この本は、どの話も中身が無いので極めて抜粋が難しいのだが、何も書かないと分からないと思うので、

P83~85
ガイ・ハンズ、94年11月、プリンシパル・ファイナンス・グループ(PFG)設立の責任者として、ノムラインターに入社
「ガイ、君のアイデアについては、ある程度知っているつもりだが、今日は直接聞いてみたいと思う。初心者に話すつもりで分かりやすく頼む」
「わかりました。やってみましょう。途中で何でも質問してください。まず投資銀行が、企業や資産を自己資金で買収します。次に買収した企業や資産が生むキャッシュフローを証券化します。つまりキャッシュフローを元利金の支払いに充てる債券を作るのです。この債券を投資家に売って資金を調達して、最初の買収資金をできるだけ回収します。全額回収で切ればその時点で買い手の野村はリスクが無くなり、いわゆる「リスクフリー」となります」
「この手法は以前からあったのかなあ」
「米国では前からありますが、欧州ではこれからです。また「証券化」を本格的に活用した例は米国でもなく、通常は銀行借り入れで買収資金を賄っています」
「証券化する方が銀行から借りるより有利なのかな」
「キャッシュフローを利用した債券と格付け機関へ持ち込んで格付けしてもらいます。キャッシュフローの内容が安定していれば、当然高い格付けが取れますから借入コストも銀行借入よりも安くなります」
「証券化に成功すれば野村は買収資金のリスクはもう考えなくてよいのですから、次は企業価値の向上に専念します。将来の売却に備えて、エクイティバリューを高めるのです。買収した企業は色々な理由で効率的な経営を行っていないケースが多いので、積極的に経営に参加して、経営の体質改善や必要があればリストラを実施します」
「経営参加といってもガイ一人では大変ではないの」
「私はもちろん買収企業のボードに入りますが、PFGからも何人かのスタッフを常駐させます。経営トップに問題があれば、すぐほかの信頼できる人材と入れ替えますし、その他の専門家も必要に応じて採用します」
「企業価値の向上がうまくいったとして最終ステップの利益の実現にはどんなやり方があるのか、また売却までにどのぐらいの期間を見ておけば良いのか聞かせてくれないか」
「利益の実現は大きく分けて3通り。買収企業の株式の上場を通じて証券市場に売却するか、特定の買い手に企業を丸ごと売却するか、あるいは資産のばら売りです。期間は個々の案件によって異なりひとくくりにはいえませんが、まあ2年から5年というところでしょうか」
ガイとのやりとりは以上のとおり。

って、えーーーっ。ほとんど何も話していないに等しい。キャッシュフロー、証券化という単語だけ聞いておしまい? それを後押しするのが

p170
証券化はキャッシュフローが生まれるものなら何にでも適用する魔法のつえだ

この発言キテるなw こういう人間が自分の上に決定権を持って座っていると思うと頭に来る従業員の気持ちもわからなくない。証券化やデリバティブは魔法の杖ではなく、単なる分解と合成に過ぎず、それ自身が価値の向上を産みだすことはない。確かにNは「証券化、キャッシュフロー、儲かる? よっしゃよっしゃ売ろう売ろう」というような何にもわかってない役員が居るが、キチンとしたブレーンが下にいるものだ。多分、この人の下にもブレーンがいたのが分かるのが、
Guy-Hands.jpg


p89
この章の最後に、なぜPFGビジネスが成功したのか、振り返っておきたい。まずは始めたタイミングがよかった。私とのやり取りの中でガイが言っているように、当時、世界的に見てもこの種の買収で資金調達に証券化を利用した入札者は存在しておらず、銀行借り入れでまかなうのが通常であった。買収資産の産むキャッシュフローの安定性を格付け機関に説明して、よりよい格付けをとるノウハウも一般的ではなく、PFGが先駆者であった。その結果調達金利に大きな差が生じ、低い金利での調達を前提としたPFGが競争入札の買収価格設定で強い競争力を持つことができた。(もっとも、すぐにこの手法を真似する投資銀行が出てきて、競争力を保てたのも1,2年程度ではあったが)。さらに案件の供給面でも、PFGが創業した95年は、くしくもメージャー政権下で民営化の第2フェーズが始まる年であった。英国国鉄のエンジェルトレインや国防省の軍人用住宅など魅力的な大型案件が95年から96年にかけて次々に登場した。

ホラ、オヤジ、ちゃんと理解できてるじゃないか、結果的にはw 格付けを信じて債券を買うバカが居る限り、格付け機関の格付方式の裏をかくことで有利な資金調達をするのはエンロンでもサブプライムでも同じことだ。証券化だろうがSPEだろうがデリバティブだろうが、格付機関よりも”格上の設計者”が行う格付アービトラージなわけだよ。きっとNの超優秀なブレーンが成功する前の準備段階でこの話を聞いているはずだよ。役員の無能さを嘆くのではなく、この話を役員よりも先に理解してゴーサインを出させるのが、諸君らの役割だ
ただ、「話を理解できるブレーンが直接役員として、自ら裁量を持ってビジネスジャッジをした方が決断も早いし効率的ではないか!」という反論があるだろう。しかし、Nは日本の会社、日本人の従業員が多い。日本の民は感情の生き物、どんなに正当性があることを言っても「なんかアイツ嫌い」の一言で反応するものだから、日本の企業戦略として、敵を作らない役員とブレーンの二重構成を取っているのだよ。役員と従業員の、民+民サンドイッチされたブレーンになるのが嫌ならば俺のような立場になればいいが、それは”格付機関よりも格上”と自称するほど優秀な諸君らならばいつでもできる。

「ガイ、何か良いディール見つかりそうかい?」
「第1号案件としてとてもいいものがあります。パブをまとめて買えそうです。これで行きたいと思います」
「ちょっと待ってくれ。私はノムラ・インターの立て直しに来たが、水商売を始めるつもりはないよ」
「飲み屋をやろうとは言っていません。パブの経営者の事をパブリカンといいますがパブリカンは家主に家賃を払ってパブの営業をしています。いま、あるビール会社が自社保有のパブ用不動産をまとめて売りたいという話があります。これえを買収して野村が1800軒のパブ用不動産オーナーになるのです。ビール会社は最近施行された政令によって直営のパブの数を減らさなければならないので売却を急いでおり、価格も買い手有利になりそうです」
私はPFGが仕組んでくれたパブツアーなるものに出かけることになった。何しろ金融機関としてパブのオーナー第1号になるばかりか、1800軒といえば英国で営業ライセンスを持っている約5万軒のパブの4%近くに相当し、野村は一挙にパブの一大オーナーとなる。私はロンドンで日本人が経営するカラオケバーは熟知しているがパブにはあまり知識がない。少し勉強しておかなければならないという気持ちだった。この時、パブにも色分けがあることを初めて知った。ピンクパブはゲイ専門。ブルーはストリップもあるやや品の無いパブである。私が連れていかれたのは残念ながら、色つきではなく普通のパブだったが、都市型、郊外型と地域特性で選んだ何軒ものパブをハシゴして回り、ツアーが終わった時は結構できあがってしまった。

( ゚Д゚) こりゃ酷いねぇ。会社の経費を使ったパブツアーwの報告書として最悪の出来だな。これで証券業界で働く若い人たちに向けて一筆取ったと冒頭で書いちゃう感覚が理解できんわ。良いんだよ、理解できなくても実際はこうであっても。一生懸命、現場で働く現役世代たちへのメッセージの意図があるならば、せめてブレーンが書いた報告書のコピーをここでは書くようになさい。

エンジェル社の売却についても触れておこう。エンジェル社は鉄道車両関連の企業にでも売却するものと思っていたところ、意外にも金融機関が買い手として登場した。ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド、当時、登り坂の銀行である。買収の狙いは節税と聞いた。本来、エンジェル社の受け取るリース収入は、証券化した社債の満期までは社債の投資化に対する元本と利息の支払に充当される。社債の期限は証券化時点でのリース契約の残存期間に合わせてあるので、リース契約がすべて更新されるまではエンジェル社はリース料を収入として計上できず帳簿上は赤字となる。買い手はここに目をつけて、当面の節税効果を狙ったようだ。ともあれ、1997年12月にエンジェル社の全株式をこの銀行に売却。4億5000万ポンド(当時の為替レートで約900億円)の大きな利益を上げることができた。予想外の好条件で売却できたのは、買い手が節税目的であったことからエンジェル社の企業価値を事業目的の買収の場合より高めに評価したためだと思う。

ガイハンズはすごいなぁ。税金や規制は価格を歪ませる十分な理由になりうる。証券化と英国における民営化、そして節税と。うんうん。

ある日ニックが、トレードマークの濃いあごひげをなでながら私の部屋へやってきた。そして開口一番こう言い出した。「いま、シティではボーナスシーズンたけなわですが、私は野村に移っていて本当に良かったと思います。シティの投資銀行では経営トップがボーナスプール(ボーナス引当金)から、最初から自分のために多額のボーナスを抑えてしまうのが普通ですが、野村は違います。トノムラさんのボーナスはノムラ・インターのボーナスプールの枠外で、本社の役員の規定どおりに支払われます。その分、私たちの分け前が増えると言うわけです」

ガイハンズはすごいなぁ。このオヤジは、ガイハンズが「ノムラはすばらしい」と言っていると勘違いしているようだが、正確には「ガイハンズにとって割高にボーナスをくれるノムラはすばらしい」と言ったという認識は無いようである。

たしかに、私たち日本人役職員の月給やボーナスは本社の規定によって支払われ、現地スタッフの報酬体系とは異なっている。シティの法外に高い報酬水準に影響されて、ノムラ・インターの現地スタッフ幹部の報酬が、本社副社長の私よりはるかに高いのも事実である。私はこれをおかしいとか不公平だと思ったことはなかった。それぞれ立場が違うのだから、比べても仕方ないし、むしろ私よりはるかに報酬の高い腕利きを多数採用して、会社の業績を上げるのが自分の仕事だと割り切って考えていた。

・・・、もぅ・・・何も言うことはないな。確かに現役の労働者諸君が読めば、少しムッとする内容だ。イライラしたい現役諸君にはお勧めだ。ただし、諸君らにとって何の役にも立たないのは確実だw 退職組にとっては、「役員連中にこういう奴がいたとしても不思議に思わない」という冷たい感想を抱くだけだ。
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