ゴルフ場に異常融資した理由
王将と王将が100%出資している子会社の「キングランド」(05年に解散)が極めて不可解な動きを見せていたことが分かった。結論から言えば、王将がキングランドに設備投資金として約103億8000万円を貸し付けたのだが、王将の子会社が短期間にそれほど巨額の資金を有する事業を行うはずがないと思ったら、案の定、「キングランド」は約16億円の設備投資金を差し引いた残り87億8000万円を別の会社に融資していたのだ。これは王将が子会社を経由して第三者に投資した、つまりは他社へのトンネル融資にほかならず、その当時は極秘中の極秘事項であった。
その時、王将が多額の資金を貸し付けた相手が、U氏の経営する不動産関係会社・K社であり、貸付金のほとんどが焦げ付いていたことが、後に大東氏が4代目社長として不良債権に”大ナタ”を振るった時に判明する。90年5月、福岡県甘木市(現・朝倉市)にオープンしたゴルフ場は建設費が300億円は下るまいという超豪華なコースで、バブル経済の余韻があったとはいえ会員権も個人会員が3000万円、法人会員が6000万円、募集正会員1000人というド派手なゴルフ場であった。運営しているのは、福岡市のK社が所有するビルに本社を構える「福岡センチュリーゴルフクラブ」で、代表取締役はもちろん、U氏であった。‘‘
ゴルフ場の不動産登記簿謄本などによれば、キョート・ファイナンスなどのノンバンクや総合住金などの旧住専、信託銀行、信用組合などに混じって、工事を請け負った土木建設会社まで180億円もの根抵当権を設定。抵当権などから推定する融資額あ合計で370億円を優に超過しているとみられ、相当に無理な金策をして完成させたゴルフ場であることがよくわかる。
ところで、そのゴルフ場運営会社が入っているビルはK社が87年に買収したものであるが、3年後には旧住専の総合住金が融資のカタに極度額90億円の担保物件に設定しており、K社は借金を全く返済できず、焦げ付きの不良債権と化していた。その不良債権を96年10月に引き継いだ住宅金融債権管理機構が、翌97年9月に競売にかけたところ半年以上かかってようやく落札者が現れた。それが何と、「王将」の子会社「キングランド」であり、98年4月に所有権が「キングランド」に移転している。王将がキングランドに貸し付けた形になっている87億8000万円は、実は、K社がゴルフ場運営会社のビルを買い戻す資金になっていたわけだ。それにしても、王将は、いや王将創業者である加藤一族はなず、U氏のためにそこまでしてやらなければならないのだろうか。
> ここがこの事件の本質だと個人的には推測しているのだが、この本はそこに対する追及はそれほど深くない。


無言で海外に消えた父子
創業者の一族にまつわる闇の部分は、水面下での交渉・仲介役を務めていたU氏に関するもの以外にも、まだ存在する。加藤潔さん代目社長は、長年連れ添った妻と離婚し、長男(朝雄氏の孫)の貴司氏は息子(孫)を連れて失踪するなど、一族には何かと問題が多い。貴司氏は2003年4月、知人に連れていかれた姫路市の外国人パブで、ホステスとして働いていた10歳年下のウクライナ人女性、カチェリーナさん(当時20歳)と知り合い、恋愛関係となった。カチェリーナさんは知人とともにモデルとして来日したのにパブで働かされ、来日2週間で貴司氏と出会ったという。
貴司氏は連日のように、京都から車で通い、閉店後の深夜にデートを重ねた。そして、半年後、ウクライナで結婚式を挙げた。貴司氏の両親は「王将」の後継者候補である嫡男が外国人と結婚することに反対で式には出席せず、日本側からは二人を引き合わせた知人が立会人として出席しただけだった。翌04年には長男のダニエル雄亮君が誕生したが、潔氏は息子を勘当し、結婚を認める条件として二人が王将にかかわる資産を頼らずに自立することを挙げたため、二人はカネと家を失い、貧困の日々を送ることになった。二人は、父親が伝書鳩の小屋として使うため京都山中に所有していた、廃墟となったラブホテルの一室を改造して生活を始めたが、大方の予想通り、甘やかされて育った貴司氏はあまり働かず、消費期限切れのコンビニ弁当を食べるほど貧しい毎日だったという。イライラが募った貴司氏は新妻に暴力を振るうようになった。一度はウクライナに逃げ戻ったカチェリーナさんだが、貴司氏が謝罪し「二度と暴力を振るわない」と誓いを立てたことを信じて再び来日。いったんはヨリが戻り、第二子を身ごもったものの、再びDVがはじまり、エスカレートするようになった。「パパは怪獣だ」と母親をかばう長男にも暴力が及ぶようになったため、出産の準備と称して息子を連れてウクライナに帰国し、二度と来日しなかった。
慌てた貴司氏はウクライナに飛んでいき泣いて謝罪し、「二度と暴力は振るわない」とか「きちんと働く」「新居を建てる」など色々な約束を口にしたが、「全く信用できない」とカチェリーナさんの母親が娘と孫の来日を許さなかった。そこで08年2月、貴司氏は”仲直り旅行”と偽って妻子をエジプトに誘い出し、カチェリーナさんも母親の反対を押し切って、旅行に同行した。ところがエジプトに来て10日目の2月24日、カチェリーナさんをスパに行かせた隙をついて、貴司氏はダニエル君を連れて失踪した。失踪した翌日に父子がカイロ発関西国際空港行きの飛行機に搭乗したことが分かった。カチェリーナさんは日本で通訳のアルバイトをしながら、息子の行方を探しているが、ダニエル君は08年9月20日にシンガポールに出国した記録が残っているものの、いまだ帰国した記録がない。貴司氏の出入国については全く不明だったが、ダニエル君の出国直後、貴司氏のクレジットカードがマレーシア国内で使用された痕跡が出てきた、が、それ以上の情報は何も得られていないのが現状だ。貴司氏は今でも王将の上位にランクされる大株主で、約26万7000株を所有している。順当に行けば、毎年2000万円余りの配当収入を得られることになり、自立生活を送るという約束を守らなくても良くなった現在、生活費や活動資金には事欠かないはずである。そのカネを頼りに愛息と二人で東南アジアあたりで暮らしているとみられているが、カチェリーナさんのもとにはその消息は全く聞こえてこない。

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一橋 文哉

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