三田氏を斬るステージ2 7/8~理論値と期待収益に対する疑問

今日は三田氏を斬るステージ2のクライマックスで~す。トレーダー諸君(ネット・トレーダーじゃねーぞw)、特にデリバティブ関係の読者はよく読んで勉強するように。

例えば、先ほどのやり取りのあった仕組債ディールにおいて、嘘つきトレーダーは、限界だと言いながら、実は自分の取り分が1%と見込んでいたとします。一方、セールスの取り分は削りに削られて0.5%だったとします。約定をして、正直にポジションをブッキングすると、合計の1.5%の利益が計上されてしまいます。セールスはそこから0.5%もらう権利があるわけですが、トレーダーには1.0%の利益が残ることがバレてしまいます。そうなると面倒なので、トレーダーはどうするかというと…、利益を圧縮するのです。例えば、全体利益が0.7%となるようにパラメーター調整(ボラティリティとか相関係数とか、客観的には決まらない、トレーダーの主観で決めても良い数値。一応、リスクマネージャーのチェックがあるので裁量の幅には限界がある)をして、本来1.5%の利益を0.7%に圧縮しておくのです。それならば、トレーダーは本当にギリギリでやっているなと思ってもらえます。当然、利益が隠されているポジションですから、パラメーターを本来の数値にゆっくり戻せば、利益がジワジワ出てくることになります。これは当のトレーダー以外気づきようがありません。セールスがトレーダーのポジションの損益を毎日モニターしていたとしてもわからないでしょう。このジワジワ現れてきた利益は、トレーダーのトレーディング能力によるものだと認識してもらえるのです。

三田さんには釈迦に説法なのは、よくわかっているのですが、ここで言及していないので、私が突っ込みを入れましょう。
レーダーが見込んだ1.5%の利益って何ですか?
こういうこと言うトレーダーも居るんです「97円の仕組債を99円で売る詐欺みたいな仕事」。この例ではセールス(販売会社・販売部門)は99円で買って、お客様に100円で売りますから1円の儲けがディール時点で確定している、これはお金です。でも97円って何ですか? 誰が決めたんですか? 差額の2円はどこにあるんですか?
正確に表現するならば、97円だと仮定して「97円」と言ったのがトレーダー。
97円は理論値と呼ばれ、社内の関係各部署にオーソライズされた評価モデルが、指し示す数値にすぎません。その評価モデルって何ですか? それは市場の動きを色々な仮定・想定をした上でモデル化して、デリバティブの条件の期待値を計算する”単なるプログラム”です。
誰が作ったんですか? 答えは三田さんであり、私です。同じ仕事だから分かるんですw だから、モデル化の際の仮定が、現実の市場の動きと違う、違った時にどんなことが起こるのか?ということもよく知っています。でもセールスと毎日価格交渉する役割、これは間違いなくトレーダーですが、ジュニアであることが多く、それをわかってない。ヘッド・チーフトレーダーは理解していますが、ヘッドは細かい毎日のディールに直接関与しません。
差額の2円のありかは、もしモデルの想定通りに市場が動き、「ヘッジ=株と債券による複製」が実現して、初めて手に入るお金であり、ディールした時点では、2円なんてどこにもありません。実際の市場の動きと想定が違い、2円の儲けが、3円になることもあれば1円になってしまうこともあるでしょう。極端なリスクをトレーダーが張らなければ、普段の平常時のマーケットならこのくらいのブレなので可愛いものです。でも、理論上の想定からすると100年に一度の大暴落が数年に一度は起こります。そうすると…、-5円、-10円となる可能性もあります。
例えば、決定論的ボラティリティ、ボラティリティがストライクによって異なることは認めているが、時間によって確率変動することを認めていないモデル化で評価していると…、株価の暴落によってボラティリティが爆発した場合、Vegaは減少して、高いところでVolatilityを買わなければいけない状態に追い込まれた時のことを知らないモデルです。Volga Longなら高いところでVegaを売れるわけですが、実際にはVolga Shortな状態になるような金融商品が多いこともよくご存知のはず。実際のヘッジコスト(益)が、実現しないことは当たり前に起き、その2円の危うさがあるからこそ、デリバティブデスクで損失が出たりするのです。(まぁポジション隠しの詐欺に比べると可愛い金額だったりします)
では、絶対負けないようにするために-5円、-10円を想定して、評価上85円の商品を99円で売れますか? そこまでやるとさすがにみんなにバレてしまい、ディールになりません。リーマンショックなどの大変動では大損を出してしまうトレーディングデスクもあり、トレーディングヘッドの首、トレーディングデスクの損失・廃止、あるいは会社の倒産を引き起こすことがあり、トレーディングのリスクに対する対価であるマーケット・バリューが2円なのです。この2円を確実に実現させることができるならば、ディーリングでの損など出ません。
2円の収益がどのくらい危ういものかよくご存知の三田さんが、「デリバティブズ・トレーディング部門が、顧客・セールスから搾取している」と発言していることに私は大きな疑問を感じていますトレーダーが責められるべきは、顧客やセールスからではなく、その危うい期待収益2円を根拠に莫大な報酬を”もらっていた”ことを、会社、その株主からであるはずです。それはリーマンショック後に実現しており、ショック前に比較すれば明らかにその報酬・待遇は悪くなっていて制裁されています。
さきほど販売会社とセールスは99円で買って、顧客に100円で売るから1円のお金が実現すると言いましたが、私が扇動し販売していたとある金融商品の元本部分(利息部分はギャランティーなので確保)が0に近い値段まで落ち込み、訴訟問題になったことも小さく新聞に取り上げられたようでした。またアジア(ことに香港・シンガポール)でも、リーマンのミニボンドなる仕組債が、デリバティブの条件、株価が下がったら損失をこうむることについては説明を受けていたが、債券の発行体であるリーマンのクレジットリスク、リーマンが倒産したらゼロになるリスクについては聞かされていなかったとし、訴訟問題に発展しました。
ここで第1章の「後の三田さんの発言においても、百戦錬磨の”たたき上げの中小企業の社長の実力をわかってない”ように感じられるので、後で厳しく追求します。」について言及します。1ショット1億円以上の仕組債を買うようなお客様は、販売会社が少しでも隙を見せたら(例えばリーマンのクレジットリスクに対する説明をしていなかったこと)、訴訟して金を取ってやろう、というタヌキです。確かに金融工学は知らないし、”理論値”は計算できないでしょうが、デリバティブ契約以外も含めた上での総合判断、例えば、IPOの割当をもらう、娘が勤めている、自分の会社が上場する際は主幹事証券会社として、学校法人なら学生の就職先として…、などなど、様々な思惑込みでお付き合いいただいています。
確かに顧客やセールスが、理論値を知らないことを良いことに、理論値をごまかして利益を隠したり、コミッションの按分を有利に振り向けたりすることはありますが、そもそもの理論値、さらに理論値と売却値のスプレッドである期待収益を正確に予想・実現できない以上、デリバティブ・デスクもその価格をわかってない。ですから、1.5%の収益を0.7%とうそぶくトレーダーを、セールス・顧客を騙して自分だけが儲けているという発言は、金融工学至上主義のように思えてしまうのです。まったく金融工学を理解していないトレーダーがそういう勘違い発言をするのは、よくあることなのですが、作り手である三田さんが金融工学・モデリングの不確実性を理解していないはずは無いので、三田さんはセンセーショナルな文章を書きたかったというのが本音なのでしょう。なので、そこの部分の乖離を今ここで「ツッコミ」とさせていただきました。
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デリバティブズトレーダーに求められる能力は
リスク管理能力 反対売買できないものを、いかに他の商品を使ってヘッジしていき、最小限のコストでリスクを落としていけるかという能力
バリュエーション能力 取引対象の価格算定能力。反対売買できるものならば、反対売買価格を参考にして決められるが、反対売買ができないものは、ヘッジポジションの構築に要するコストを積算していくことで価格算定していく。よってリスク管理能力と密接につながっている。ヘッジが不可能なものに対しては、価格の振れ幅を見込んで、最低の採算ラインはどのあたりかを見込むことも求められる。
トレーダーなのに、取引対象物の価格(例えば株価)が今後上がるか下がるか?ということにはほとんど関心が無い人が多いのです。ヘッジするのが行動の基礎となっているからです。例えば、彼の言い分はこうです。「株価が上がる確率と下がる確率は半分半分なので、デルタにベットしても有意に勝てません」と、オプション理論の教科書に書いてある通りの”株価はランダムに動く”という考えに基づいた返事が返ってきます。もちろん、自らリスクを取りにいって稼ぐデリバティブズトレーダーもいますが。顧客取引で楽に稼ぐことに慣れてしまったデリバティブズトレーダーは自力で稼げといっても無理なのです。他のトレーダーとは求められている能力が違うのです。顧客取引から受動的にのみ稼ぐことしか知らないデリバティブズトレーダーは、仕組債のフローが減ってしまった今では数少ない取引から搾り取れるだけ搾り取らないと生きていけないのかもしれません。セールスが汗を流して集めてきたディールの上澄み液を、デリバティブズトレーダーがチュ~チュ~吸い上げている音が今日も聞こえてきます。

> 顧客取引で楽に稼ぐことに慣れてしまったデリバティブズトレーダーは自力で稼げといっても無理なのです。
事実です。まったくの事実で否定しようもありません。
> 他のトレーダーとは求められている能力が違うのです。
“他 “というのは何を指しているのかわかりませんが、少なくともプロのトレーダー、金融機関で働いているトレーダーならば、取引対象が株でも為替でも債券でもデリバティブでも、対顧客取引、流動性を提供することで顧客から得られる対価が収益の源泉なのでは無いでしょうか(って三田さんご自身も株式トレーディングの章で書いていたような・・・)。もちろん顧客取引が一切無いプロップもありますが、ご予算的には小さいものだと思います。それから顧客から頂いたスプレッドを基に、リスクを取ってさらなる収益を追求する、ということはありますが、それはデリバティブデスクも同様に努力していることだと思います。自分で稼げる人ってのは、運良くw生き残っているネット・トレーダーと、自称・天才の私くらいではないですか?
> トレーダーなのに、取引対象物の価格(例えば株価)が今後上がるか下がるか?ということにはほとんど関心が無い人が多い
これはダメですが、
> デルタにベットしても有意に勝てません
これは批判に値しないと思います。デリバティブのトレーダーなのに、デルタの勝負に出る人は、隣のエクイティのトレーディングデスクに異動してください。もちろん、ガンマなのかデルタなのかよくわからない領域の範疇ならば、”株価変動要因”のリスクは取らなければなりませんが。ガンマもないのに、デルタ取ってたら、デリバティブのクセに何してんの? 越権行為です。デリバティブデスクにおいてデルタリスクを取るのは、そもそもデルタをどのように規定するかであるべきで、「なんか安いと思うから買う」という判断が許されるのは株の部隊です。

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