23日には「ニューヨーク・タイムズ」が佐川とアクシーズ・ジャパン証券の中川昭夫のジャイラス買収への深い関与を報じて、2人の行方を追っていました。同紙は翌日にも、オリンパス子会社のベンチャーキャピタルITX元社長の横尾昭信とその弟で投資顧問会社グローバル・カンパニー社長の横尾宣政の国内3社買収への関与を続報しました。『ニューヨーク・タイムズ』はグローバル・カンパニーの東京のオフィスを取材しましたが、すでにもぬけの殻でした。興味深いことに、佐川、中川、横尾宣政は全員野村證券の出身でした。
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> www、いいね。嫌味っぽくてw
私は可能な限り取材を受けていました。「日経ビジネス」、「週刊ダイヤモンド」、「産経新聞」のインタビューに答え、事件の経緯を繰り返し説明しました。CNNにも生出演しました。オリンパスや菊川のことは忘れて新しい人生に踏み出すこともできたはずです。ですが、30年勤めた会社を簡単に頭から追いやることはできません。宮田もオリンパスのために私が会社に残ることを強く望んでいました。彼は私の復帰が社員と世界中の株主のためになると信じてくれていました。


10月26日、私はナンシー(妻)とともにニューヨークに滞在していました。FBIに会い、アメリカのメディアの取材を受けるためでした。ナンシーがメールを確認してこう言いました。「菊川が辞任したわ」 それは菊川が会長兼CEOを辞任して代表権のない取締役に取締役に退き、専務の高山修一が新しく社長に就任するとのニュースでした。辞任の理由は一連の報道や株価低迷の責任を取るとのことでしたが、菊川は会見にさえ出席しませんでした。たしかに菊川の辞任は良い兆しではありました。しかし、高山の就任会見でも会社は依然として過去のM&A活動は適正との立場を取りつづけ、最終的な判断は今後設立される第三者委員会に委ねるとしただけでした。さらに高山は、私が「社内の機密情報を全部開示したことに大変な憤りを感じる」と非難したのです。まるで「上手くやれば、隠し通すことも可能だったのに」と言っているのも同然でした。頭をすげ替えただけで、会社の姿勢に変化はなく、菊川は取締役として会社に残るのです。残念なほどに愚かでした。これで自体が収拾できると考えたのでしょうか。
10月30日、野田首相が「フィナンシャル・タイムズ」のインタビューで、今回の件が「市場経済国としての日本の評価をおとしめる恐れがある」と述べ、オリンパスに真実の解明とそれに基づく適切な処置を求める異例のコメントを発表しました。私は野田首相の発言に良心を見て励まされました。それに彼の懸念は的を得たものでした。世界中の投資家が日本企業のガバナンスに疑問を投げかけていたからです。東京証券取引所の取引額の70%は海外の投資家によるものです。彼らの信頼を失えば、日本から巨額の資金が逃げていくことになります。ただ実際日本企業が他の資本主義国と同じルールで動いているのかと言う点には私は疑問を抱いています。他の先進国では認められないような様々なもたれあいが根強く残っています。その一例として、私がいつも指摘するのは企業間の株式の持ち合いです。ヨーロッパの一部にも同様の慣習はありますが日本のそれはあまりにも独特です。売却もしなければ批判もしない暗黙のルールが、厳しいガバナンスの妨げになり、無責任がはびこる理由になっているのではないでしょうか。オリンパスの件でも、大株主である日本の機関投資家は公的には沈黙を守りました。株価が暴落して彼ら自身だけでなく彼らの株主も大きな損失を被っているにもかかわらず。海外の株主が声高の取締役の一新を求めたのと対照的でした。日本の大株主は、株主としての利益でなく、ビジネス上の利益を優先して行動するのです。たとえば、オリンパスのメインバンクの三井住友銀行や準メインバンクの三菱東京UFJ銀行は、オリンパスの大株主でありながら、貸し手であり、またシンジケートローンのアレンジャーでした。利害関係が複雑に絡み合っているのです。これでは健全な資本主義市場が成立するわけがありません。
> うん、そうだね。でもオリンパス事件を経た現在でも、状況は改善されたとは思えない。似たようなもたれあい、父子の隠し合いの倫理は今後も起こるだろう。
11月1日には第三者委員会が正式に立ち上がり、委員長にもと最高裁判所判事の甲斐中辰夫が就任しました。2日には奈良県の個人株主が過去のM&Aによって多額の存在が発生したとして菊川ら当事の経営陣を相手取り損害賠償請求訴訟を起こすよう、オリンパスの監査役に要求している報じられました。請求額は約1494億円にものぼりました。日本でも海外でも新しい事実が次々と報道され、オリンパスの株価はさらに下がり続けました。11月7日には、私の解任時より5割ほど値を下げ、終値1034円にまで落ち込みました。そしてついに11月8日の午前中、市場と株主とメディアの圧力に負けるように、オリンパスは「過去の損失計上先送りに関するお知らせ」という生命を出して不正の存在を認め、その隠された理由をも明らかにしたのです。
当社が1990年代頃から有価証券投資等にかかる損失計上の先送りを行っており、Gyrus Group PLCの買収に際しアドバイザーに支払った報酬や優先株の買戻しの資金並びに国内事業3社(株式会社アルティス、NEWS CHEF株式会社および株式会社ヒューマラボ)の買収資金は、複数のファンドを通す等の方法により、損失計上先送りによる投資有価証券等の含み損を解消するためなどに利用されていたことが判明いたしました。(オリンパス適時開示情報。2011年11月8日付より抜粋)
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