星や星座で私たちに最も馴染みが深いのは、なんといっても星占いである。昨今の特に女性向けの雑誌で星占いの欄のないものを探すのは難しい。星の運行と個人の運命を結びつける占星術はもともとメソポタミアで、特にバビロニアで発達した。占星術の知識がギリシアに流入したのは、前6世紀後半、ギリシア世界がポリス(都市国家)の形成に向かっていた頃のことである。前5世紀頃には星占いの流行はほとんど見られなかった。占星術や星の神話への関心が高まったのはヘレニズム時代に入ってからのことである。
きょえー、メソポタミアの時代から占いあったんだと。知らなかったよー。古代のおける占星術はマジナイではなく、軍事戦略とまで言い切ったのに、おまじないもあったみたいだねぇ。こりゃ失礼。
ブームの原因の一つは、アレクサンドロス王亡き後、ギリシア世界が拡大してオリエントとの交流がふたたび活発化したことに求められるであろう。ヘレニズム期は不安の時代とも呼ばれる。ポリスの民主的な政治体制が崩壊し、政治情勢や社会が大きく変化した結果、人々がポリスという共同体の運命よりも個人の運命への関心を強めたことも星占いが隆盛になった一因であった。星座の物語が発達したのも星占いの流行とほぼ同じ頃である。アラトス(前315頃~前240/39)という詩人の「パイノメナ」(前270年)である。英語のphenomenon「現象、事象」に複数形に当たる語で、「天界現象」あるいは「星辰譜」と和訳される。「パイノメナ」は通俗的とはいえ、天文学の分野で現存する最古の文献であり、天体に関する知識や星と星座にまつわる多くの神話を含んでいた。
天球には黄道帯と呼ばれる太陽の通り道がある。星占いでは黄道帯が12等分され、各部分に一つずつ星座が配置されている。12宮が考案されたのは今から3000年ほど前で、その頃には、昼と夜の長さが同じになる春分点が牡羊座の位置にあったため、牡羊座が第一宮とされた。牡羊座と結びついているのは最古の伝説の一つアルゴ船の物語である。この伝説を題材とする詩で現存するのは、ロドスのアポロニオスというヘレニズム時代の詩人「アルゴナウティカ」である。人類最初の巨大船アルゴ号による英雄イアソンの物語を語る。
牡牛座:ゼウスがエウロペをみそめ、牡牛の姿に変身して彼女に接近したという神話、ヘラクレスの7番目の功業、クレタ島の牛と結びつける説もある。
双子座:最も有力視されているのはカストルとポリュデウケスという双子で、双子座にはカストルという2等星とポルックスという1等星が含まれる。日本では「ぎんぼし」「きんぼし」と呼ばれている。カストルは馬を飼いならすのが得意で、ポリュデウケスはボクシングの名手であった。
新約聖書がギリシア語でかかれたように、ギリシア語とキリスト教には深いつながりがある。それを端的に告げるのが、初期キリスト教のシンボルマークの魚である。ガリラヤの漁師であったペテロが第一の弟子として「人間を漁る漁師」と呼ばれ、聖体拝領の原型とされる「パンと魚の奇跡」の逸話が四福音書のすべてに収録されているなど、キリスト教の魚に因縁浅からぬものがあるが、魚はなぜ初期キリスト教のロゴになったのだろうか。それは魚を意味するギリシア語のichthysのつづりと関係する。「神の子イエス・キリスト救世主」をギリシア語でいうとIesous Christos theou hyios soterとなる。Iesousは人名でイエスのこと、Christosは形容詞で「聖なるものとして油を塗られたを」意味するが、固有名詞としてキリストを指すようになった。theouは神の、hyiosは息子、soterは救世主でこの頭文字をつなぐとichthysになる。(hyiosのhはギリシア語では独立した文字ではなく、有気を示す記号で表されるためyが頭文字になる)。このことから魚が初期キリスト教の象徴になったのである。
星座よりも見つけやすい天の川は英語でmilky way、あるいはgalaxyと呼ばれる。galaxyの語源は乳を意味するギリシア語のgalaである。女神ヘラは連れてこられた赤ん坊に乳を含ませていたが、この乳児が仇敵のヘラクレスとわかるとあわてて彼をふりはらった。すると女神の乳汁が空一面に飛び散り、それが天の川になったという。