預金市場と規制金利
預金市場は様々な金融市場の中で最も自由化の遅れた市場の一つであり、第二次大戦後長い間にわたってほとんどの預金金利が規制下に置かれてきました。その内容を具体的に見ると、1947年に臨時金利調整法が制定され、預金金利についての最高限度が定められました。臨禁法による預金金利の最高限度は、常に市場実勢を下回る水準に設定されていたので、預金市場では金融機関による預金取り入れ意欲が慢性的に家庭の預金保有を超過し、金融機関同士で激しい預金獲得競争が繰り広げられてきたのです。預金金利の最高限度は、公定歩合と密接な関係をもって変更されてきました。預金金利の変更は、まず大蔵大臣が発議し、それに基づいて日本銀行政策委員会が金利調整審議会に諮問します。日本銀行は、この最高限度の範囲内で3カ月、6か月、1年といった機関別の預金細目金利をガイド・ラインとして公表し、これが各金融機関が実際に顧客の預金に適用する預金金利となっています。なお、郵便局の貯金金利は、別途に郵便貯金法に基づいて郵政大臣が郵政審議会に諮問し、その答申を受けて閣議で決定される仕組みになっています。民間金融機関の預金金利と郵便局の郵貯金利とのこうした二元的な決定方式は、しばしば両社の対立を招き、公定歩合の機動的な変更を阻む要因となっています
預金金利の自由化
外貨預金は1974年9月臨金法による金利規制の対象外とされ、外国政府・外国中央銀行および国際機関から受け入れる非居住者円預金も1980年3月以降、金利が自由化されました。次いで、短期金融市場のCD発足当初は発行枠を自己資本の10%、最低発行単位は5億円、期間は3カ月以上6カ月以内といったかあり厳しい制約が課されていたのですが、これらの制約条件は、その後段階的に緩和され、1988年4月以降、発行枠は撤廃、最低発行単位は5000万円、期間制限は2週間以上2年以内となっています。さらに1985年10月には一口10億円以上、期間3カ月から2年の大口定期預金について金利が自由化されました。その後大口定期預金についての規制も段階的に緩和され、1989年4月以降、最低預入金額は2000万円、また1987年3月には市場金利連動型預金MMC(Money Market Certifiates)が導入されました。MMCは一応臨金法に基づいて上限金利の決定される預金ですが、その上限金利がCDレートに連動することとされているので、実際に自由金利に近い預金です。
信用創造理論と乗数アプローチ
標準的な金融論の教科書ではマネーサプライの決まり方を「信用創造理論」によって説明します。中央銀行が民間の金融機関に対して信用供与を行いハイパワード・マネーを増加させると、金融機関の貸出行動を通じて金融システム全体としてハイパワード・マネー供給量の何倍かの預金通貨が生み出されるというものです。マネーサプライはハイパワード・マネーに一定の倍率(信用創造乗数・通貨乗数と呼びます)を掛けたものとなります。ここで通貨乗数は必要準備率や民間の企業・家庭の保有する現金比率によって決まるのですが、そうした通貨乗数が安定しているならば、中央銀行はハイパワード・マネーをコントロールすることによって、その乗数倍として決まるマネーサプライをコントロールしうることになります。しかし、こうした乗数アプローチによってマネーサプライをコントロールすることは決して容易ではありません。なかでも最大の難点は、通貨乗数がそれほど安定してはおらず、その予測も難しいということです。ハイパワード・マネーについて設定された目標値を厳格に守ろうとすると、短期金融市場の金利が大幅に変動しがちであるという点も、ほとんどの中央銀行が乗数アプローチを採用することに消極的な理由です。日本銀行の場合にも、乗数アプローチ的な考え方が採用されたことは一度もありません。実際に日本のハイパワード・マネーにはマネーサプライの変動をもたらす要因というよりは、むしろマネーサプライの変動の結果として決まっていると言えるでしょう。
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マネーサプライの望ましい伸び率
欧米主要国で採用されている考え方を大別すると次の2つがあります。第一は西ドイツのブンデスバンクをはじめとしたEC諸国の中央銀行が採用している方式です。これはマネーサプライの望ましい伸び率を①実質GNPの潜在成長率、②やむをえざるインフレ率、③流通速度のトレンド的変化率、の3つの合計として計算するものです。①は実際の成長率ではなく、資本や労働をフルに使えば能力的に可能な成長率のことです。②は、もちろんゼロ%であることが一番望ましいのですが、様々な産業や地域間での資源の再配分を円滑に行うことなどのために、最低限度の程度の物価上昇を甘受せざるをえないかという観点から決められます。③は先ほど日本のM2+CDについて説明したのと同様な流通速度のトレンドの存在を考慮したものです。
 第二はアメリカの連邦準備制度が採用している方式で、当面の実質GNP成長率やインフレの予測値と見あったマネーサプライの伸び率を求める方法です。具体的にはマクロ計量モデル(経済の主要な変数の間での数量的な関係を多数の方程式体系によってとらえたモデル)や通貨需要関数などによって予測します。これらの2つの方式にはそれぞれ問題点が存在します。EC諸国の方式については、潜在成長率、やむを得ざるインフレ率、流通速度のトレンド的変化率のいずれについても恣意的な性格が付きまといます。望ましいマネーサプライの伸び率については、あくまでも大まかな目途として位置づけ、そこから実際のマネーサプライの伸び率が大きく離れた場合に中央銀行として初めて警告を発する程度のとして考えておくべきでしょう。次にアメリカ方式については、経済全体の見通しの整合性を図りながらマネーサプライの伸び率を考えるという点でいかにもアメリカらしいプラグマチックな対応なのですが、こうした方式ではややもすると現状追認に流れてしまい、インフレーションの進行を是認してしまう危険性のあることに十分に注意しておかなくてはなりません。中央銀行にとってマネーサプライのコントロールは、あまり観念的になり過ぎても行けませんし、また逆に現状追認に流れてもいけない、極めて難しいバランス感覚を必要とする判断だと言えると思います。
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