軍隊時代にこの人物なら大丈夫と思う学徒兵の仲間には「五箇条の勅論(注・軍人勅論のこと)をかしこみ一命を海に捨てようと私は云はうと思ふ なぜなら国家は最大の悪である 虚偽は最大の善である」といった手紙を出したりしているのである。
国家は最大の悪か・・・20代の若者の意見として、おじさんはニコニコとうなづきながら聞こう。
山崎の歩もうとする法律の世界は、人間の感情や思惑に振り回される世界であり、法律の条文がその立場によって解釈も変わってしまうという世界である。
当時(一高から東大法学部に合格した頃)私は数量刑法学・・・ともいうべき一つの学問体系をつくろうと思っていた全刑罰法規全体を総合考察した、法定刑における刑罰数量の論理的構成を明らかにして量刑上の処断を限定するもので建築技師が対数表によって設計するように裁判官はこの刑罰数量表によって合理的に判決できる。
この刑罰数量表をつくってみようというのが、山崎の学問上の目的だったというのである。私が何人かの弁護士に尋ねると、こんな数量表で刑が執行されることになるなら、我々の仕事は不要になると笑うだけだった。
インフレ状況下での現金不足に悩む企業、それに運転資金の回転が円滑でない企業は正規の金融機関からの調達には時間がかかる。それは待っていられない。それでヤミ金融であろうが、とにかく資金調達の場を確保しておきたいとあせる。こうした状況下で、大蔵省や警察・検察はどこか一社を対象にして、このようなヤミ金融の存在は社会正義のために許されないとの意図をこめて罰則を加える必要があった。いわば一罰百戒である。山崎の光クラブはその対象になった節もあった。当時のヤミ金融の実態にふれておくならば、大蔵省の各地方統計局の調べによると、昭和24年4月の段階で東京は239人、大阪が395人、神戸939人、神奈川が139人のほか北九州、広島などでもヤミ金融業者の活発な動きがある。税務署がその動きを追いかけているのは所得9000万円の森脇将光とやはり東京の所得1000万円の貸金業者というが、それでも昭和22年度から23年度の新興金融成金業者の摘発を続けているにもかかわらず、成果は上がっていないのだという。
「私にかけられた容疑は、物価統制令違反、つまりは金利が高すぎたということでしょうが、貸金利法によりますと、我々貸金業者の金利決定は臨時金利調整審議会にかけて決まったものではない。大蔵省は日歩50銭としているが、これは臨時金利調整審議会にかけて正式に決まったものでない以上、違法行為といっていい。だから私がたとえ日歩70銭で貸し出しを行ったところでおかしくはない。もし大蔵省がこれに横槍をいれるなら、私の方が大蔵省の違法行為を訴えたい。」
山崎は終始この論法で押した。これは正論であった。実施には大蔵省の行政指導が前面に出ていて審議会は名目に過ぎなかった。その点を巧みに突いたのである。山崎は自身の予想通り一ヶ月余りで釈放になった。
戦後のホリエモンを地で行く感じだな。
初めての客は50代の男性で小金持ちだ。山崎が出勤してみると、三木がその小金持ちに光クラブの説明をくり返していた。事実と嘘が入り混じっている弁舌で、この医学生は山崎よりもこの仕事に関心をもっているようであった。まず三木の弁は長くなるが紹介しておくことにしたい。
「会長はまだ若いですが、その道では人に知られた練達の士で、東京帝大の最高学府を出た秀才でしてね。私も大学を出てるのですが、敬服して入会してるのですよ。堅実第一・・・つまらぬ事務所に金をかけるより、お客さんのため最も有利な貸し出しをやるために夜も寝ずにやっている努力家です。何しろ会長の家は、千葉県でも何番目かの資産家で、その関係からも資金が流れてくるので、いままでは余り宣伝もしなかったのですよ。今朝も50万円ばかり出したという会員があってそっちに廻ってますが、いまに来ます、や、来ました。こちらが会長の山崎氏です。」
「ヤー、イラッシャイ、御投資の方ですか、三木君。そうですか。三万円ほど1か月ためしに投資したい?判りました。私は皆さんに私を信用してくれなどと言いません。ここに30000円ある。30000円ただ抱いているだけでは何もならない。今は金より物の時代ですから、取引の時は現金取引です。戦前のように信用取引がない。サッカリン10キロ売ってもいいというAを見付け、また一方にサッカリンが欲しいというBがあってもCは金がなければ荷が動かない。昔ならAから掛けでサッカリンをかってBから金を取ればよかったが、今ではまずAに金を渡し、サッカリンを受け取ってBに渡して代金を取る間の”みせ金”がなければならない。ウチは主にこの”みせ金”を貸すのです。Cは、いまどきです、相当儲かるから日歩1円や1円50銭の金利はなんでもない。日歩1円なら10日で1割ですからね、アメリカでも大戦後は、小売のマージン-利ざやですね、これが3割を越えている。日本のブローカーも3割以上をとっているから、うち1割の金利は簡単に払えるわけです。あなたの30000円もウチの金と合わせてこの”みせ金”に使うわけですよ。ただ持ち逃げされると困りますから光クラブの事務員が金と一緒にブローカーについて歩く。この給料をを頂かなくてはならぬから、10日1割、月にして複利計算して3割4分の利息が入りますが、クラブの1割9分頂き、お客様に1割5分、月々お払いすることになるわけです。お判りになりますか。この3割4分マイナス1割9分=1割5分という科学的機構を信用して頂きたい。数学を信用して欲しいというのですからこんな若造を信用するより堅実でしょう。」
この台詞びびるわ。他人とは思えない。俺の仕事と全く同じ論理。
私は自分が天才だとは申し上げません。私がうまくやるとか天才だとか属人的なことではなく、デリバティブが持つ性質で損失は常に限定的であることが保証されるのです。これは小難しい確率論ではなく、”算数”です。」
「東大生社長の光クラブは大々的に預り金募集を行っている。これは預金と貸付を併せ行う銀行類似であり、小ヤミ金融界の新設銀行である」として銀行法違反と決めつけられた。あわてて山崎は、銀行法をめくttみたという。その結果、銀行法違反はコーヒー一杯の値段にも及ばない罰金50円の罰則である。「なんだ」と山崎はつぶやいている。
50円など形式的な罰則はないと同様である。罰則のない法律は強制力のない倫理、道徳の類である。私は社会秩序の規範として、法律は守るが、モラル、正義の実在など否定している。私は合法と非合法のスレスレの線を辿ってゆき、合法の極限、法律によって禁止されていると誤解されているものを、きわめたいと思っているのでほとんど強制力のない倫理綱領類似の銀行法など問題ではなかった。
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