光クラブ事件要約
金詰りの街に私設銀行が続出しているが、その一つ学生社長の「光クラブ」が摘発され杉並区東田町1-18同社長東大法学部三年生山崎晃嗣(27)同専務取締役日本医大三年生三木仙也(25)の両名が四日京橋署に暴利による物価統制令違反の疑いで留置された。両名は親戚友人から募って中央区銀座2-3に資本金600万円と称して光クラブの金融業を始め全国的に宣伝し、東京国税局からも高いヤミ金利だと警告をうけていたもので、中央区月島機械株式会社に3月19日から4月23日期間で76万円を貸した際に山崎は利子として1割1分を天引きし、さらに3万190円20銭を利息として取り、また現金30,000円を同社に貸付たときも日歩70銭の割で差引き契約したことが法定利子を超過する暴利とみられたもの、別に現金50万円の貸付けにつき10日で1割の利子もとっていたという
山崎は調べに対して事実を認めている。(朝日新聞 昭和24年7月5日)
山崎の自殺のあと、競うようにして二冊の書が刊行された。一冊は、「私は天才であり超人である」(光クラブ社長山崎晃嗣の手記)といささか読者を小馬鹿にしたようなタイトルの書である。全編、まるで女性との関係に憂き身をやつしているような記述に覆われている。もう一冊は「私は偽悪者」といかにもアプレゲールを象徴するかのようなタイトルがつけられ、著者は、光クラブ社長山崎晃嗣となっているのだが、内妻だったと称する「佐藤静子」なる女性が山崎から託されていた原稿を刊行するに至ったとある。
やべー、俺もそろそろ自称天才宣言止めないとな。「人のふり見て我がふり」じゃ。山崎君は27歳で命を絶っているが、私もこの年になるとずうずうしくなるせいか、その繊細さはもうないな。でも読んでるとけっこう類似性あるんだわぁ。
(山崎に)出会ったらちょっとやりきれない男だったらう。「ございます」口調の高い鼻にかなにかの眼鏡をかけたような男、失恋してどんな気がしたかと問われて「味はひ深うございました」などと、しやれ気もなく答へる二十何歳の学生には横を向きたくなったに違ひない。しかし、戦後の無軌道な社会、既成の生活基準が崩壊しさり、新しいモラルが単に言葉としてしか用意されなかった時代にあって、みづから「合意によるものは拘束さるべし」といふ単純な標語をかざし、そこに生き、そこに死んでいったこの青年は、戦後一現象としてみるだけではかたのつかないものをもっていゐる。(唐木順三「自殺について」)
男性読者諸君はしらんだろうが、私も女性の前では「ございます口調」なんだわ。女性の前では、俺->ワタクシ、てめー->苗字+さん、呼ばれたら「アン?」->「はい」だ! 敬語とまでは言わないまでも、丁寧語で話し、歩く時は半歩後を歩くよう心かげております。
全国どこの大学内部でも社会主義運動への共感から共産主義者の勢力が肥大化しているときだった。「革命」のためには、山崎のような死は意味の無い死でしかないと判断されたのであろう。ただ当時、やはり東大法学部を卒業して大蔵省の官僚となったが一方で小説家として世に出ていた三島由紀夫が「青の時代」として発表したことが目をひく程度である。山崎を知っていると自認していた藤田田に取材を申し込みをしたが、体調がすぐれないという理由で断られた。
君さらず 袖しがらみに 立つ浪の その面影を 見るぞ悲しき 
君さらずが木更津になった。江戸時代には木更津船と呼ばれる運搬船が江戸とこの港を往復したといわれている。近代に入って一時期は木更津県庁も置かれたが、木更津港は遠浅だったために大型船の入港が難しく、新たに開通した鉄道に輸送の比重が移り、街全体にしだいに活気が薄れていくことになった。三島由紀夫の「青の時代」の冒頭は、木更津の地勢について描写されているが、それはきわめて的確であった。
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三島するどいなぁ、青の時代読んでみようかなぁ・・・。
「父にとって子供たちは一高に入らねばならない。また東大から教授にならなければならなかった。しかし長男、次男、三男とつぎつぎに彼の期待はずれたので、小学校の頃から成績がよく、一高、東大に入れそうな私は一番可愛がられた。ことに小さいときから体が弱く、石塀の外に出て遊ぶことを知らぬ私は、母からこわれもののように大事に扱われた。幼い暴君であった。山崎は自ら認めるように、父親の期待と願望を直接に浴びながら成長したということにもなるだろう。
私は自身の人生で、親のおもーい期待ってのは背負ったことはないが、父親の期待というのは子供にとって重いようだな。
石川昌「山崎君がのような事件を起こした時、あの山崎君とはなかなか信じられなかった。弟と同級生で弟は一高に幸い浪人せずに入ったから一年遅れで一高、東大法学部と入った山崎君とは学校で会えば話はしていたようだ。その弟からあの山崎君だと聞いて驚いた。あんなタイプではなかったけれどね。そのあと三島由紀夫君が「青の時代」という小説を書いたわけだが、それを私も読みましたよ。読んだ瞬間に、ああ三島君は、山崎君の家に遊びに来たことがあるのか、とすぐわかりました。なにしろあの小説の中で語られている山崎家の家の内部は、僕らが子供の頃に遊んだときの情景そのままだったからね」

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