最近、アジア放浪記化しているので、たまには初心者向けにデリバティブでも書こうか。とはいえ、かなり気をつけても、いつものパターンで書けば書くほど、急速に上級者向けに展開していくであろうから、初心者向けとはいえ、プロフェッショナル諸君も気にせず読んでくれてかまわない。初心者諸君は、ここで書いていることは、プロならば当然理解しておくべき基本的内容ではあるものの、当のプロの連中でも100%理解できていないあっぷぅが多い事実があるから、途中でわからなくなってもそう落ち込むことは無い。
まず、アメリカ・オプションとは何か? を3つのオプションを比較しながら説明しよう
1.ヨーロピアン・オプション(European=Plain Vanilla):満期において権利行使可能
2.バミューダン・オプション(Bermudan):満期まで間、特定の複数の日で権利行使可能
3.アメリカン・オプション(Amerian):満期までの間、いつでも権利行使可能
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つまり、同一のペイオフを持つオプションであるならば、権利行使の数が多いだけオプションは価値があり、オプション・バリューの大小関係は
European < Bermudan < American である。 モンテカルロとは、オプション価値を計算する手法の一つであり、これも大きく分けて
1.解析的アプローチ
2.ツリー,有限差分法=FDM(Finate Difference Method)
3.モンテカルロ
とあり、お素人衆がよく勘違いしてこれらをモデルと分類していることがあるが、これらはあくまでアプローチ・メソッド・手法であり、モデルではない
モデルとは株価の振る舞いの表現方法である。株価のモデル化の”モデル”である。モデルはかなり多岐にわたっていて、記述しきれるものではないが、これまた3つだけ書いてみると
1.幾何ブラウン運動:μな速度で成長し、σな大きさでガチャガチャ動く運動で数式で書くととなる。
2.Volatility Skew Model:全行使価格のオプション価格を一つのモデル内で表現可能。
3.Stochastic Volatility Model:Volatilityを決定論的な存在から脱却させ、Volaそのものが確率変動する。
とちょっと難しくなってきているが、ここから先は、解析的アプローチが容易とされる幾何ブラウン運動を前提として話を進めよう。
ここから下は話が少し簡単になるから、式でビビるな。頑張れ。
さて、もう一度3つのアプローチに話を戻そう。
1.解析的アプロ-チは、各デリバティブのペイオフ・条件を微分方程式で解くわけだが、驚くべきことに、今回あげた3通りのオプションと3通りのモデルの9通りの組み合わせのうち、1の幾何ブラウン運動を想定し、かつまた1のヨーロピアン型の場合しか解くことができない。美しさや計算速度は圧倒的だが汎用性に問題がある。
2.ツリーの中で最もシンプルなBinomial Tree 2項アプローチは、現在の株価Sに対して、将来のある時刻における株価が離散的に、2つだけ存在すると仮定している。一定率u上がるuSが確率pで起こり、と一定率d下がるdSが確率(1-p)で起こるという2シナリオを用意することで株式市場の揺らぎを表現しようとしている。
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時刻の刻みをなるべく細かく取ると、いい加減に見えたわずか2通りしか持たなかった2項の分布、満期までn回に分割すればn+1通りの分布に変身する。さらに2項ではなく3項にして、きめ細かくしたり、有限差分法、わかりやすく言いかえれば確率漸化式で一般化した離散分布表現も可能だというだけで、2項分布を丁寧に展開したくらいに理解しておけば良い。
3.モンテカルロはこれら3つのアプローチの中でも最も原始的、頭を使わない方法である。株価がガチャガチャと動く様子をある乱数で決め打ちして、一つの将来の株価を発生させる。コンピューターの力を使って、多くの乱数を使って多くの株価を発生させて平均を取れば、微分方程式を解かずとも乱数項の効果を反映させた結果に近づくであろうという楽観的なアプローチである。
バカっぽく言ってしまっているモンテカルロだが、もしi個の複数の資産でj回の参照点を必要とするような複雑なペイオフを持った多資産・経路依存型のデリバティブの場合、i×jの独立した乱数を均質に発生させる必要があり、美しい乱数の生成は、Sobol sequences、Quasiというキーワードの完全に数学の世界の話でもある。エクセルのRand関数程度の精度では、場合によって、i×j次元Cubeの中に分布する乱数が不気味な作為を持った図形(つまり均質ではないということ)を形作ることもある。
もう戦意喪失しちゃったかな? まだまだ。アメリカン・オプションをモンテカルロするのが難しい理由を説明するための基本的な単語の整理だけだぞ。
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