事業債、シンジケート・ローン、相対ローンのそれぞれの市場におけるクレジットカーブ
高格付企業については市場間の違いは小さい、低格付になるに従ってスプレッドの違いが大きくなっている。高格付企業では事業債のスプレッドの方が低いが、低格付企業では相対ローンのスプレッドの方が低い状況にある。社債と貸出のクレジットカーブが交わることでクレジット市場は分断化しており、完全に裁定が行われているとは言い難い状況にある。
裁定って、相対ローンと社債だとモノが違うんだろう?
相対ローンは債権管理の面では強くないものの、基本契約である「銀行取引約定書」や個別担保によって強く守られている性格のものである。一方、公募社債は社債管理会社が設置されない場合(FA債)も多く、債権管理の面では強く守られていない。また実際に発行されている債券は、無担保かつコベナンツ(財務制限条約)が定められているものはほとんどない。法律的には優先債務のなかで貸出も有価証券も同じ優先度を持っているが、現実には債権管理や担保設定などによって優先度は異なってくる
日本には低格付けのハイイールド市場がないことがクレジットプライシングを見え難くしている。シンジケートローンの拡大によって低格付けのクレジットが評価されるようになり、これが相対ローン市場の貸出金利に反映されるべきであろう。ただし、実際に日本のハイイールド市場は相対ローンであり、その低収益と低スプレッドの存在がハイイールド市場の成立を阻害している。そうしたなかでハイイールド市場が成立するには相対ローンの正常化と同時に相応のスプレッドでも資金を調達するようなニーズが存在する環境になることが前提となる。
1990年代以降、最大の経営課題は不良債権問題であったが、信用コストが上昇した時は経済環境全般によるものとされ、特別な問題案件を除き、融資セクション責任者がリスク管理上の責をを問われ続けたわけではない。一方、この本業である貸出に対し、有価証券部門は余資運用として扱われ、業績が上がらなければ「余計なことをして損をした」かのようにみなされる。そのような潜在的な意識バイアスがある。有価証券運用に関しては時価会計導入後初の本格的な金利上昇に対し、含み損が自己資本に直入してしまう難しさも抱えている。さらに株式に対しては一段とネガティブなバイアスがかかっている。ただし、今や有価証券運用は経営そのものだ。有価証券は総資産の40%近くを占めることが見込まれるなか、有価証券運用を資金が余ったので仕方なく運用するという「消去法的」なことではなく収益機会としてどうポジティブにとらええていくかという問題意識が必要である。
透明な市場価格は、時として損益に大きなブレを起こし、ブレは安定が大好きな日本人に合わない。この本は06年に書かれているが、2012年になっても、銀行は何も改革していないし、以前と変わってはいない。相変わらず日本経済の劣後部分のリスクを取っているので、大手銀行の株価は悲惨なことになっている。
慣行から市場原理へ
そもそも金融仲介業はリスクが大きいものであり、誰もが同じ情報を持ってシステマティックに資金を右から左へ融通するといった性格ではない。金融は情報の非対称性が非常に高い。資本市場が発達した米国においても多くの中小銀行が存在することは金融が未開発な領域を残していることを示すものである。日本の閉鎖的な社会においてはなおさら他人にはわからない世界が広がっているだろう。実際、信用金庫、信用組合、第二地方銀行などの前身は相互に会員間で資金を融通する互助会的なものであった。大手銀行であっても元々は旧財閥グループの資金融通をしてきた点では「互助会」の性格を持っている。そうしたクローズドな組織の中で体化された情報は完全には市場化しにくい面も存在している。必ずしも特殊性が非効率を意味するわけではない。経済の参加者が多数いる世界では多様なニーズにきめ細かく応えることで金融仲介を行うことも重要である。画一化しないことで応えられるニーズもある。リスク・リターンが全てを決める世界が理想であるとは思えないが、閉塞感が強い日本の金融仲介を再び拡大させるためには従来の特殊な金融慣行のなかに市場メカニズムを導入することが起爆剤となる。
銀行だけじゃないんだよね、古い慣行を捨て、市場メカニズムで効率化を・・・というのは全てに対して言えるんだが、日本人はダイナミックな変化が嫌いなんだ。だから当然、否定しようがない“時価”という変化するものがある市場も、嫌いなはずだ。

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高田 創 柴崎 健

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