日本にいる工作員は多くはない
朝鮮有事といっても、日本への脅威として考えられるのはテロかミサイルということになる。北朝鮮には潜水艇・潜水艇を運用しており、これらが海自や海上保安庁の警備を掻い潜って日本沿岸まで極秘に潜入することは可能だ。とはいえ、現実問題として何隻もの潜水艦が警備を突破するなどということはまず考えられない。半島で交戦中にそんなに潜水艦を何隻も日本に派遣することもあるまい。となると潜水艦1隻で運べる人数は多くても数十人だ。それだけの人数で映画の様にいきなりコマンドゥ部隊として暴れまくるなどということもありそうにない。かねて日本に潜入し日本社会に溶け込んで暮らしているスリーパーが、それほどの破壊工作に参加できるほど訓練されているか はなはだ疑問だ。概して1人の工作員が様々な任務をあれもこれも任されている。ということはつまりはそれほど多くの工作員がそもそも日本にはいないということなのかもしれない。しばしば週刊誌などでは「日本には北朝鮮の工作員が1000人単位で潜伏している!」などということが書かれるが、まったく根拠のない話である。


ノドンのほうはすでに車載発射基が完成しており、これを山中に建設した秘密基地に配備していると思われる。ノドンに比べて極端に細長いテポドン1は車載化が難しいようで、おそらく今でも発射台上で組み立てなければならない。実戦ともなれば組み立ての間に発見されて破壊されるから、現時点ではほとんど軍事的脅威ではない。ノドンの車載発射基がどのくらい短時間でセッティングされ、発射できるのかはわからないが、現に2006年7月のミサイル連射実験ではノドン発射基をテポドンのようには事前察知ができなかったようなので、これは非常に危険なものと考えるべきである。
ところで「ノドンやテポドンの液体燃料はミサイル注入後に長期保存ができないので、必ず発射直前に注入される」と解説されているがこれはそうとも限らない。燃料注入後の保存ができないというのは、H-2Aロケットのような宇宙ロケットで使用される極低温推進剤のことであって、それをミサイル燃料に使用するなどというのは1950年代の頃の古い話だという。スカッドの推進剤を踏襲しているはずで、それならば燃料と酸化剤も常温で長期貯蔵が可能だ。ただし、燃料と酸化剤が混ざると自動発火するため、事故防止のために通常は燃料は注入せずに保管するケースが多い。とくに発射台上で組立作業行うテポドンの場合は、不慮の事故の可能性があるため最後に燃料注入するのが確かに常識的な方法ではある。だがある程度の危険を覚悟すれば前もって燃料を注入しておき、発射命令にスタンバイすることができる。
2007年、イラクでの状況が悪化していることで米軍の朝鮮半島への展開の潜在能力がさらに制限されているということがある。これにより米国はさらに「大部隊を増派する」ことが難しくなっている。米軍の空母打撃軍や空軍戦闘機部隊の破壊力自体は十分だから、いざとなったら北朝鮮を大規模空爆で叩くことはいつでも可能だが、さすがにそれなりの地上部隊の緊急増派がなければ金正日政権を一気にレジーム・チェンジ(体制変換)させるような地上軍の進撃は難しい。
アメリカのインテリジェンス(情報収集)活動の中心的存在はCIAであり、その中核は秘密工作員(スパイ)による極秘の情報収集活動(ヒューミント)を統括する「国家秘密工作部」というセクションだ。実際のところ、北朝鮮情報で重要なもののほとんどは偵察衛星や偵察機などの軍事的な手法によってもたらされており、核心情報がヒューミント・ソースから入手されたという形跡は非常に少ない。北朝鮮情報収集の主役はなんといっても軍事部門のインテリジェンスだろう。国防総省直属の情報機関である「国防情報局」DIAである。現在では信号電波傍受・分析(専門用語でシギント、さらに「コミント=通信傍受」と「エリント=軍事電波などの傍受」に大別される)や画像偵察・分析(イミント)を含めた総合的分析でCIA以上の総合情報力を持つといわれている。DIAはまた米軍などが行っている測定微証情報(マシント=マズィントと発音される)という情報活動も統括している。マシントは、電磁波、放射線、金属反応、分光スペクトル、赤外線、地震波、音響、大気・地層の成分などさまざまな物理的・化学的指標を測定し、その分析によって有用なインテリジェンスを導く手法のことを指す。北朝鮮の核開発のようなテーマの場合、このマシントが非常に重要に成る。核実験の衝撃波を補足、赤外線センサー、核爆発センサーなどは閃光・熱・放射線などによりミサイル発射や核実験を探知できる。とくにX線センサーはある程度の地下実験も探知可能だ。
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2007年現在、アメリカが何機の偵察衛星を運用しているのかは不明である。日本の新聞報道などでは「20機くらい」と解説されることもあるが、アメリカの主要メディアや専門誌などではたいてい10機以下となっている。リベラル系NGO団体「Union of Concerned Scientists)が集計している衛生データベースによると光学衛星「キーホール」5機+レーダー画像衛星「ラクロス」3機が運用されている可能性が高い。光学衛星は分解能・解像度が高いが、夜間や荒天時にはほとんど使えないほか影が写らないために建物の高さが識別できない、カラー撮影ができないなどの弱点がある。一方のレーダーは夜間も荒天も関係ないが、分解能が光学衛星よりも劣る。Union of Concerned Scientistsのデータベースによれば、キーホールの軌道高度は200~1040kmとなっている、地球を一周する周期はそれぞれ97~99分、単純計算で1日に地球を14.55~14.85周することになる。ラクロスの軌道はもっと複雑だが高度や周期は似たようなものだ。
 高度の調整も含めこれらの偵察衛星には自身が積載する燃料を使う推進装置によって軌道を変えられる機能が組み込まれている。したがっていざというときには狙った標的を集中的に偵察できるように、複数の衛星を微妙に軌道修正しつつ使うことに成るのだろう。ただし軌道修正を積極的に行う運用法は衛星の運用寿命を著しく阻害するため、とくに運用年数がある程度経過した機ではあまり使えない。斜め撮影のためにカメラや機体を傾けるのにもエネルギーを消費するから、これも乱用すると運用寿命を縮めてしまう。一般にこれら偵察衛星の寿命は5年と言われている。
米空軍はさらに地上レーダーも運用していて、これは「空軍宇宙コマンド」とAIAが共同運営している。もちろん、ミサイル実験などではこれらの地上レーーも航跡追尾にあたる。一方、弾道ミサイルの発射/発射実験の瞬間を探知するのが、空軍が運用する「DSP(攻防支援計画)、早期警戒衛星」である。DSPは静止軌道に打ち上げられており、赤外線センサーでミサイル発射の熱源を探知することになっている。現在6機が運用されている。2006年7月のテポドン2発射実験の際は、このDSPが発射の瞬間をリアルタイムで捕らえている。テポドン2のブースターの熱源をキャッチし、その熱源がほとんど移動しないまま約60秒後に消滅したことを捉えていたのだ。
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