カリフォルニア州の市民の生活はダボール発電所があるインド・マハラシュトラ州のそれに似始めていた。停電は頻発し、電力価格はうなぎ上りだった。カリフォルニア・エジソンは5億ドルの債務が履行できなかった。カリフォルニアは経済的、社会的混沌に陥っていた。しかしテキサスの電力トレーディング大手であるエンロン、エル・パソ、リライアント、ダイナジーなどは有卦に入っていた。各社の利益は前年比100~400%増で彼らはこれを努力の賜物と主張した。テキサス人は利己的で緩みきったカリフォルニアの市民の因果がめぐったとおもっていた。エンロンはワシントンに根回しをしていた。最も心強かったのは、エコノミストの上院議員夫妻フィル・グラムとウェンディだった。エンロンの取締役会に参加する前の1992年、ウェンディはエネルギー先物契約を政府監視の対象から外した。夫は今や、2000年12月のコモディティ先物現代化法案によってエネルギー・トレーディングを規制緩和すべく活動中だった。この法案には強い反対があった。その主勢力は大統領の経済市場諮問グループでそこには財務長官ローレンス・サマーズ、連邦準備局のアラン・グリーンスパン、SECの会長アーサー・レビットらが名を連ねていた。エンロンはこの法案のために200万ドル近いロビイング費用を払い、一方グラムはクリントン政権の末期に不利だった法案をいったん引っ込めあたためていた。ブッシュが政権につくとグラムは同法案を新たな名前で再提出し、首尾よく成立させた。エンロンはトレーディングについて大きな自由を得た。エンロンがどれだけの電力を持っており、どこからどこへ、なぜ、どのように電気を動かしているかは、もはや誰に知られる必要も無かったし、そうする手段も無くなった。2000年のハイテク株失速にもかかわらず、エンロンは90年代の最後の3年間に22ドルから72ドルへと挙げた。
> 電力自由化の先駆けだぞ。安易な電力自由化賛成論者はよく読んどけ。
> しかもその時、私はちょうどカリフォルニアに居た。オイル価格が高騰しているから電気代が上がったと聞いていたが、背後にはエンロンの悪さも要因の一つであったとは…。
90年代半ば、カリフォルニアは電力の規制緩和に踏み切った最初の州となった。きっかけは企業が群れをなして州から去っていき、壊滅的な不況をもたらしたことだった。法外な収税に加え、高いエネルギーコストも原因のひとつだった。規制緩和は、旧弊で甘やかされて、搾取的だった電力会社を懲らしめ、1998年には電力のユーザー単価を10%下げるはずだった。問題はどこにも無いように思われた。しかしこの解決法は、結局、事態をより悪化させた。カリフォルニアはエネルギーの卸売りを規制緩和し、小売面では価格キャップ性を維持した。同時に電力会社に長期固定価格(したがって割安)で電力を購入することを禁じ、不安定なスポット市場への依存度を高めさせた。失敗の舞台装置は揃っていた。電力会社は発電会社に大金を払いながら、その費用を利用者に転嫁できなかった。エンロンは電力をもっと効率よく供給するためによりクリーンで安い燃料を使う発電所を建設する、と約束した。この市場でエンロンが必ずしも善玉ではない証拠はいくつかあった。その一つは1999年五月、同社の会計部門が収益計上に苦しんでいた頃に起きた。それはのちにシルバー・ピーク事件と呼ばれる。
1999年5月24日の事件が起こった。ベルデンは莫大な電力を古い送電網を使って送ろうとした。15メガワットの送電線に、1900メガワットの電力を通そうとしたのである。そんなことをすれば送電網に負担がかかるのは当然だった。カリフォルニアは過負荷への自動反応システムを備えていた。州内の全サプライヤーに電気信号が発信された。この電線を使うつもりですか?それを中止して線をあけることはできますか?そうしてくれたらお金を払います。この日、カリフォルニア・インディペンデント・システム・オペレーターのある人物がたまたま電線を監視していた。彼女はなぜこんなに細い電線越しに大電力を送り込んでいるのかと訝しがった。「本当にこんな送電をしたいのですか?」彼女はこれは事故ではないのかと思い、確認の電話をした。ベルデンが意識的な行動だと認めたとき-「ええ、当社がやったことですよ」-彼女はいっそう不審に思った。「どうしてですか?」「ええと、まあ、そうしたかったからです。別に隠すわけじゃないけれど…」 オペレーターは「ずいぶんおかしな配電スケジュールですね」と言った。ベルデンは同意した。それだけに送電網の規制当局に報告しなければならないと思った。この送電は「無意味」に思えたからだ。
しかし、エンロンにとってこの送電は無意味ではなかった。ベルデンの行為によって送電網には負担がかかり、その日の午後には電力価格が70%も跳ね上がったからである。州の電力交換当局の調査委員会はこの事件を調べ、1年後、ベルデンに25000ドルの罰金を課した。無意味な罰金だった。その日エンロンは1000万ドルを精算し、州の電力ユーザーは約500万ドル余計に支払わされたからである。カリフォルニアの無人自動システムは、完全に電力供給会社の善意のもとに成り立っていた。しかし彼らは善意の人々ではなかった。ベルデンのようなシステムの悪用者は、これを新手のゲーム、つまり常に「当たり」になったままのスロットマシンにした。彼やその同類は、州の規制当局から不正を見つられた時はいそいそと罰金を支払った。
規制当局が気づいていなかったのは、ベルデンが単独犯ではなかったことだった。2000年6月、規制緩和によって安価で良質なサービスを得ているはずだったカリフォルニア州の市民は、そのどちらも得られなかった。州内の電力卸売価格は30%も跳ね上がり、これは電力を供給するテキサスのエネルギー会社-リライアント、エル・パソ、ダイナジーそしてエンロン-らを狂喜させた。エンロンやその競争相手は口では規制緩和について安い価格、選択の自由そのほかを約束していたが、金を儲けるためには安定供給ではなく安定不安が必要であることを知っていた。安定した市場では誰も電力供給を気にしない。電灯はいつもつくし、エアコンが働かないことも無いからだ。しかし電力供給に不安があると顧客は気をもみ始め、供給が細るにつれて家庭生活や事業運営に支障が無いよう、いくらでも喜んで払うようになる。一方顧客の怯えにつけ込んでより多くの、そしてより長期の電力購入契約を取る企業は、安定的な電力の供給者よりもずっと儲けられる。
2000年秋、カリフォルニアの主な電力会社は問題を抱えていた。電力不足なのに規制緩和のために依存を深めていたスポット市場は価格が高すぎて手が出なかった。電力会社は高コストを顧客に転化させてほしいと主張し始めた。立法府に拒まれるともはや残る手段は供給制限のみだった。カリフォルニアは、その後、連邦エネルギー規制委員会(FERC)に電力卸売価格にキャップをするよう請願した。FERCがこれを認めると売り惜しみをしていた州外の電力供給会社は姿を消した。2000年12月、状況は危機的だった。この月、同州は初めての第三段階「ローリング・ブラックアウト」を経験した。つまり予備電力がそこを尽きかけたのである。州の規制当局は慌て、州外の電力供給会社を呼び戻すために、FERCの価格キャップを外すよう要請した。供給会社は以前にも増して高い請求書を手に戻ってきた
しかしヒューストン本社の弁護士スティーブン・ホールは心配し始めていた。彼は10月に社の電力トレーディング事業を調べ始めた。カリフォルニア公益委員会の調査を受けたからである。調べれば調べるほど、不安は増した。エンロンは電力線にわざと過負荷をかけたり、価格キャップを逃れるために電力を州の内外に移したり、履行していないサービスの料金を請求していた。これらの手法はISO規約違反であるばかりか刑事犯罪であるという警告だった。
カリフォルニアの状況は価格キャップ制の廃止とエンロンの行動のために、改善しなかった。それどころか事態は悪化の一途をたどった。2001年1月中旬、カリフォルニア・エジソンは5億9600ドルの電力会社への支払いと債券の償還ができなくなり、ローリングブラックアウトは北カリフォルニアにも広がった。すなわちシリコンバレーとその周辺地域である。グレイ・デイビス州知事は緊急法案を起草して、州が電力を買い上げられるようにした。これによって恩恵を受けたのはテキサスの電力会社だけだった。今や彼らは、憐れな州職員を相手に高値で長期契約を交渉できた。電力料金は1月と3月に延べ40%値上げされた。4月にはパシフィック・ガス&エレクトリックが会社更生法適用を申請した。

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