良いかもしれない。

景色的には椿山展望台が最高であるが、せっかくだから、佐田岬灯台も見てみると良いだろう。灯台の内部には入れず、視界に灯台が入るので、椿山展望台の方が絶景なのが残念だ。「佐田岬灯台を解放し、観光誘致せよ」、これがおれが伊方町の広報戦略部に進言したいことではあるが。それ以外にも大砲など、全部見たが、もし強風と寒さで長い間滞在することがつらい場合は、椿山展望+佐田岬灯台の優先順位でかまわない。それだけで99%の満足度を得られる。