エンロンが様々な会社への株式投資をヘッジするために作ったラプター(ファストウによる出資による)は、エンロンから数億ドルも借り入れていた。ラプターはコンティンジェントなエンロン株(特定の事実が発生したときに効力を持つ株)で出資されていた。7月には株価は40ドル台後半と前年には考えられない水準まで下げていた。ラプター株も連れて下げると、エンロンはラプターを支えるためにどんどん株を注ぎ込まなければならない。このためすでに数億ドルを投入していた。ファストウがそんなにリスクの大きいハイテク株のヘッジを、自分のファンドで提供したことが意外だった。しかし今や事態が理解できた。ファストウはたった3%しかリスク・マネーを投じていないのだ。残りのリスクはエンロンの責任なのである。
アーサー・アンダーセンの会計士たちは、大きな会計上のミスに気づいていた。2001年の第1四半期にラプターを再編成したときに誤りを含む決算を承認していた。エンロンはラプターに12億の預り証と引き換えに12億ドルコンティンジェント普通株を投入していた。アンダーセンはこの額を誤って費用ではなく受取手形(資産)に計上してしまった。この誤りは2回の四半期の間見過ごされていたが、第3四半期になってこの12億ドルを減資しなければならなくなった。すでにスキリングの退任で会社に疑念の目が集まっている。どうすればうまくやれるだろう?まして株価が36ドルから30ドル近辺まで下げているというのに。レイのたゆまぬ売込み努力によって株価が持ち直すかと思われた矢先の9月11日の朝、オサマ・ビン・ラディンの手先にハイジャックされた二機の民間航空機が世界貿易センタービルに突っ込んだ。ニューヨーク証券取引所は翌週まであかなかった。再開した市場では全銘柄がまっさかさまに落ち、エンロン株も25ドルになった。
2001年11月8日、エンロンは8KレポートをSECに提出した。「この裁縫国は2001年9月までの9ヶ月間の開示済み決算報告には影響しません」文書はそう述べていた。しかし、ビジネスマスコミは鵜呑みにしなかった。ザ・ストリート・ドット・コムは「エンロンの再報告は不十分」と見出しを立てて、修正報告にはLJM1のみが反映され、LJM2について、特に厄介なラプターのビークル類については反映されてない、と暴いた。その日、エンロン株は8.41ドルまで下げた。
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エンロンは今や投資不適格と格付けされる危機に直面していた。もしそうなれば様々な簿外ビークルの負債即時返還条項が働くことは経営陣の誰もが知っていた。ワーレイ、マクマホンはオマハに飛んで、バフェットがもう一つの救済劇に興味があるかと打診した。返事は連れなかった。エンロンがどうやって金を儲けているのか、バフェットにはついぞ理解できなかったし、ヒューストンの投資家フェイズ・サロフィム同様、彼は自分が理解できるビジネスにだけ投資するのだった。


ダイナジーのCEOチャック・ワトソンは、エンロンを所有し、世界に躍り出るという誘惑には抗しきれなかった。彼はいずれにせよノーザン・ガス・パイプラインは手に入るのだと自らに言い聞かせながら、シェブロン・テキサコからの金も含む合併資金15億ドルをし払った。その数週間前には、シティコープとチェースもそれぞれ5億ドルずつ貸し付け、トランスウェスタン・パイプライン・カンパニーを担保に取っていた(銀行にとっては苦渋の選択だった。エンロンに貸し込みすぎていたので、融資を回収するには会社を存続させなければならなかったのである)。ダイナジーから金を得て、エンロンは業務を継続できるようになった。しかし総計で報告済みの35億ドルに加え、55億ドルの借金が増えていた。11月後半株価が4ドルほどになった時、エンロンはトレーディング顧客に187億ドルを負っていた。
さらにいけないのはチャック・ワトソンがエンロン買収に二の足を踏み始めているという噂が広がったことだった。スタンダード&プアーズはマクマホンに電話して、買収はあるのか無いのかと質した。もしないのなら、さらにもう一段の格下げをしなければならない。マクマホンは、すべきことをしてください、と答えた。ほぼ同じ頃、ワトソンは彼の15億ドルがどこに言ったのかと問い合わせていた。そしてエンロンの失血の実情を知ると、彼はついにタオルを投げ、合併から手を引いた。エンロンの誰からも、納得のいく説明は得られなかった。これをもってエンロン救済の最後の望みは絶たれた。11月27日、ムーディーズはエンロンをB2に格下げした。その翌日、S&PもそれにならってダブルBに格下げした。この結果、39億ドルの簿外債務のトリガーが発効した。期限は貸し手がエンロンに契約違反を通告した30日後だった。株価は27セントに落ちた。12月1日、取締役会が招集された。全員一致で破産申請が決定された。エンロンは黙ってパイプラインを渡すつもりは無かった。エンロン幹部らは悟っていた。ワトソンは最初から合併など真剣に考えていなかったのだ。彼にとって必要だったのはエンロンの知的資産、つまり社員だけだった。つまるところエンロンは単なるトレーディング会社で、トレーダーたちが動かしていた。ワトソンはしかるべき金額で、どんな優秀な社員でも雇えたはずだった。どうしてそんなことに気づかなかったのか、と誰もが思っていた。
インターネット上ではすぐにエンロンがらみのジョークが飛び交うようになった。アンディ・ファストウのSPEを物笑いの種にした。
エンロン資本主義
封建主義「あなたは二頭の牛を持っている。領主は乳をいくらか巻き上げていく。」
ファシズム「あなたは二頭の牛を持っている。政府は二頭とも召し上げ、あなたを雇って世話をさせ、そしてあなたにその乳を売りつける」
共産主義「あなたは二頭の牛を持っている。あなたはその世話をしなければならないが、乳はすべて政府が持っていく」
資本主義「あなたは二頭の牛を持っている。一頭を売り、雄牛を買う。家畜は増殖し、経済が発展する。あなたはそれを売り、その収入で引退できる。」
エンロン資本主義「あなたは二頭の牛を持っている。あなたはそのうち三頭を義理の兄弟が発行した信用状を使って公開企業に売り、オプション付きの負債エクイティ・スワップで4頭を取り戻し、5頭分の税金控除を受ける。6頭分の乳の権利はケイマン諸島で登記した、株主のマジョリティに所有される会社にトランスファーされ、その会社が7頭分の権利をすべて元の会社に譲渡する。エンロンの年次会計報告書には8頭の牛を所有すると記載され、さらにもう1頭分のオプションがついている。」
かつて世評の高かったトレーディング部門も、グレッグ・ワーレイ、ジョン・ラボラト、そしてルイーズ・キッチンらの指揮ともども、ただ同然で売られていた。これはもっともなことで、今さら悪の帝国エンロンの悪党どもと商売する者はいなかった。UBSは「買収」から9ヶ月で、同部門を閉鎖し、エンロンから吸収した800人をレイオフすると発表した。その頃、かつてスキリングが中西部の化石と誹ったウォーレン・バフェットは、エンロンのもっとも貴重な資産を二束三文で手に入れていた。今や傾きかけたダイナジーからノーザン・ナチュラル・パイプラインを9億ドル(相場の2/3だった)で買ったのである
> なんかLTCMの時と結末は同じ。最後、バフェットが死肉を漁りにくる。
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