母子の決裂
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ネロは母の権力を弱めるにはまず彼女の腹心の者を除くことが最も効果があると考えた。そのめあてはほかならぬパラスである。彼はクラウディウスによってカエサル家の財産管理を委任され、巨富を積んで王者のようにふるまっていた。それにアグリッピナを妃にのし上げた功労者であり、彼女の陰の愛人でもあった。それでも彼は解放奴隷としてカエサル家に私的に任用されているにすぎないので、公式の手続きなしに簡単に首にすることができた。パラスはすでにこのことを予期していたのか別に抗議もせず、仰山な取り巻きたちを引き連れて悠然とカエサル家から退出していった。
さてパラスの失脚によって足元が崩れ落ちるように感じたのはアグリッピナである。そして実子ネロに向って次のように言い放った。「ブリタニクスはいまや立派な青年です。父の統治権を受け継ぐには、彼の方こそ正統な世子です。お前は他家から侵入して養子におさまり、おまけに母親を虐待する目的で統治権を乱用していますからね。」こういうなり彼女はもう何もかもぶちまける暴露戦術で息子に挑戦した。彼女がネロのために犯した数々の罪悪、とりわけ彼女がクラウディウスと結婚し、また彼を暗殺したいきさつを臆面もなく喋り捲り、さらに、シラヌス兄弟、その他数多くの犠牲者の名を上げてネロを責め罵った。