久しぶりに見たな、個別株のエキゾチックものPublic Offeringだ。設定日は9月5日らしい。わかるか?
前回、野村の投信は、野村からお金をもらってたこともあったので、設定日の夜にブログを公開してやったんだが、
俺に挨拶なく公募とかやってると、設定日前に発表しちゃうぞぉ。
この商品は最も日本で一般的な早期償還型で、固定クーポンのKnock-In PUT内包だ。さて、一般読者が最も興味あるのはこのような商品が株式市場に与える影響であろうから、それについて解説しよう。
販売会社の販売力次第だが、今回のこの公募ではそれほど大きくは集まらないだろうが、次回以降大型の公募の場合に応用して欲しい。
このエキゾチックデリバティブが、生み出す歪みが最も大きく株式市場に影響を与える点は、株価で現わすと以下の3点となる。
1) 値決め価格 9月5日の引値、(9月4日時点での終値で想定するとXX円)
2) Knock-In価格の少し上 値決め価格の60%~63%
3) *Knock-Out価格の近傍 値決め価格の103%~107%
*Knock-Outというと連続参照のような印象を受けるから、この商品の場合は離散参照の早期償還トリガー価格の近傍と表現するのが適切だ。
現物諸君には理解しがたいかもしれないが、デリバティブは常に株価と時間の概念が共存するので、それを加えて書くと、
1) 値決め価格 9月5日の大引け
そんなに大きく集められないとは思うが、引けピンしていたら、その分がImpactである。発行総額の40-50%程度の金額の買い需要が発生する。この記事を読んで資金力のある読者諸君が先回り買いをして引けで売ってくれれば引けピンは起こらず、この仕組債を購入した個人投資家にとってFavorな結果を生みだす。なんとも愛国的で投資家保護の観点からも素晴らしい記事なのだよ。
2) Knock-In価格の少し上
仮に2012年の9月中に大暴落が起き、Knock-In価格に近付いた場合は、大した影響は無い。最終参照2013年6月を終えてもまだKnock-Inしていない状態での、2013年7月-8月28日までの期間でKnock-In価格の少し上に近づいてきた場合、この60-63%程度の領域で売り需要が発生する。その金額は発行総額の10%~400%と幅が広い。400%と激しい売り需要の発生は一度もKnock-Inすることなく2013年8月21日~28日を迎え、かつまたトレーディング・デスクがモデル通りにアグレッシブなトレーディングを行う場合に発生する。この確率は非常に低いが、最終参照日8月28日に近ければ近いほどその需要は大きいということを念頭に置きながら、発行総額の数割程度の売り需要がこの価格帯で発生すると考えておいてかまわない
3) Knock-Out価格の近傍
早期償還判定日である
2012年11月27日
2013年2月25日
2013年5月28日
の3回、その3日前から一週間前から判定日にかけて、103%から105%の間は買い需要、105%から107%は売り需要が発生する。トレーディング・デスクの複製ニーズで発生するポジションは、現値近辺では発行総額の40-50%に対し、このKnock-Out価格近傍では100%近くに膨れ上がることから、これもやはり数割の買い需要の発生となる。しかし、早期償還判定日を過ぎた時に2つのシナリオが考えられる。
3-a) Knock-Outしなかった場合、デリバティブ契約は継続されるが、必要ポジションは発行総額の40%以下に戻る。
3-b) Knock-Outした場合、デリバティブ契約は消滅するので必要ポジションは0%。
すなわち105%の下方近傍でGamma Shortが発生しているのだが、このGamma Shortのマネージングには、かなりなリスクが伴うため、トレーディング・デスクがこの通り複製するとは限らないので、買い需要が発生するかどうかはデスクヘッドの方針に依存する。一方、上方近傍はトレーディング方針には依らない確実な”実需”の売り需要が発行総額の数割程度、発生する
以上、全てはこのデリバティブ契約が持つDiscontinuityから発生する特需であるが、これは単に株の読者のためのプレゼントではなく、金融監督庁に対する提言でもある。たとえ、トレーディング・デスクがオフショアにあるようなハウスであったとしても、分け隔てなくしっかりと監視し、不適切な取引行為があれば躊躇なく取り締まるように。
早期償還条項付 参照株式株価連動社債(パナソニック株式会社)銘柄概要
http://www.monex.co.jp/Etc/topbn/guest/G800/new2012/news1208_13.htm

正式名称 バークレイズ・バンク・ピーエルシー 2013年9月4日満期 円建
早期償還条項付 参照株式株価連動社債(パナソニック株式会社)
発行体 バークレイズ・バンク・ピーエルシー
格付け A2(Moody’s)、A+(S&P) ※ 日本で登録を受けた信用格付業者ではありません。
「無登録格付に関する説明書」(PDF:175KB)を必ずお読みください。
利率/税引前 年6.50%
発行日 2012年9月4日
利払日 年4回(2012年12月、2013年3月・6月・9月の各4日)
償還日 2013年9月4日
申込単位 額面250,000円単位
申込期間 2012年8月16日(木) ~ 2012年9月4日(火) 14:00
参照株式 パナソニック株式会社発行の普通株式
(株式銘柄コード:6752、東証一部)
当初価格 2012年9月5日の参照株式の株価終値
早期償還判定水準 当初価格の105%(1円未満四捨五入)
早期償還評価日 満期償還日を除く各利払日の5営業日前
ノックイン判定水準 当初価格の60%(1円未満四捨五入)
観察期間 2012年9月5日から満期償還日の5営業日前までの期間
最終価格 満期償還日の5営業日前の参照株式の株価終値
早期償還 「早期償還評価日」の参照株式の株価終値が、「早期償還判定水準」以上となった場合:
→ 「早期償還評価日」の直後の利払日に、額面25万円あたり25万円と当該利払日までの利金をもって早期償還されます。
※ 早期償還した場合、それより後の利金はお受取りできません。
満期償還の方法
(早期償還しない場合)
(1) 観察期間中の参照株式の株価終値が常に「ノックイン判定水準」を上回って推移した場合:
→ 満期償還日に、額面25万円あたり25万円で償還されます。
(2) 観察期間中の参照株式の株価終値が1度でも「ノックイン判定水準」以下となった場合:
→ 満期償還日に、額面25万円あたり以下の算式で計算される金額で償還されます。
「25万円×最終価格÷当初価格」
備考 上記「営業日」は「予定取引日」であり、取引所が通常の取引を予定している日です。
詳しくは目論見書をご確認ください

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