レアメタルとはどんな金属か
鉄、銅、亜鉛、アルミニウムといった我々の周りに多く見られる金属は「ベースメタル」と呼ばれます。これに対して、レアメタルは希少な金属のことですが、実際には量の少ないものばかりではありません。チタンやマンガンのように、銅よりも自然界での存在量がはるかに多いものもあります。どういう金属がレアメタルかという明確な基準はありませんが、一般に①存在量が少ない、②産出地が特定国に偏在している、③鉱石の採掘や鉱石から単体金属分離抽出することが容易でない、など供給面に制約があることに加えて、④工業利用に有用な金属を指します。なお、金や銀等の貴金属も希少な存在で、工業利用もされていますが、古くから発見され利用されてきたことから通常レアメタルには含みません。
経済産業省の工業審議会レアメタル総合対策特別小委員会において、現在工業用需要があり、今後も需要があるものと、今後の技術革新に伴い新たな工業用需要が予測されるものに限定し31鉱種(ただしレアアース(希土類)は17鉱種を総括して1鉱種)をレアメタルと定義しています。レアメタルの用途としては、大きく分けて
1.構造材への添加(特殊鋼。耐食性、耐熱性、耐摩耗性、高張力などを引き出す)
2.電子材料・磁性材料(半導体、発光ダイオード、電池、永久磁石、磁器記憶素子、超伝導)
3.機能性材料(光学ガラス、ニューガラス、ニューセラミックス、形状記憶合金、蛍光体、触媒)
の3つに、分類されます。
レアメタルの市場規模
日本は国内にレアメタル資源を持たず、ほとんどすべてのレアメタルを鉱石、化合物、地金等のかたりで海外から輸入しています。したがって輸入金額がおおむね国内市場規模と同じと見て大きな間違いはないでしょう。2008年のレアメタル関連品目の輸入は貴金属をのぞいたベースでは2.3兆円です。2003年から2007年にかけて急増し、数量が増えたというよりは主にこの間の金属価格急騰を反映したものです。09年は逆に大きく落ち込みましたが、リーマンショック後の金属価格急落と需要の減退によるものです。このようにレアメタルの輸入金額(イコール市場規模)は世界景気や金属価格市況によって大きな影響を受けます。
一括りにレアメタルと行ってもプラチナやパラジウムのように文字通り極めて希少なものから、最も存在量の多いチタンまで、その差は実に40万倍もあります。地殻中の存在量が最も多い金属はアルミニウムで、鉄がこれに続きます。ベースメタルでも銅、鉛、亜鉛、錫などはチタンやマンガンに比べて春かに少ない量しか存在しません。チタンの存在量は銅の80倍もあります。ただ確認されている埋蔵量で比較すると銅の8割程度しかありません。つまり地殻中の存在量が多いが、経済的に採取可能な鉱石としてそれほど多くないということです。加えて自然界でチタンは酸素と強く結びついた化合物として存在し、純度の高いチタンを分離精製することが困難であったことからレアメタルに位置づけられています。


鉱物資源メジャーと称されるグループは20数社ありますが、多種鉱種を扱いグローバルに事業展開している総合メジャーと、1種から数種の鉱種に特化した特定鉱種メジャーに分けられます。総合メジャーにはBHPビリントン(英・豪系)、アングロ・アメリカン(英国系)、リオ・ティント(英・豪系)、ヴァーレ(ブラジル系)、エクストラータ(スイス系)などがありますが、いずれも強力な資本力と技術力を持ち、鉱山開発、操業といった川上分野を押さえ、精錬等の川下分野に対して強いバーゲニングパワーを持ちます。総合メジャーではありませんが、ノルリスク・ニッケル(ロシア系)はニッケルと白金属に特化し、ニッケル鉱は世界生産量の18%、パラジウムは実に48%を1社で占めています。中国五鉱集団公司はもともと金属、鉱物の輸出入を行う中国政府直属の企業でしたが、海外でM&Aや探鉱、開発、投融資を積極的に行い、メジャーの一角にのし上がってきました。レアメタル・レアアースについては最強とも言える存在です。
2008年のレアアース世界生産量の97%を中国が占めています。レアアース資源そのものは決して「レア」ではなく、また世界中に広く分布しています。1990年後半までアメリカ、インドなどでも生産されていました。しかし中国の安値攻勢により、他国の生産が縮小し、多くのレアアース鉱山が閉山に追いこまれました。供給不足が続き価格が高騰すれば、休止鉱山の再開や中国以外の国で新規鉱山開発が行われる可能性が広がります。
日本近海は資源の宝庫
マンガン団塊、コバルトリッチクラスト、海底熱水鉱床などの鉱物資源が豊富に、かつ手付かずのまま眠っています。これら海洋の鉱物資源は多くの鉱種で陸上の埋蔵量をはるかに上回る量が存在すると推定されています。
> ではなぜ今すぐに海底資源を掘らないのか? 答えはもうすぐ!
海底資源の活用では、石油・天然ガスが先行しています。現在世界の石油生産量の1/4が海底油田からの油です。このうち4割弱は水深300メートルを超える深海底からのものであり、最も深いものでは水深2700メートルの深海油田もあります。これに対して海底鉱物資源のほうは、いまだ探査・試験採掘の段階で、商業生産されているものではありません。本格的な生産に結び付けるには、今後、資源量評価、環境影響評価、深海底での採掘システム、選鉱・精錬における適用技術など、十分なデータ収集や技術開発が必要となってきます。技術面では、海底に井戸を掘りパイプでくみ上げる油田と違って、鉱石の場合は海底の鉱床を岩石とともに掘削し、海上まで運び上げなければなりません。水深1000メートルの海底は100気圧の水圧がかかります。数百気圧という高圧下、しかも平坦で無い海底、場合によっては30度を超える山腹の斜面で、自由に動き回り掘削作業をするロボットを開発しなければなりません。
> ぐわっ、いかにも金かかりそう・・・。
備蓄制度はこのままで十分か
現在明確に備蓄制度を持っているのはアメリカ、中国、韓国の3カ国です。これ以外にもロシアや旧東欧諸国で備蓄制度を持つ国がありますが、機密事項のため詳細は不明です。アメリカ、中国では、国家非常事態に備える戦略備蓄という色合いが濃く出ています。中帆区は、資源戦略が国家戦略の重要な柱となっており、備蓄についても5年ごとに見直す長期計画に基づいて、中央政府と地方政府がそれぞれ実施しています。勧告の場合は日本と同様の「産業備蓄」ですが、最近「戦略備蓄」制度も導入しています。これに対して我が国の備蓄は純粋に産業目的からの者です。短期的な供給障害に備えることや価格急騰の影響を和らげることですが、国内に十分な備蓄を保有することが資源国に対するバーゲニングパワーにもなります。レアメタル国家備蓄に投じられている資金は数百億円程度で、これは石油の備蓄に比べると2桁小さい数字です。
都市鉱山の埋蔵量
我が国は元々鉱物資源に恵まれ、かつては多くの金属鉱山が操業していました。しかし1980年代以降、多くの山が掘りつくされたり採算が合わなくなったりして閉山に追い込まれ、今では鉱物資源のほとんどすべてを海外からの輸入に頼っています。天然の鉱物資源は乏しくなってしまいましたが、日本にはこれまで生産してきた工業製品が大量に蓄積されています。金属はリサイクルして何度でも使えますから、これらは再生可能な資源を埋蔵する「都市鉱山」と言えます。独立行政法人物質・材料研究機構の原田幸明博士が、20種類の金属について、貿易統計等をもとに輸入量から製品として輸出された分を差し引き試算したところによれば、我が国の都市鉱山は世界有数の資源国に匹敵する埋蔵量を有しています。金は6800トンで世界の埋蔵量の16%、銀は6万トンで22%、レアメタルではアンチモン19%、インジウム16%、タンタル10%など。

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