下げに対する備えの難しさについて、前回書いたところ、いく人かの読者から、意見を頂いた。
先物の売りやプットの素ロングは、長い上昇相場でとてもツライポジションとなる。負け続けて精神的にツライということではなく、負け続けると資金が減り、だんだん先細りになり、勝つ頃に資金が激減している、なんていうことが本当に存在する厳しいポジションだからである。
では長い上昇相場に耐えながらの暴落対策とは、いかなる形になるか?
2014.09.03 新オプション取引戦略の考案 2/3~基本はカレンダースプレッド

プット・レシオスプレッドで頑張ればなんとかなるかもしれないけど、暴落してもホントに儲かるの?ってくらい、あるいは中途半端に下げたらクソ損するほどに、手前を売らないといけないので、仕上がりとしてはけっこう厳しいでしょ?

で既に述べていることだが、やはり読者も、「内側売って、外側を買う」という意見であった。外は買っとけ、FOTMは買っとけ、という信仰がニワカにあるらしいが、私は今回、外を買うのも、厳しいというデータを示そうと思う。
私の友人に、オプション取引データを扱うプロがいるので、彼に「1M ATM Putの売りとATMから500円下のPutの2枚買いを、1Monthロールで続けたらどうなるか?」と聞くと、過去十数年のデータを使って、そのポジションの実績を出してくれるのである。しかし、彼も人間、たまに結果を間違うことがある。私は下記のグラフを見るだけで、その間違いに気づき、指摘するという彼とのキャッチボールが私が天才と呼ばれる所以なのである。正しく直された結果だけ見ている読者は、「なんかすごいお友達がいるんですねぇ」と思うだろうが、実は彼と私の合作なのである。(99%彼の貢献ですけどねw)
では「内側売って、外側を買う」=「1M ATM Putの売りとATMから500円下のPutの2枚買いを、2000年1月から2014年9月まで、1Monthロールで続けたらどうなるか?」(SQの寄りで作って、SQまで持ちきり、SQ値清算した場合の実績)を見てみよう。ちなみに日経平均は2000年1月18900円に始まり、2014年9月には15800円まで下げている
ATM-Put1Short-Minus500Put2Long.jpg
(縦軸はオプション単価で計算したものであるので金額ならば1000倍)
見るに耐えない悲惨な結果である。スタートが運良くITバブルの崩壊に当たっているので、最初こそは調子がいいが、あれよあれよと負け続け、02年にはマイナス圏に突入。以後、08年のリーマンショックに至るまでずっとマイナス圏を徘徊する悲惨な戦略である。


これは限月を変える、例えばATMを2Monthにしたり、ストライクを代える250円下を1枚売り、500円下を2枚買うと変更しても結果はさほど変わらない。「内側を売って、外側を買う」戦略は全般的にこの種のBehaviorとなるのである。250円刻みが始まるのが08年の9月とまた暴落の直前なので、250円下を1枚売り、500円下を2枚買う戦略も最初だけ好調だが、後はこれと同じになる。
その要因は、成分を2つに分解するとわかりやすい。まずATM Putを1枚買い続けたらどうなるかを見てみよう。
ATM-Put-Long.jpg
数値だけ見ると概ね好調、ほぼプラス圏を推移しているが、もう一度計算期間をしつこく書こう。日経平均は2000年1月18900円に始まり、2014年9月には15800円まで下げている。日経平均は2000年の高値の水準にその後、2014年まで一度も到達していない下落相場なのである。単純に先物でやれば、※3100円ほど儲かるはず なのに、ATM Putの買いはわずかに400円程度しかプラスになっていない
※SQのOpenとSQ値にずれがあるので、実際にその差を計算すると3500円の儲けになるのだが。
今回はATM Putの売りなので、売っても400円程度しかやられないのは大いに結構なのだが、では500円下を2枚買い続けた方はどうなるであろうか?
minus500Put2Long.jpg
典型的なFOTM Put買いの動きなので、覚えておくと良いだろう(残存期間やストライクを変えてもほぼこれの相似形にしかならない)。実は-3000円。つまり外は売っておけば良いと、過去は言っている。前提として、リーマンショックで一気に7000円やられていることからわかるように、ここを証拠金が耐え切れればという条件付だが。
だからこの組み合わせである「1M ATM Putの売りとATMから500円下のPutの2枚買い」は-400-3000で合計-3400円という悲惨な必負け戦略となったのである。
500円下を買い続けるグラフはとても重要で、先ほど述べたように、残存期間やストライクを変えてもほぼこれの相似形にしかならない。つまり、期待値が低く(=買い続けると負ける)、リスクが高すぎる(=売りに回ると、一発で証拠金が耐えられない)、形なのだ。まぁ、当然と言えば当然、オプション価格の妥当性を証明しているような形なのだが。「外は触るな」もう少し汎用的な格言にするならば「安いオプションは触るな。」だ。「新規で売買することはないし、売ったオプションが安くなってきたら買い戻す」のが基本だ。
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