「コメ」という部署は、国税局資料調査課の隠語である。マルサと違い、一般人にはまだ知られていない。資料の「料」と調査課の「調」をとって「リョウチョウ」とも呼ばれているが、税理士などを含めた税務の分野ではすでに知られた言葉で、隠語としての価値はなくなった。それで「料」のヘンを指して「コメ」と呼ぶようになったのだ。コメは、マルサとは違いタマリが無くても調査を実行する。蓄積されたデータをもとに調査対象者を選定し、令状なしで(むろん、納税者による承諾の明示が必要とされるが)隅から隅まで調査する部隊である。大型事案では100人を投入することもある。
強制捜査より怖い任意調査
世間ではマルサが税務当局における最強部隊のように認識されているが、徴税に関してはコメのほうが圧倒的に怖い存在である。コメは1週間に一事案を基本に調査を企画・実施しており、増差所得(調査によって把握した所得)、調査件数ともに、職員一人当たりの効果測定はコメが圧倒している。マルサの調査事績は国税庁により公表されているが、2012年度に告発したのは117億円。人員が約300人とすると、一人当たり増差所得は3900万円にすぎない。コメの調査事績は税務署の調査事績の中に混在しており、具体的な数字はベールに包まれているが、一人当たりの増差所得は5億円は下らないだろう。追徴本税に換算すると年間2億円程度になり、マルサの5倍以上だ。マルサとコメとの大きな違いは調査の性格にある。すなわち「強制捜査」と「任意調査」の違いだ。マルサは内偵の結果、「タマリ」と呼ばれる不正計算の裏付け(過少申告した利益に対応する預金、有価証券、不動産など)があった案件しか調査できない。つまり答えがわかっている案件しか調査できないのである。
マルサの「強制」は、国税犯則取締法という法律に基づいて裁判所から令状を取るという後ろ盾があることによるが、コメは令状が無くても調査が可能。しかも「任意調査」は強制調査に対する対義語なだけで、法律上は、納税者には質問に答えたり調査に応じなければならない義務がある。コメは、国税通則法に定められている「質問検査権」という権限に基づいて調査する。質問や検査にあたって、相手方の「明示の承諾」があれば、書類やその他の物件を調査することができる。財政と治安は国の根幹であり、税収は財政にとって非常に重要なものである。調査を受けずにのらりくらりといなされては困るので、調査官が持つ質問検査権はかなり強力になっている。拒否したり、虚偽の回答をした場合には、懲役1年以下などの懲罰規定も定められている。つまり、間接的に強制しているので、「間接強制調査」といわれる場合もある。任意という言葉尻をとって軽く考えている人もいるが、その点は気を付けておくべきだ。質問検査証には、権利が及ぶ範囲が明記されている。例えば京橋税務署と明記されていれば、京橋税務署の管轄しか調査はできない。しかし、コメは、東京国税局長が質問検査証を発行するので、84すべての税務署の管轄エリアを調査できる権限を持っている。税目についても同じだ。例えば税務署の個人課税部門の場合、所得税調査が業務となるので、質問検査権は所得税法に関する調査に限定される。つまり、法人を直接調査することはできない。取引相手を調査する反面調査はできるが、その法人自体を調査対象とすることができない。ところがコメの場合には全税目に対して調査できる権限を与えられているのだ。
世に出ている節税本などに書かれていることを実践しても、大した節税にはならない。極端な利益の低調は、かなり怪しいと感じる。脱税は論外としても、過少申告の動機は限られている。来期以降の不況対策、株主対策、予算・決算を重視する企業においては、事業部の実績捜査のために行われるのが一般的だ。無理な利益調整を行うと、売り上げの伸びと申告所得の伸びに歪が生じる。歪みのある企業に行けば追徴ができ、調査官の成績に加点されるので、優先して選定されるわけである。利益を圧縮する方法は、実はいくつもない。売り上げを減らす。売上原価や経費の水増し、架空経費を作る。それに棚卸資産を減らすという大きく3つほどだ。水増し発注の場合は、協力者が必要になる。本当は1000万円の支払いなのに、3000万円支払ったことにして、2000万円戻してもらうといったように、だ。しかし、調査が入った場合、発注先に迷惑をかけてしまう。ところが棚卸の過少申告は自社だけで完結できる。しかも、棚卸を減らした伝票を入れるだけなので簡単。一度手を付けられたらやめられないわけだ。


調査官が調査選定したくないケースもある。それは、調査しても追徴が望めない事案である。多額の赤字を抱える会社であれば、増差所得は赤字との相殺効果があるので、赤字を超える増差所得が見つかなければ、結果として追徴は発生しない。調査官の実績に影響するので避けたいという心理が働く。国税庁の発表によると、黒字申告している企業の割合は27.4%にすぎない(2012年事務年度)。黒字しか調査しないとなれば、対象は3割弱しか存在しないということになってしまう。ただ、調査したら実は黒字だったというケースもあるので、税務署では赤字会社でも一定の割合で接触している。法人の調査は法人税、消費税、それに加えて社員の給与や税理士報酬を支払う際の源泉徴収、印紙税の4つを調査する。これらは法源消印同時調査などと呼ばれる。赤字会社で法人税の追徴ができなければ消費税狙いでも良い。あるいは源泉所得税でも良いし、何も出なければ印紙税を見ることもできる。
簿記の仕分けで預金入出金の処理をする場合、左側(借方)が入金で右側(貸方)が出金となる。銀行簿記はこれとは逆で、左側が出金で右側が入金となる。なぜこんなことを説明するかというと、入出金の記録の「型」が調査官のセンサーに反応するからだ、以下に典型的なパターンを説明する。
●L型口座
サラリーマンの預金口座に多いパターンで、不正資金口座とは縁遠いので調査官のセンサーではスルーされることが多い。左側の出金の行の記録が続き、月に1回、右側に入金(給料日)が記録される。クロの場合もあるが、3年くらいの流れを見ていくと経験を積んだ実査官であればどちらかが分かる。個人名義で一番多い型が、L型口座である。
●逆L型口座
売上除外口座に多く見られるパターン。右側の入金が続き、特定日に左側に出勤の記録がある。売り上げをランダムに除外したり、なかには数店舗のうち、一店舗丸ごとの売り上げを除外するなんていうケースもある。銀行振り込みによる「出会い系サイト」の決済口座や貸金業の「回収口座」も逆L型になることが多い。脱税には直接結びつかないが、「地下銀行」も同様の動きをする。出勤した後は定期預金にしたり他行や他人名義預金に振り替えたり、高額商品の購入、事業再投資など、さまざまだ。逆L型は不正計算の確率がかなり高いので、調査官は見逃さない。
●稲妻型口座
右の入金と左側の出金(振り込み)が交互に続く口座。架空外注費や架空人件費を発生させるのに多いパターンだ。特に建設業に多いが、架空外注費の支払いを受け、自社の外注費として同額、または手間賃を差し引いた額を振り込み処理する。一般的には、その日のうちにA社->B社->C社->D社と瞬間移動し、最後は現金出金でおしまい。不正計算のしっぽをつかまれるのは、最後にお金を受け取るD社になる。現金出金先は架空法人かペーパーカンパニー。赤字を抱えた法人を介在させることにより、税負担を逃れるケースは後を絶たない。途中の会社は、契約書、金の流れ、登場人物の実在など、形式上は売り上げと原価の両方が綺麗にそろっているので、当局から追及されることが少ない。しかし、D社は現金支出先を問い詰められると、言い逃れが厳しい。
サラリーマンでもケチな人の銀行口座の動きは、逆L字型になるよw
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給料で生活してたんだけどなぁ・・・、給与振込口座のカネでは生活してなかったなぁ・・・。給料日を気にしたり、給料日に銀行行くことはなかった。

国税局資料調査課 国税局資料調査課
佐藤 弘幸

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