生産性の伸びの源泉
生産性が高齢化危機を回避するカギだとすれば、どんな政策を通じて生産を引き上げられるだろう? 歴史的にみて、生産性の向上をもたらしてきたのは、新型の機械だった。綿織り機もそうだし、蒸気機関もそうだし、鉄道も、自動車も、電話も、そうだった。こうした機械を製造するには資本が必要であり、資本を形成するには貯蓄が必要だ。ならば、貯蓄率を引き上げれば、資本形成が促され、ひいては生産性が向上すると思える。経済学者が米国の貯蓄率引き上げを提唱するのはこれが理由だ。そうすれば、生産性が向上し、高齢化の波がもたらす打撃を緩和できる。だがこの仮説は、つまり余剰貯蓄があれば生産性を大きく伸びるとの説は、1950年代半ばにMITのロバート・ソロー教授の先駆的な研究によって否定されている。1987年、教授はこの研究でノーベル賞を受賞した。企業の設備投資は、企業が生産に利用するために購入する機械、プラント、設備の一切は、歴史を通じて、生産性の向上にほとんど貢献してこなかった。
日本の貯蓄率は世界最高の水準にあるが、1990年代、生産性はほとんど伸びなかった。米国の生産性は同じ時期、貯蓄率は低い今まで力強く伸びた。日本のケースをみると、貯蓄率が高すぎる国では帰って生活水準が低下する場合さえあることがわかる。貯蓄が高齢化危機に対する答えになるなら、先進国の中でどこより貯蓄率が高い日本は、高齢化問題などどこ吹く風であるはずだ。だが、事実はそうではない。貯蓄率引き上げが生産性向上の答えでないなら、何が答えなのか?スタンフォード大経済学教授で、「新成長」理論の提唱者、ポール・ローマーの説によると、生産性の最大の源泉は、発案と想像の蓄積にある
発見の土壌と伝承
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ハーバード大学経済学部教授、マイケル・クレマーが『人口増加と技術と進歩 紀元前100万年から1990年まで(Population Growth and Technological Change 1,000,000B.C to 1990)』なる壮大なタイトルの論文を寄稿している。クレマーの説得力のある論によると、歴史の大半を通じて、人口は経済成長率をあらわすかなり有効な指標となってきた。人口密度が上がると、アイディアの伝達が速くなり、専門家が進み、道具が洗練され、食糧生産高が増える。なかでも重要なのは誰かから別の誰かへ、ある世代から別の世代へと、情報伝える能力だ。情報量が増えるほど、生産性が上がり、大きな人口を支えられる。産業革命が始まるまでは、生産性も人口も這うほどのペースでしか伸びなかった。発見や創意工夫がなかったからではなく、あっても次の世代に伝わらなかったからだ。たとえば紀元100年頃のローマのインフラ設備(道路、下水、水道)は、19世紀の欧州の都市が、まずかなわない水準だったといわれる。