ギリシア神話の典拠
ギリシア神話を題材とする最も重要な詩歌はホメロスの『イリアス』と『オデュッセイア』である。この二篇の口承叙事詩はトロイア伝説を扱っている。ホメロスは前8世紀頃の盲目の詩人と伝えられ、『イリアス』と『オデュッセイア』が文字に記されたのは、前6世紀頃のことであろうと推測されている。
父と息子は、ここの事実を知り、二人で感嘆の「うーん」を発した。口承伝播から3000年の時を超えたギリシア神話、神話そのものが神なる存在だと思わないか?
第一章で扱う創世神話の典拠は、前8世紀から前7世紀にかけて生きていたと推測される詩人ヘシオドスの『神統記』である。彼の『仕事の日』という教訓叙事詩にも神話への言及が見出される。
神話とは言え、教訓叙事詩というところが宗教が香る。旧約聖書の創世記の成り立ちも比較してみたら面白いだろう。
オリュンポスの神々のさまざまな逸話は『ホメロス風賛歌』と総称される詩歌でも語られた。ホメロスの叙事詩と同じ韻律が用いられている。古代においてはホメロスがその作者と見なされたが、実際には現存する33篇の制作年代は前7世紀から前4世紀にわたっていて、作者が複数であることは明らかである。ギリシア神話は前7世紀から前6世紀に転換期を迎え、新しい文学ジャンルの台頭とともにさらなる変容をとげた。その背後には、富の増大や、植民活動の活発化、あるいは文字使用の普及など、政治・経済・社会・文化の大きな変化があった。ポリス(都市国家)という新たな政治形態の成立過程で、ステシコロス(前632頃-前556頃)やピンダロス(前518頃-前438頃)などの詩人たちが抒情詩という新しい表現スタイルに新しい時代精神を盛り込むために伝統的な神話に独自の改変を加えていった。前5世紀になるとアテナイで悲劇が最盛期を迎え、アイスキュロス(前525-前456)やソポクレス(前496-前406)、エウリピデス(前487-前406頃)などの悲劇詩人たちが神話の標準的な話形を確立した。ギリシア悲劇は数多く創作されたが、現存作品はサテュロス劇を含めて33篇だけで、そのうちの16篇の主題はトロイア伝説から採られている。この時期には散文でも神話が記録されるようになり、「歴史の父」ヘロドトス(前485-430)の『歴史』はギリシアやペルシア、エジプトの伝承を数多く採取している。前323年にアレクサンドロス大王が歿してヘレニズム時代に入ってからも、ギリシア神話はさらに変貌し続けた。アルゴ船の冒険談はホメロス以前から語り継がれていた古い伝説の一つであるが、この時代にロドスのアポロニオス(前295-215頃)がこれを『アルゴナウティカ』の主題として歌った。また誤ってアポロドロス(前180-110頃)に帰されているが、明らかにもっと後に編纂された『ギリシア神話』は、後代に神話伝説を伝える上で有益な典拠となった。以上の典拠はギリシア語で記されているが、後世への影響という点ではうしろ、ギリシア文化を継承しながらラテン語で詩作をしたローマの詩人たちの方が重要である。古典の神話が後世の西欧文化に浸透していくうえで、特にウェルギリウス(前70-19)の『アエネイス』とオウィディウス(前43-後17頃)の『変身物語』の影響力は圧倒的に大きかった。
神話の伝承者たち・・・。
オリュンポス12神
2.ヘラ(Hera) ローマでは、ユノ(Juno) 英語のJuneの語源。ゼウスの姉であり、妻。婚姻の守護神。
3.デメテル(Demeter) ローマでは、ケレス(Ceres) シリアル(Cereal)の語源。農耕や穀物を守護する女神。麦の穂がその表象。
4.ポセイドン(Poseidon) ラテン語ではネプトゥヌス(Neptunus)で英語ではNeptune。海・地震・馬の神。
クロノスとレアから生まれ、同じ両親からはヘスティアとハデスも生まれたが、彼らはオリュンポス12神には含まれない。なぜならヘスティアはかまどを守る女神として崇められ、どの家庭にもその座があったためである。ハデスは地下の冥界を領分にすることになったため、オリュンポスの住民からは除外される。以上の四柱の神々以外はすべてゼウスの子どもである。
正妻ヘラとの子ども
5.アレス(Ares) ラテン名マルス(Mars) 英語のMarchの語源。マルスの祭りが3月に行われたことに由来する。戦争の神。ローマ建国の祖である双子のロムルスとレムスの父として、ローマでは比較的重要な地位を得たが、ギリシャではあまり人気がなく、脇役にとどまる。
ヘラ以外の女神や女性とゼウスの子ども
6.アプロディテ(Aphrodite) ローマでは、ウェヌス(Venus) ホメロスではゼウスと女神ディオネの娘とされるが、海に投げられた男根の泡からという一風変わった誕生神話のほうが一般に流布している。
7.ヘパイストス(Hephaistos) ラテン名はウルカヌス(Vulcanus) volcanoの語源。妻のアプロディテをアレスに寝取られた鍛冶の神。ゼウスとヘラの子供という伝承もあるが、ゼウスに対抗してヘラが単独で産んだともいわれる。
8.アテナ(Athena) ラテン語でMinerva、戦闘女神、陶芸や機織りなどの工芸を庇護する神。オリーブの木とふくろう。
9.ディオニュソス(Dionysos) ラテン語で、バックス(Bacchus)。バッコス(Bacchos)の異名を持つ葡萄酒の神。王女セメレの子でゼウスの太腿から生まれた。図像では葡萄や木蔦、ヤギ、イルカ、ヘビなどがディオニュソスを表彰する。
10.アポロン(Apollon) ラテン語でアポロ(Apollo) レトの子 姉のアルテミスの助けを借りて直後に生まれた。若く清冽なイメージの青年神で、音楽や詩歌など芸術全般や理性、文化を守る神。太陽神ともみなされた。ダプネへの悲恋から月桂樹がアポロンの聖木。
11.アルテミス(Artemis) ローマではディアナ(Diana)。純潔を尊ぶ処女神、安産、狩猟の女神。古代の彫刻ではたいてい弓矢を手にしている。後世の絵画のディアナの額にはしばしば三日月が輝いている。
12.ヘルメス(Hermes) ラテン語でメルクリウス(Mercurius)、Mercury,Merchantと語源は同じで、商売の守護神でもある。天空を支える神アトラスの娘マイアの子。図像では旅行者を示す帽子とマントそして有翼のサンダルを身につけ、二匹の蛇の巻きついた特徴のある杖を手にしている。