「投資・投機・ギャンブルの違いを述べよ。」と著者に問い詰めたくなる。正解はないが、どのように答えるかで、その人の考えやこだわりがわかる。私の考えでは、
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投資とは、リスク・プレミアムを受ける行為、ギャンブルとは、リスク・プレミアムを払う行為。
投資とは、資産価格で認識する取引態度、投機とは、損益だけで認識する取引態度。

リスク(Volatility)が高いほど、高い期待値を求められる証券市場・金融市場のインストルメンツは投資となり、リスクが高いほど期待値が下がる富くじ、競馬、パチンコなどはギャンブルと規定される。一方で、投資・ギャンブルの区別はインストルメンツに帰属する判別かというとそうでもないので、あえてぼかして行為と書いているのだが、金融市場のインストルメンツでプレイしていたとしても、高いレバレッジをかけて、高い金利を払いながら株・先物・FXに挑む行為はギャンブルに近い行為と言えよう。
時価総額、NAVを認識するファンドは投資だが、損益で認識するトレーディングは投機。一物多価の解消であるアービトラージも、その差額にのみ注目しているので投機的行為。差金決済の先物や、Max(S-X,0)という差が取引対象というオプションは投機的インストルメンツなのである
世界的なインフレの過程の中で発生した「石油ショック」の圧力を軽減する努力に、日本の民間企業はそれこそ総力を挙げて取り組んだのであり、それがまた、日本商品の国際競争力を一段と強め、そこから今日の世界最強の競争力が生まれたという事実をもたらしたのである。「石油ショック」の当時を振り返っても日本の企業経営者は、まず第一に「販売価格=生産コスト+適正利潤」という米国型の企業経営者に共通した認識そのものが、日本国内市場では通用しないという原点から出発せざるを得なかった。戦後の日本経済の特徴は、国内市場でのきわめて熾烈な競争である。競争相手よりも安いコストでよりよい製品を生産する体制を築き上げなければならない。生産コストとは無関係に市場での競争で決まる販売価格に、いかにして生産コストを合わせるかという課題の解決のために日本の経営者は従業員の勤労意欲を刺激する一方、徹底した技術革新の導入に、全力を挙げなければならなかった。
競争の激しさは単に価格面だけではなく、品質、性能、信頼性に加え、納期、アフターサービスなど非価格面にも及んでおり、この厳しい競争に勝ち抜くだけの実力を備えている外国の民間企業はきわめて少数で、日本国内市場に関する限り、日本企業の優位は動かない。だが、こうした変化そのもの、すなわち価値の高まる「日本円」を、是が非でも入手しようと激しい競合が展開することで、日本の国内市場の競争は、「円高」とともに急激に激しさを加え、それがまた日本の企業経営者にとってはなによりも強い不安感を抱かざるを得ない背景なのである。しかもこうした国内市場での競争の激化を一段と強める「自由化政策」が進行する中で、その大きな柱の一つ「国有企業の民営化」が、これまた伝統的に国有企業との人的な結びつきによる既得権の崩壊を作り出している。たとえば、62年4月民営化された国鉄をとっても、これまで輸送業務だけを担当してきた国鉄が、たとえば積雪地帯であれば駅前にスキー場を開設、貸しスキーを始めることで地元の観光業者と激しく競合をはじめた。地元の観光業者にして見れば、これまで国鉄はお客さんを運んでくるお得意様だった。それが一転して、スキー場あるいは貸しスキーで直接競合する状態に追い込まれたとき、お客を連れてくる国鉄が、こうした能力を持たない地元のスキー場経営者、貸しスキー店の経営者に甚大な打撃を与えることは避けられず、彼らは今になって、国鉄民営化が彼らの既得権そのものを根底から覆す新しい「経営環境」を生み出したことにいやでも気づかされている。同様のことが、あらゆる国有企業の民営化に当てはまる。
郵貯の民営化は金融機関には大きな衝撃を与えることになるだろうな。
1986年に発生し、かつ定着した「デフレ」が日本一国の問題ではなく世界経済にわたっての共通した流れであることは疑いない。
ブブー
スペキュレーション時代とは
「スペキュレーション」は人類が経済活動を始めて以来、市場の成立とともに発生した商行為である。
鉄鉱石、石炭が商品取引所に上場されていなくても、これまでの経験から同じパターンの価格変動を示す上場商品を見出して、鉄鉱石、石炭の購入契約と同時にこうしたほかの上場商品に「カラ売り」を思い切って仕掛けておく投機を経営戦略に織り込まない限り、デフレが続く間は鉄鋼会社は相対的に高い原料を仕入れて、完成鋼材を安く売る逆ザヤ現象から身を避ける手段を持ち合わせることができない。
え? 何この素人発言? 著者の長谷川慶太郎、あー、経歴見たら日本の経済評論家。だって。評論家とは、理論的な整合性が求められる法則や法律などを、一切作ることはできないが、「あるあるー」と民の共感を得ることだけが求められる「格言やコトワザ」というレベルの発言が得意な職業。と個人的に思っているので、この素人発言っぷりは、納得なのだが、このノリが本一冊分続くのは多少苦痛ではあった。
今や世界全体にわたって、あらゆる業種を問わずすべての民間企業は少しでも低い利率で多くの資金を調達し、その資金を「投機」に投入して、利ザヤを稼ぐ以外に収益を確保する見通しを持たない。「財テク」は、企業経営の中心的な役割を担う時代が来た。
これねぇ・・・、このままだと間違いなんだけど、ちょっと言葉を変えれば正しくなる。なんだろね、言葉づかいも、素人臭さを感じるな。財テクという言葉使いは時代を考慮すれば否定しない。
民間企業では最も効率がよいと期待される方法で資金調達し、その資金を「投資」し、M&Aという形で企業買収、分離などをしないと、従業員がいくら努力しても、企業成長は難しい。この投資活動こそが企業”経営”の中心的な役割を担うであろう。
だったら日本の経営者にお灸をすえる良い言葉になったと思うんだがね。
個人生活の投機化
デフレ時代の定着は個人生活の基本設計に重大な変化をもたらす。第一に長年インフレ時代とともに定着してきた土地神話が消滅し、これまで個人生活の基本であった長期ローンを組んで持ち家に住もうとする生活設計は、その有効性を急速に失いつつある。またデフレとともに金利の低下現象が著しく、かつて個人の金融資産を形成する上に、もっとも大きな役割を果たしてきた預貯金による資産形成は、これまた急速に終止符を打たれようとしている。その上、「マル優」の廃止が税制改革の柱として定着した中で、一段と「金融の自由化」が進行し、これに伴って金融市場、証券市場の「投機化」が一層個人の金融資産形成に「投機」の要素を持ち込んでくる。
「マル優」廃止の意味
昭和62年度税制改革の基本路線が決定した中で、最も重要な、かつ長期にわたって影響を与えると判断されるのは、「マル優」の廃止である。明治初年に当時の政府が日本国民に「勤倹貯蓄」の精神を植え付け、近代的な金融制度を導入する基盤としての郵便貯金制度を開始してから今日まで100年以上を経過したが、この間利子所得に対する免税という便宜を与えて、個人の金融資産の蓄積を奨励する政策を続けてきた。「マル優」の適用を受ける貯蓄残高は「マル特」と呼ばれる一人300万円までの国債保有を含めて、昭和61年9月末には、約300兆円に達したと推測される。この300兆円という金額は1ドル150円で換算して、2兆ドルに相当し、米国政府の発行した長期国債の残高2兆ドルとほぼ同水準。世界経済を撹乱する危険をはらむメキシコ、ブラジルなど発展途上国の累積債務の総額とされる約1兆ドルの2倍である。「マル優」という制度は利子所得に対する免税という鎖で、これだけ巨額の資金を日本国内金融市場に縛り付けておく制度であった。これが廃止されることで「金融の自由化」は急速に進展する。
マル優廃止しても、金融自由化、特に預金に関しては何も変わらなかったよね。その後は円高政策で、外貨に対する恐怖心を植え付け、金利0でも円で置いておけば安全という、円神話は存在しているのではないだろうか。
これからの世界はどう変化するか
すでに挙げたように、現在の世界は急速に戦争の脅威から遠ざかっている。米ソ両国をとってもそれぞれ軍備の拡張を維持することはおろか、現行の軍備それ自体を維持することももはや不可能な状態になりつつある。「米軍は弾薬を持たず、ソ連軍には兵隊がいない。」 現実に、年間3000億ドルもの軍事費を投入している米軍は、意外に弾薬の不足に苦しんでいるし、ソ連では1982年以来、在学中の大学生を現役兵に徴集している。もはや軍備を縮小する以外に、ソ連は経済を再建する機会はない。また、同時に米国にとっても軍事費の削減、それは財政赤字の縮小、したがって減税を通じての経済の再活性化を意味している。世界は今や「戦争と革命」の時代の終末を迎えつつある。また同時にそれが世界的な物価の低落、デフレ現象を推進していく最大の原動力なのである。
この本1987年の発行なのだが、アフガニスタン内戦、その後1990年にはユーゴスラビア・NATO空爆と、どうみても戦争と思えるイベント目白押しで、この人は何を見ていたのかね?

「投機(スペキュレーション)」の時代 「投機(スペキュレーション)」の時代
長谷川 慶太郎

中央公論社 1987-04
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