マルクス主義の宗教的性格
マルクスの予言は、資本主義社会の矛盾を克服する救済の道筋として、人々の感性に強く訴えた。ほとんど宗教的な影響力である。最後の階級闘争と資本家階級と戦うプロレタリアート階級の存在、資本家階級の支配する国家はやがて死滅する、プロレタリアート階級が国境を越えて団結し人類の解放者となる、最後には共産主義社会が到来する・・・というマルクスの予言は、キリスト教の聖典である『ヨハネ黙示録』が預言する千年王国の到来と内容が共通している。『ヨハネ黙示録』は、選ばれた人々が救世主の絶対性を信じて組織化され、悪の跳梁する社会において戦いを繰り広げて悪なる者たちに勝利し、千年の間、救世主とともに地上の王国を支配した後、復活した悪なる者たちとの最後の戦いに勝利し、さらに最後の審判が下されたあと理想の国が実現される、と預言する。これをマルクス主義に置き換えれば、「共産党宣言」が予言の書であり、最後の階級闘争を資本家階級と戦うプロレタリアートが選ばれた民であり、資本主義社会は「搾取」という原罪の上に成り立つ悪なる社会であり、資本主義の危機とその消滅が最後の審判であり、共産主義社会が理想の国の実現なのである。ついでにいえば、プロレタリア独裁は千年王国の期間に相当するであろう。マルクス主義は、たしかに「科学的な」社会主義であった。しかし『ヨハネ黙示録』になぞらえるほどの、強烈な宗教的色彩を帯びた「救済思想」でもあった。