最適行使モデル主題による交響的変容 2/2 ~離散配当

1.離散配当
2.転換時期制限(これが無ければ全ての点で、行使価値と継続価値を比較するわけだが、一般に個別株のアメリカンオプションの新株予約権やストックオプションは、転換できない時期があるので、これも加えよう。)
3.キャッシュ・フロー(オプション自身期中に何かのキャッシュフローが発生することは普通は無いが、転換社債・債券型に拡張するために、期中、評価するデリバティブが生み出すキャッシュ・フローも評価できるようにする。)
4.セトルメントディレイ(行使してから株が来るまでの期間が0ではないことに対応)
これだけならバイノミアルでも対応できるのであるが・・・、パラメーターの期間構造やVolatility Skew、モデル・パラメーター的に、そこまで拘らないにしても、配当・転換時期・キャッシュフローなどというイベントに焦点を当てて、イベントごとに時間を区切ったり、現在に近いところを細かく刻んだり、という拡張性に向かない。バイノミアル・ツリーの本質は先ほども述べたように、u・d=1で、元に戻りながら進んでいくところが肝であり、そこが大きな制約条件となる。
期間構造、Skewや主観的な時間区切りなどへの拡張性を意識しているので、三項間確率漸化式、Trinomial Tree(トリノミアルツリー)を登場させよう。拡張性、つまりTreeの格子の大きさを変えることを意識しているので、ここでは有限差分法(Finite difference method)と呼ぶのが適切だろう


有限差分法(以降FDM)で、上記の3条件を加えて書くと、この私をもっても2-3時間では済まなかった。ソースコードの長さは、コピーすればA4の2ページ程度(ヨーロピアンやバイノミではほぼストレートにコーディングされているが、このレベルになると間違い、デバッグの軌跡が残るコメントアウトされた部分が、本質部分に加えて1~2ページ程度まで膨らむ、汚いコードとなっている)、約1日強かかってしまった。ここまでやるからには違いがあるから作っているわけで、ヨーロピアンの評価モデルで、アメリカンを評価するのは論外として、アメリカンでも3時間で作れるWikipediaクラスのアメリカン・オプションの評価モデルとの違いを説明していこう。
あっ・・・まだ読んでる人いる? 東南アジア放浪記では退屈だ という読者が居るのは知っているのだが、これついて来れる読者皆無だろ・・・。業界内(証券業界・市場関係者という意味ではなく、デリバティブ・トレーディング業界内という意味において)でも、なんとなく名前くらいは聞いたことあるけど・・・、という単語が並んでいるのだが、いわゆるデリバティブ・クオンツ=数学者達から見れば、ここで書いてあることは、理論的な小難しいことではなく、全く数学的でない実践的な”マーケット事情”についての解説なのである。
離散配当をFDMに組み込む際も、作り手の主観が反映されることになろう。なぜならば、配当率(額)と期間に寄るが、FDMで展開される中での最も低い株価、つまり、現値S(0,0)を(1/u)^nしていくうちに
S(t,0)=S(t-1,0)/u-dividend
がマイナス(株価S(t,0)がマイナス)になった時点で幾何ブラウンの崩壊
となる。インプットを配当率で設定しても良いが、一般には日本の個別株は安定配当を基として、直近配当額は不変の傾向にあるので、配当額で認識しつつ、DivYield=配当額÷S(i,i)、あるいは-Ln((S(i,i)-配当額)/S(i,i))で配当率を定義し、S(t,0)=S(t-1,0)/u*exp(-DivYield)あたりで規定してあげれば株価がマイナスになることは無い。
1.配当:実際の配当イベントは、離散配当なので、離散配当と連続配当でどのように違うのか? 説明せよ。 あえて問題形式にして読者に問いかけてみよう。
1yearのAmerican Call Optionにおいて、Underlying Price 100として
1)配当率1%で連続的に配当する
2)明日1の配当が落ちる。
3)満期直前に1の配当が落ちる。
これらの大小関係を推定して理由を述べよ。
はい、問題終わり。次から普通に解説していく。
2.転換制限:転換可能期間を満期のみに設定すればヨーロピアンに帰着する。
私が苦戦してしまったのは、FDMの推移確率の中に出てくる、配当落ちの際のMoneynessの規定である。いつもの癖で、配当落ちの効果も含めてしまったが、これは必要無い取り越し苦労だ。株価を直接 *exp(-DivYield) で動かしているので、推移確率にまで配当落ち効果を含めてしまうと二重効果になってしまうのである。これを発見するのに10時間程度のトライ&エラーを繰り返した。
配当落ちの効果が効き過ぎている。行使価格1円にして、この転換制限を満期にすると、いわゆるヨーロピアンになる。アメリカンの0ストライク・コールは、配当落ちの影響を受けないので、この機能を使って、ヨーロピアン化することで、このMoneynessに原因があることを突き止めた。
3.キャッシュ・フロー:転換社債対応のために必要だ。
転換社債いわゆるConvertiblesのもう一つの特徴は、アメリカンオプションのペイオフであるMax(S-X,0)ではなく、Max(S/X,100)となる。あえて、ここでキャッシュ・フローと言っているのは、100じゃなくて、適当な価格を設定できる設計になっているからだ。株数設定もX÷株数で入力すれば対応可能である。そして、ここまでやるからには、Credit Spreadも加えるべきであろう。転換社債は、デリバティブの総合芸術、究極のハイブリッドプロダクトゆえ実に深いのであるが、アメリカンオプションでここまで作っておけば、超簡易的な次元で対応できる。
4.セトルメントディレイ:バリュエーションそのものに大きなインパクトはもたらさないが、実務的に必要な機能と言えよう。
読者の希望を聞いて、デリバティブについて書いてみたが、結果としては、個人投資家の世界とはかなり縁遠いことを書いてしまった。業界内の読者も居るのでまぁ良いだろう。市場価格がある流動性の高い先物、スワップ、オプションだけがデリバティブではない。しつこくもう一度言っておこう。高流動デリバティブはトレードするためのデリバティブであるが、低流動・非市場性デリバティブは、バリュエーションするデリバティブに位置づけられ、逆に投資性を帯びてくるのである。
投機と投資の違いを参照のこと。
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