仮想通貨革命 ビットコインは始まりにすぎない 1/7~集中から分散へ

本書の表題で、私は「革命」という言葉を用いた。ビットコインは(あるいはより広く仮想通貨は)いかなる意味で革命なのか。ハンナ・アレントと、『革命について』(On Revolution)の中で、「レボルーション」という言葉はもともとはコペルニクスの著作の表題『天体の回転について』(De Revolutionibus orbium coelestium)にあるように、天文学の用語であったことを指摘している。この言葉が意味するのは次の2つであった。第一に、その運動が人間の力では押しとどめることができないものであること。第二に、循環する周期運動であること。政治的な文脈においても「レボルーション」はこの意味で用いられていた。この言葉の政治的な意味合いが大きく変わった時点は、世界史上、正確にわかっているとアレントは言う。そのときを境に、第一の意味が強調されるようになり、第二の意味は忘れられたというのだ。その時点とは1789年7月14日の夜である。バスティーユ監獄での国王軍敗北の知らせをヴェルサイユで受けたフランス国王ルイ16世は、「これは反乱だ」と言った。その意味は事態を収拾する手段を王が持っているということである。知らせを伝えたリアンクール公爵は、直ちに王の誤りを訂正し、「これは革命です」と言った。その意味は第一の意味、つまり、一国王の力を超えるものであり、天体の運動を抑えられないのと同じように抑えられないということだ。

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フランス革命好きだから、本質ではない部分なのですが、印象してしまいました。

同じことが通貨革命についても言えるのである。この動きを押しとどめることはできない。なぜなら、仮想通貨はコンピュータ技術の進歩によってもたらされたものであり、従来の通貨より優れているからである。そして、優れているものは劣るものをいつかは駆逐するのである。このように言えば、「貨幣についてはそうではない。『悪貨が良貨を駆逐する』というグレシャムの法則がある」と反論されるかもしれない。しかし、この意見はグレシャムの法則を誤解しており、したがって間違っている。フリードリッヒ・フォン・ハイエクが『貨幣の非国有化』(Denationalisation of Money)で正しく指摘したように、グレシャムの法則が成立するのは、悪化と良貨の交換比率が法律によって固定されている場合だけである。両者の交換比率が変動するのであれば、良貨は迅速に悪化を駆逐する。
多くの人はビットコインに中央銀行の管理がないことを捉えて通貨ではありえないと言う。また、金などの物的資産の裏づけが無いから、信用できないという。この2つの点で、ビットコインはこれまで人類が築き上げてきた通貨の常識に逆らおうとするものでありいつかは破綻すると言うのである。しかし、金の裏付けや中央銀行による管理が通貨の必要条件かと言えばそんなことはない。預金通貨は中世イタリアの両替商で始まったが、このときすでに通貨は金貨ではなくなっていた。モノから情報に進化したのである。そして、17世紀までは中央銀行の無い通貨体制が続いた。ビットコインはこの頃の通貨によく似ている。だから通貨革命とは17世紀以前の体制への回帰だと言えなくもない。さらに言えばIT革命自体が、回帰的な性格を強く持っている。それは産業革命以前の世界、つまり小規模な独立自営業者の経済への回帰である。「時代の偉大な循環が再び始まる」のである。
産業革命は、それまでの家内制手工業を工場制機械工業に変えた。動力を用いて機械を動かすようになって、工場は大規模化した。様々な産業で、原料調達から最終製品までの全てを単一の企業で行う垂直統合方式が採用され、大企業が経済を支配するようになった。しかし、ITはこの動きを原理的には逆転させうるのである。PCが利用できるようになって、それまでの大型コンピュータと同じ計算能力を小組織や個人が持てるようになった。インターネットによって通信コストが激減したので垂直統合を分解して水平分業体制を構築することが可能になった。これは集中から分散への移行という意味で、かつての姿への回帰だ。

それはすごく感じる。私の知り合いに「おもちゃの研究」をしている先生が居るのだが、失礼ながら彼の研究テーマと年齢から言って莫大な予算がついているとは思えない。おもちゃのプロトタイプを作る時はラボの3Dプリンター(これでも個人使用の3Dプリンターの10倍程度の値段だそうだ)、量産する時は中国のシンセンの工場、さらなる大量生産は大企業が行うこととなろう。このようにIT技術とグローバリゼーションが、先生に、お試し、プチ量産、大量生産という3択を与えているのである。大量生産には大資本が必要なことであろうが、それが無くとも中小規模で、おもちゃを作れてしまうのは、まさにITとグローバリゼーションの賜物であり、その時代を背景に、最先端でご活躍されている研究者がいるということだ。

仮想通貨革命---ビットコインは始まりにすぎない 仮想通貨革命—ビットコインは始まりにすぎない
野口 悠紀雄

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