高級デパートには2万円の値札のついたTシャツが当たり前のように並び、4万円もするスニーカーが無造作に陳列されている一方で、そのデパートを一歩外に出れば北京のタクシーは初乗りわずか10元(約130円)で乗ることができ、屋台で売られている茹でトウモロコシは、安ければたった1元(約13円)で食べられるのである。こうした相反する事象やニュースは、「中国」の中で共存し、外から中国を見るものを惑わせる。本来なら2つの異なる国の事象であるべき両極の現実を一つの国につなぎとめているのも、実は「地下経済」の存在を抜きには説明できない。地下経済は毛細血管のように中国人の暮らしの中に入り込み、日々の生活と切っても切れない関係を築いてしまっているからだ。「およそ中国で暮らしているものであれば、地下経済とまったくか変わりなく生きている者などいない」。地下経済の取材を始めてからであった専門家や識者、そして実際に地下に生きる者たち、旧来の友人・知人まで、彼らが共通して語ったのがこの言葉だった。
地下経済のドン、中国の高級車「紅旗」
「車のナンバーを見てみるんだ。最初の文字が『京O』から始まっているだろう。あのナンバーの意味は、車が公安の持ち物だっていうことだ。軍や公安の幹部は、表向き国産の高級車に乗るように指導されている。でも、本当は乗りたくないから公安には『紅旗』が余っている。そういう車を公安と関係の深い人間に回しているんだ。だから、あれにうっかり追突でもしようものなら、ちょっと厄介なことになるんだ」