エムペサ? ケニアが通貨先進国?
「タクシーの料金を携帯電話で支払うのはニューヨークでは難しいが、ケニアのナイロビでなら簡単だ」 英誌『エコノミスト』は2013年5月の記事で、このように伝えている。ケニアが導入したのは、携帯電話のSMSで送金するエムペサ(M-PESA)と呼ばれるサービスだ。ビットコインとは違う構造のものだが、仮想通貨の将来を考えるに当たって参考になることが多いので、以下にその概要を紹介しよう。このサービスは、ケニアの携帯電話会社サファリコムに出資した英携帯電話大手のボーダフォンが07年に開始した。エムペサの代理店で現金を預けて自分のエムペサ口座に入金してもらってから、、送金相手にSMSを贈る。メッセージを受取った人は、取次店でSMSと身分証明所を提示すると現金を受取れる。『エコノミスト』の記事のよると、ケニア成人人口の2/3以上にあたる1700万人がエムペサを利用している。エムペサを通じて行われる資金移動はケニアのGDPの約25%に相当する。エムペサ代理店は、ケニア全土で約4万店ある。相当不便な地域にもある。銀行なみに立派な窓口が並ぶ代理店もあるが、物置小屋のような代理店もある。ただし、額で見ると現金のほうが圧倒的に多い。ケニアの取引の約99%は、キャッシュでなされている。エムペサの全口座残高の合計は、銀行預金残高のわずか0.2%にしかならない。これは利用額に限度が設定されていて小額取引にしか用いられないためだ。エムペサ普及の背景には、携帯電話の電話機本体や通話料が安くなったことがある。携帯電話は安ければ1500ケニアシリング程度(1ケニアシリングは約1円)。アフリカでは銀行口座を持つ人の割合は人口の10%以下だが、携帯電話の保有者は60%に上る。ケニアでの携帯電話の普及率は70%にも達する。

うむ、アジア一国一愛人構想の意義の一面、エマージングから先進国市場への還流、ここにあり。恵まれすぎていると、かえって新技術に乗り遅れがちなのだ。


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エムペサのようなサービスは「モバイルバンキング」とか「ダイレクトバンキング」といわれる。銀行の店舗に出向かなくても各種取引が利用できるようになる。それによって「ブランチレスバンキング」(支店の無い銀行)が可能となる。ケニアなどのアフリカ諸国ではこのサービスを銀行が直接提供するのではなく、携帯電話会社が提供しているわけである。現在のITの水準を考えれば、銀行サービスを利用するのに、いちいち銀行支店出向かなければならないのは、そもそもおかしいのである。日本をはじめとする先進国では、至る所に銀行の視点があって不便さをあまり感じないから支店を使っているだけのことだ。ダイレクトバンキングのほうが優れているのだから、銀行の支店網が発達していない発展途上国では、銀行システムは早晩、エムペサのようなブランチレスバンキング方式になるだろう。つまり、銀行の支店が全国津々浦々に普及すると言うビジネスモデルを飛び越えるだろう。こうした現象は、「リープフロッグ」(蛙飛び)と言われる。従来の発展形態をそのままなぞるのではなく、技術進歩があるとそれまでの段階を飛び越えて新しい段階にいってしまうのである。ケニアでエムペサが急速に普及したのが銀行システムが未発達だったためだ。銀行の支店が少なく、利用するのが容易でなかった。利用するには遠くまで行かなければならず、何時間も行列しなければならない。また手数料が最低残高維持条件があるため、利用者が限定される。ケニアの場合、銀行口座数は400万程度しかなかった。こうした状況下では、都会に出稼ぎに出ても、故郷に送金ができない。このようにこれまでの状況が不便すぎたのだ。それに対して日本では、給与は銀行に振り込まれ、駅前には銀行の視点がたくさんあり、どこにでもATMがあって現金を引き出せる。こうしたところではブランチレスバンキングに対する需要は大きくない。

そう、株式市場においても、中国の指数は単純平均ではなく時価総額加重だし、場立ちも居ないだろう? iPhoneもしかり、iPhoneの衝撃、日本人わかってないだろ? iPhoneを持っていない私に言われたくないだろうが、日本のガラケーは元々インターネットメールやウェブなど基本機能を持っていた。それに個人がパソコン、そして高速インターネット環境を持っていたのだ。ところがエマージング諸国では、ガラケーは無いし、パソコン、それに自宅に高速インターネットなど無い。iPhone一つ買えば民がインターネットを手にするという革命だったのだよ。わかるかね? パソコンと高速インターネットを持っている私にはさしたる革命ではない。ただ、エマージング諸国の民がインターネットを使えるようになったところが革命なのだ。シンガポールに出稼ぎに来ている人に電話番号を聞いても国に帰れば無効ということはなくなり、Facebook ID一つで連絡が取れるようになり、アジア一国一愛人構想を実現を後押ししたのは間違いないのだ。

日本銀行の定義のよれば、「マネーストック」とは、通貨量の残高である。M1は「現金通貨」と「預金通貨」の合計である。「現金通貨」は、銀行券発行高と貨幣流通高の合計である。また「預金通貨」は、要求払預金から調査対象金融機関が保有する小切手・手形を控除した額だ。最近時点で、預金通貨は現金通貨の約6倍ある。金融緩和を説明するのに「日銀券をどんどん刷ること」と言われることが多い。しかしこれはミスリーディングだ。金融緩和が効果を持つためには、マネーストックが増加しなければならない。そのためには預金通貨が増加しなければならないのである。それは政策当局が直接にはコントロールできないものだ。

うむ、Printing Moneyの直訳、「日銀が札を刷る」は私も違和感を覚えていた。さすが野口さんですね。いい説明だと思います。
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