FXのプレイヤーの数は多く、その中でも必死にチャートを分析しながらトレードしている素人諸君が多いであろうから、為替とチャート分析というのがいかに相性が悪いか、はっきり言えば、為替のチャート分析が、いかに主観的誤解を導きやすいか ということについて言及しよう。
これはある個人投資家が、「株よりもFXの方が、チャート分析が楽だ」と発言したので、「てめー、OTC取引、為替の一物多価性を知った上での発言か?」と思ったことが、この一筆を書くに至った経緯である。素人の発言に対してこんなに根つめる必要がどこにあるのかという読者諸君らの意見もあるだろうが、そういうテクニカル信者も数の上ではかなり多いことは認識すべき事実である。プロフェッショナル諸君も株と為替の相関などを計算する時の注意すべき点が含まれているので参考になるだろう。
日本で一般的と思われるローソク足チャートは、基本四要素、Open High Low Closeでチャートが構成される。取引所集中取引、一物一価の株式であればチャート、すなわち四本足は一意に定まるが、24時間OTC取引で一物多価で取引されるFX・為替取引のチャートの難しさについて言及しようと思う。


1.規定が難しい日足ローソク・チャート DailyのClose、前日差も主観的
24時間取引される為替取引において、引値というのはいつの時間に設定するのかも主観的に決められるため、何時時点の為替レートをもって終値と規定しているのかは、計算主体による。一般にはNYクローズが多いが、為替の前日比・前日差はNYクローズを基準にするという規則は無いので、確認が必要なのである。月曜日のオーストラリア時間始まりから金曜日のニューヨーク時間終わりまで土日を除く平日1週間連続的に取引されるわけであるが、その中で対前日比というのは用途によって使い分けなければならない。
週足で見れば、何時基準かで決まる終値の規定の影響は小さくなるだろうが、日足ローソクの場合は、時間によって陽線・陰線も逆転してしまう。逆に5分足などならば、対前日比は関係ないので、陽線と陰線は、終値時間が何時であろうが同じになる。日足ローソクと為替というのは最も悪い組み合わせなのである。
はい、そこの素人FX Trader諸君、貴君が日足チャートを見ているのならば、そのチャートのCloseの規定は何時の為替レートなのか知っているかね? また、その終値規定基準時間を動かした場合でも貴君の分析は同じ結果が出るかね? 基準時間を動かしただけで投資判断が変わってしまうなら、そのチャート分析は意味がないのは明白なのだよ。
前日差を出している計算主体
Yahoo Finance(US)と日経新聞社を同時刻に見たのだが、ご覧のように前日差には強烈な差異がある。
Yahoo-Finance-JPY.jpgNikkei-JPY.jpg
2.規定ができないひげの長さ High LowもLastも業者・配信者の主観次第
OTC取引の為替取引は、OTC各業者間の取引した価格の報告は、どの業者の価格報告を採用するのかという、為替レートの配信者の業者カバレッジ、さらには、業者から報告される価格にエラーが含まれている場合があるが、そのエラーの除去基準 という2つの主観性でLast、取引実績値が異なる
gbp2yrs.png
最もわかりやすい例、無料で誰でもアクセスできるYahoo Finance USにおいて、GBPの2年のチャートはなんとこのようになっており、2012年の初頭にGBPは1.6から0.6という暴落が起きたことになっている。貴君の見ているチャートもこの暴落が観測できるかね? Yahoo Financeのこの長い下髭は、この要素、つまり計算主体のエラー除去基準によって主観的に決められたものなのである。
はい、そこの素人FX Trader諸君、計算主体のカバレッジとエラー除去基準の違いを考慮に居れ、その差があったとしても貴君の分析結果=投資判断は変わらないと言い切れるだけの実績とロジックの検討をしたかね?
3.ペアが主観的 N個の国(正確には国ではなく通貨だが)があったら為替レートはN-1個しか存在せず、クロスカレンシーは基軸通貨のコンビネーションで複製できる。
AUDJPYのLongは、AUDUSD Long+USDJPY Longと等価である。またAUDJPY LongはJPYAUD Shortとも等価である。よって貴君が
AUDJPYのチャートを見ながら、何かしらの取引シグナルを得ている場合、そのインバースチャートであるJPYAUDのチャートを同一のチャート分析ロジックで見た時、AUDJPYのチャートを見ながら得た取引シグナルの逆シグナルを得られているか? かつまた
AUDJPYのチャートを見ながら、何かしらの取引シグナルを得ている場合、その同一タイミングでAUDUSDのチャートとUSDJPYのチャートにおいても同一方向の取引シグナルが現れているか?
ということが争点となろう。日本人素人諸君がやっていそうな円がらみのクロスカレンシー取引は原則、AUDJPYの例で示したように、対象通貨の対ドル取引と円の対ドル取引の合成で完全複製が可能である。AUDJPYと、AUDUSD+USDJPYのこの3つのチャートに完全一致性が無いならば、一体どのチャートを使って判断した結果が正しいのか? 規定することができなくなる。
私はチャート分析で将来の株価がわかるという宗教の信者ではないが、一物一価、客観的にチャートを規定できる株式に比べると為替・FXのチャートというのは上記3要素による主観的な不確定性をはらんだ、非常に”怪しい”チャートになるということだけはご理解いただきたい。この主観的な不確定性をもってしても、”テクニカル・チャート分析”を基にした取引戦略があるというのなら、この私も興味深く聞いてやろう
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