フィックスド・インカム(FI)、金利デリバティブのトレーディングをやっている後輩が、「投資でも始めるか」と言っている。私はノンプロ対象の株会、株メールの先生ではあるが、”株メール”シリーズを今までブログアップしているから御存じのように、初心者にはふさわしくない投資教育(王道であるインデックス投資にも否定的)をしてしまっている現実がある。一方、後輩はプロ、マクロ・リスクのスペシャリストらしく、彼が最終的に選ぶのはインデックス投資であり、おそらく最大の規模のSPDRが有力候補である。
S&P500のインデックス投資をつまらないの一言で片づけてしまうのは簡単だが、デリバティブのバックグラウンドを持つ彼が、それに興味があるなら、私からの提案がある。SPDRを買うつもりなら、SPDRのオプションが上場されていて、ジャブジャブの流動性があるから、プットでも売りながら、タゲバイ(Target Buy)で買えば良いんでないの? Physical Settleだから、現引きしたら、今度はカバコ(Covered Call)の黄金コンビネーション。しかも、2Weeksのオプションまで上場されると言う完璧なマーケットで、戦略の多彩性と流動性は申し分ない。SPDRのBuy&Holdでは、預金みたいな感覚になってしまうので、オプションを使ったマクロベットなら、トレーディング感覚と市場リスクを同時にエンジョイできる。
詳細こちら。
http://www.cboe.com/micro/spdr/spec.aspx
しかし、デリバティブのバックグラウンドがあるとはいえ、所詮はFIデリバティブの経験に過ぎない。エクイティ至上主義のセクショナリズムが生み出すサディスティックな感情が、次の質問を彼につきつける。
SPDRのオプションはアメリカンオプション。Bloombergで、SPX Index OMON{GO}とSPY US Equity OMON{GO}で、Implied Volatility(IV)を見ると、SPYはIVに非対称性がある。それが何故かわかるかね?
それともう一つ、アメリカンオプションが早期行使されるのは、どういう時かね?

FIデリバティブにおいて、アメリカンオプションというのはほとんど存在しないと思うし(ListedのJGB Optionはアメリカンだが)、扱うこともないであろう。私も正直言うとインデックスのアメリカンオプションは、扱ったことがないのだがな。エクイティデリバティブ業務従事者諸君は、この質問をFIにすること自体が非常にサディスティックであることを笑って欲しいところであるが、このブログの読者にはFIデリ業務従事者諸君もいるので、諸君らのために、俺がどういう意味か解説してやろう。
改めてもう一度聞くが、
FI諸君、わかる? わからねーだろ? まぁまぁ待て待て、解説するから。
EQ諸君、この意味がわからねーヤツ。コラッ! この恥さらしモノが! てめー、なめられんよーにスワップションくらいは勉強しとけよっ!ボケ。
American Optionの同一StrikeのCallとPutのIVの非対称性は、BloombergがIVを連続配当モデルのBlack-Scholesで計算しているから発生している”Error”である。そして、非対称性の存在の理由と、早期行使される時はどういう時というのは、実は同じ質問なので、American OptionのEarly Exerciseについて言及しよう。
まずはFI諸君でも理解しやすいであろうAmerican Put Optionについて。
Putの早期行使は、早期行使して得られる現金×満期までの金利が、オプショナリティを上回れば早期行使した方が得である。
AmericanPut.jpg
緑の線を青が越えた時から早期行使すべきタイミングだ。τ日後決済のPhysical Settleなので、正確には(X-F(τ))*exp(r(t-τ))なのだが、まぁ良いだろう。
American Call Optionについて、
よくある教科書の配当のない株式のアメリカンオプションの早期行使は・・・、とかどうでもいいわ! 配当あるから! もしかしてFI諸君は知らないかもしれないから、丁寧に解説するが、株式における配当は、債券のクーポンのような経過利子という概念は存在しない。つまり、配当を受け取る権利付き最終日から権利落ち日に向けて、離散的に株価が下落する配当落ちという現象が起こる。配当落ち前のイントリンシックが、配当落ちした後のオプショナリティを上回れば、早期行使した方が得なのである。
AmericanCall.jpg
今度は、緑の線は、配当落ち後の期待オプション価格であることがポイントだが、落ちた後のTime Valueが、配当落ちの額Dより小さければ、早期行使、つまり緑と赤のラインが交差するポイント以上ならば、早期行使されるということになる。実践的にはショートタームのオプションの場合、金利効果というのは限定的なので、コールの配当落ちによる早期行使が多発する事態となろう。
絵で描くと簡単でしょう?
でも、解析的には解けないアメリカンオプションが上場モノでブイブイ取引されているってすごいでしょう? 離散配当を考慮しないとPut/Callの価格差は説明できない。BloombergはDupireがついていながらも、こういうところをいいかげんに計算し、Put/CallでIVに差があるという状態になっているのだ。
【Exotic Derivatives関連記事】
2011.06.14: アップル製品は利休好み?
2010.11.22: 三田氏を斬る ~多彩な商品、エキゾチック
2009.12.11: Early RedemptionとCouponの関係
2009.09.01: バイナリーオプションの性質から読む市場拡張性
2009.08.12: Double Barrier 複雑なるもの
2009.08.04: Barrier Option Pricing
2009.07.28: Exotic Parity2
2009.06.02: Multi Underlying OptionのGamma Trading
2009.05.26: Crossed GammaとDeltaの定義
2009.01.26: Exotic Parity
2008.03.03: Lookback 神なるTrade
2008.01.13: Worst Option ~香港より愛を込めて