私も長い人生、色々なお家に呼ばれ、その食卓を見てきたが、それらを総合すると、我が家=一族家の食卓は一般のそれとは少し様子が異なるようである。まず、私の目から見た一般家庭の食卓について記述しよう。
食卓の上には、1-2品完成品のおかず、もしくはみかんなどの果物が常にのっている。
冷蔵庫にはありあまるほどの食材、そして完成品のおかずがお皿にラップをかけて置いてある。
炊飯器は常に保温状態でご飯がいつでも食べられる。
という印象だ。細かいところは家庭によって違うが、一言で言えば、台所に行けば、いつも何か食べられる状態にある。この前行った関西のお宅は、普段は老人二人に住んでいるのだが、アホみたいにデカイ冷蔵庫が二つ、そのうち一つは駐車場にあり、「エキゾちゃん、ビール取ってきてや」と頼まれたので、バカッと開けると、ビールが整然と一面に敷き詰められていた。その数も圧巻・・・50~100本だった・・・。
一方、一族家の長は、当然ながら、今は亡き「母の母である祖母」だったのだが、核家族化の影響で祖母と同居していたわけではないので、私の母が、私の家の事実上の長であった。母が支配する世界、母の方針は、投資一族のポリシーの根幹であり、それは食卓にも現れていた
食卓の上に、食べ物は食事の時間以外に置かれることはない。ちなみに食卓にテレビはない。食事をしながらテレビを見るとは注意力散漫も甚だしいという母のお考えからだ。冷蔵庫には必要最低限の食材、おかずはその時食べる最小限しか作らないので、残り物は存在しない。たかが牛乳ですら勝手にぐいっと飲めば、「明日のコーヒーに入れる牛乳がなくなる」と注意を食らう。ただし、オプションであるデザート、ヨーグルト、プリン、ケーキの類は食後にのみ、節度を持って食べる自由が与えられている。妹との役割分担さえ守っていれば、怒られることはない。
炊飯器は、子供が触るものではない。母がお椀によそってくれた配給をいただく。一族家は夕飯に2合の米を炊く。私と母と妹は父が帰ってくる前に、3人で1合の米を分けて食べる。父は一人で1合を食べる。米は絶対に残らない。子供のご飯をよそうのは母がやっていたが、父は自分でよそう時に、しゃもじを茶碗にこすりつけるようにして盛り付ける姿を見て、「あのようなよそい方では、米がつぶれるわ。下品極まりなく、お里が知れる。」と嘲笑していた。また、休日など、家族四人で食事をした時、私が思わず「もう少し、ご飯食べたい・・・」などとこぼすと、決まって父が即座に、「ぉおー、俺の分を食べろ。」と言ってくる。間髪入れず、母の怒号が響きわたる。「必要無い!!どうせ後で腹が減ってイライラするのはあんた(父)だろう。」と父に言い放ち、私の要求は棄却される。
このように一族家の食卓は運営されている。そのポリシーは「無駄なものは家に置かない」だ。母が私によく言っていたのは「腹7分目」。腹いっぱい食うなどという”無駄”=”余計”なものは必要ない、という断固たる姿勢である。一般家庭の食卓のように、「いつも何かが食べられる状態」の飽食を、だらしない食生活と蔑み、規則正しく、規律ある食生活が当然とされた。いつでも、好きなだけお腹いっぱいご飯を食べることは、下賎の者の行為とされ、「食べ物は安い。だからといって、食に甘んじ、食にしか興味を持たないのは教養のない者の安易な悪習慣」とアメリカ人の食生活を批判した。
食卓は家族の”たまり場”でテレビを見ながらチョコっとつまむなどという風景は一族家では起こりえない。食事の時間は母によって決められており、食事が終わったら、食卓は誰も居なくなる。テレビは別の部屋にあり、食べるという行為とは完全に切り離されている。
繰り返しになるが、私は母に感謝している。食欲という人間が最初に持つ最も根源的な欲望を幼い頃からコントロールすることを教えてくれた。おかげで私は、現在でも、物欲のコントロールを常人よりも厳しく効かせることができる。母の運営方針である「無駄なものは家に置かない」(一族家にはソファーは無い)は、古くは利休好み、現在ではスティーブジョブズ、そして投資家としての資質を育成するのに非常に重要なことであると考えている。数学やデリバティブの知識、バリュエーション、ファイナンス理論、会社法、証券取引法? そんなものは後で覚えれば良い。徹底した無駄の排除、私利私欲にかまけない質素な生活習慣こそが、投資一族の一員には強く求められるのだと考えている。
【一族家のお家騒動】
2011.02.10: 母がシンガポールに遊びに来ました
2010.05.24: 親父に対する息子の愛
2009.09.17: 名前をカタカナや漢字で書いてはならない 
2009.05.08: 私はカネ目当てじゃない ~怒りの代償 
2009.04.09: 金(カネ)の重み 
2009.02.13: 女系家族の掟 
2008.07.09: 妹が見た悪夢 
2008.03.17: 一族家における投資教育 ~貯金と金利