5月10日の記事で、Calender Spread(CALD)の有用性について書いたのだが、とある読者がツイッターで、
ただ今勉強中…「上がると思えばCall Calenderは、非常に楽なポジションとなろう」
とつぶやいていた。確かにCall Optionの素ロングの怖さを説明することなく、”CALDは非常に楽なポジション”といきなり書かれるとわかりにくかったように思われるのでその点を反省し、グラフによる可視化でそれを説明しようと思う。
株や先物のプレイの場合、投資する瞬間には、上がるか下がるかという2択の相場観しか存在しない。期間とどの程度動くかは後決め、つまりそのポジションを閉じる時に決めるというなんとも単純な相場観であるが、オプションの場合は、最も単純なCall Optionの素ロングというポジションであっても、構築時にどのくらいの期間でどの程度動くのかという相場観が無ければポジションを取ることはできない。つまり株価と時間の動きという2次元的な平面に対する損益曲面を頭に浮かべながらポジション取りをするということから、そのグラフを使いながら説明する。
Bullishな相場観で、損失限定プレイを想定しよう。最大損失1.11%程度、つまり日経9000円とするならば約100円のオプションプレミアムをご予算として、いくつかのポジションを比較し、CALDの優位性を説明する。
Optionにおけるもっとも稚拙なポジションはCall Optionの買いだが、1ヶ月の105C(Spotの5%上、日経が9000円なら9500円のコールと考えてよい)の買いを例にとって説明しよう。面倒なので、全ての期間、StrikeでVolatilityは20%として計算してしまう。
105C Buyの損益曲面(Spot97%-110%、時間は手前1ヶ月から、奥の満期1日前まで)
100C-Long2.jpg
グラフは104あたりを中心に描いているが、あくまで現在のスポットは100であることを考えると、100周辺はほとんどの時間においてマイナスになることがわかる。105(5%上昇したとしても満期直前に至ってはまだマイナスになるという鬼のようなTime Decayに苦しむことになる。5%上がれば先物なら5%儲かるというのは誤りで、証拠金が5%要求される(日経でいうなら50万円)としたら、ご予算1.11%想定なので、大体1/5枚等量になるわけだから、先物で得られる収益は1%という計算になる。)
ここで少し経験のあるものはCall Spreadなる取引で100C Buy 110C SellというSpread取引を行う。
Call Spread Buy (100-110CS)
100-110-Call-Spread2.jpg
これであれば5%上がると、1.5%儲かる(ショボイと思うなよ、証拠金ベースのリターンだと1.5%/1.11%だから140%だからなっ!)ので、先物よりも効率が良いのがわかる。かつまた損益分岐点もNaked Call Longに比べればSpotの100に近づいていて、Call SpreadとCallの差分を示したのが下記のグラフで、±5%程度の領域で優位であることを示している。
CS – Call
cs-vs-c-diff2.jpg
そして、いよいよCALDの登場であるが、1Monthの105C Sell 2Monthの105C Buyをした場合
Calender Spread Buy (105C 1M-2M)
cald2.jpg
これが意味するところは現状維持でも満期直前まではプラス。(ここ重要! 損失限定、つまりオプション買いのポジションでポジティブキャリーという唯一のポジションと言って良いくらい楽なポジションだ)上方はほとんどの領域でプラス。外して下がった時だけマイナスというポジションである。
Naked Call Longより優位だといったCSとの差分を取ったものをグラフ化すると、
CALD - CS
cald-vs-cs-diff2.jpg
となり、強気な予想を外して相場が下落した時のダメージは小さく、相場観はあたったもの動きが鈍かった時もアドバンテージがあることがわかる。形が似ているのでついでにButterflyとも比較してみよう。FLYはイントリンシックバリューと損益曲線が似ているのでCALDに比べて直感的に理解し易いことであろう。ここでは強気な相場観なので中心を同様に5%上に設定し、100-105-110 Butterfly Spread(Call Optionだけで構築するFLYはSpreadと呼ぶ。)とすると、ほぼ同じ形の損益曲線になる。
FLY
butterfly-spread2.jpg
しかし、FLYの損益分岐点はCALDに比べ、若干スポットから遠くなっている様子を示すために
CALD – FLY
cald-vs-fly-diff2.jpg
うわぉぅ、来ましたね。FLYより不利なところ=儲かっている領域、つまりマイルドで無難なポジションということを示しており、現値近辺でウロウロしている場合のキャリーもFLYよりも優位であることがわかる。
上がると思ったからCall買いってのがどれほど稚拙で難しいポジションか? そして上がると思ったから105CALDと言えば無難なプロらしい意見というのがお分かりいただけたかと思う。
これを冷静に振り返ると、このグラフには明らかに誤解を生む問題があり(間違ったことを書いているわけではないが)、別の説明を思いついたので、さらに続編を書くことにしよう。
【市場と実戦:Vanilla・幾何ブラウン】
2011.12.16: FIAに行ってきました
2011.10.20: 日本のオプションは最も割安な水準
2011.02.25: 噂の真相 ドイツ銀:韓国でデリバティブ取引禁止処分
2010.11.08: 三田氏を斬る ~多彩な商品、Vanilla系
2010.07.08: 新しい読者の嬉しい努力 数学を使わないオプション解説 Vanillaって?
2010.05.14: オプションの清算値の計算方法 これは一体何の計算?? 
2009.09.29: Black-Scholesは間違っている
2009.06.16: VAR SWAPのGamma+VanillaのGammaでGamma Neutralになるか?
2009.06.09: お前VEGAの意味わかって無いだろ?
2007.12.01: 初めて会った時から好きだった