既に書いたことだが、あまりにも誤った記述が氾濫しているボラティリティ・インデックスについて、再度、書こうと思う。
ボラティリティ・インデックス(以後VI)やVIの先物(Futures)の計算方法や清算方法を見れば明らかだが、ボラティリティ・インデックスとはオプション・バスケット(オプション・プレミアムの和)である
VIX Futures:S&P500の上場オプションの和でセトルされる。
日経ボラティリティ・インデックス先物:日経の上場オプションの和でセトルされる。
上場オプションの和とは、上場オプションプレミアムを加重平均で足すだけである。このオプション・プレミアムの加重平均は、幾何ブラウンを想定すると、分散(Variance)=標準偏差(Volatility)^2になる。細かい式はLog Contractをキーワードに検索すると得られるが、今回はArbitragerとHedger諸君が対象ではなく、Speculatorとしての市場参加者を想定しているため、あえて数式を省略しよう。Speculator諸君にとっては
ボラティリティ・インデックス=オプションプレミアムの加重平均=Volatility
という理解でかまわない。ただし、ここでいうVolatilityとはImplied Volatility(IV)を指す。このIVに関してもHistorical Volatility(HV)と比べて、割安・割高などという意味不明な記述が多いので、これも改めて書くが(既に書いているのだが)


Historical Volatiliyとは、過去の株価のLog Returnを取り、その標準偏差を年率換算したものである。Daily ReturnやWeekly、最近はもっと短く1時間足などでも計算可能である。また高安(High,Low)なども考慮して計算する修正パーキンソン法などもあるが、その本質は”過去の株価のLog Returnの標準偏差”でUnderlyingと期間で規定される概念であることを繰り返しておこう。だから日経平均指数の1ヶ月、DailyのHVという(Underlying、期間、計算方法)の3要素でユニークにHVを規定できる。一方、
Implied Volatilityとは、オプション・プレミアムからBlack-Scholes方程式で逆算して求められたVolatilityのことである。つまり、IVはUnderlyingに帰属する概念ではなく、各オプションに帰属するので、Underlying、期間、行使価格毎に計算される数値なのである。これを一般にはVolatility Surfaceと呼び、Underlyingに対して、期間×行使価格という2次元的な存在である。であるから日経平均の12月満期の行使価格14000円のIVという(Underlying、期間、行使価格)の3要素でユニークにIVを規定できる
HVとはUnderlyingに帰属する過去を計算した数値であり、IVとはOptionに帰属する将来の数値である。HVが高ければIVが高いという傾向はあるものの、両者を比較することはこの計算過程から考えても全く意味がない行為である。
VIに話を戻すが、VIはオプション価格から計算されるので、将来の数値。また全行使価格について足し上げるので、オプションに帰属するのではなく、Underlyingと期間に帰属する概念なのである。またIVのようにBlack-Scholesを逆算するというプロセスはなく、足し算なので、非モデル・ドリブンなVolatilityとも言えよう。日経平均の12月のVIと(Underlying、期間)の2要素でユニークにVIを規定できる。
この3種のVolatilityの違いを理解してもらったところで、VIと等価なVolatilityの意味が明確になったことであろう。あえて単純に数式で書くなら
VI=ΣIV (足すのはIVではなく、あくまでプレミアムを直接足すので、この表現で混乱しないように!)
といったところだろう。
最後にVIに対するよくある誤解を書いておこう。「VIは恐怖指数と呼ばれ、株価の下落を予想する」などという誤った記述が平気で存在する。しかも読者が多いであろう英語で書かれていたということは、グローバルに見てもそれが修整されないほどにVIの理解者が少ないことを意味している! 全くデリバティブなど無縁な人にも関心を持ってもらおうとIVと株価を関連つけたがる傾向は強いのは事実であるが、結論から言ってしまうと
Implied Volatilityと将来の株価は全く関係が無い! (Volatility Indexの水準も同様に将来の株価と全く関係が無い)
IVはUnderlyingの現値ありきで、現値を基に計算されたオプションの需給を示す規格化された数値に過ぎず、株価予想・将来の株価を示すものでは全く無い。UpsideとDownsideのIVの差を見て、Put側が買われているから、オプションマーケットは下落を示唆しているなどという露骨に誤った記述も多い。IVを株の反対指標ととらえている節もあり、まったくの逆相関を期待している人も居るようだ。暴落と共にIVは上がるものだし、IVと株価は逆相関ではあるが、日々の動きの中で、IVが株と常に逆に動くというのは誤解である。とにかくVolatilityやデリバティブに関する誤った記述は多すぎて、枚挙に暇が無いからここら辺に終わりにするが、当ブログの読者は、まずVolatilityとは何か? HVかIVかVIかなどしっかりと意識し、その計算方法に立ち返って、数値を見つめる態度でいて欲しいと思う。
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