まず、タイトルに偽りあり。後藤田正晴を中心に総理大臣との絡みがあるかな? と思うでしょう? 違う。これは筆者:佐々淳之氏の自伝である。もーぅ、がっくりだったよ。
天安門事件勃発 1989年5月4日、北京は重大な政治危機に見舞われていた。自由と民主化を求める百万人の青年、学生達が全国から北京の天安門広場に集結し、セメント作りの「民主の女神」の像を建て、直後の訪中したソ連のペレストロイカ革命のリーダー、ゴルバチョフを立往生させ、鄧小平政権の土台を揺るがした。そんなとき5月17日総理府6階内閣安全保障室長室に中国大使館の苗長栄武官(陸軍少将)が沈痛な顔で来訪した。「北京の天安門の事態は重大です。きけば貴方はデモの鎮圧の専門家の由。天安門の100万人集会をどうやったら平穏に解散させられるか、お知恵を拝借したい。」と丁重な申し入れがあった。ときの総理は竹下登氏。リクルートスキャンダルで政権は大混乱の有様。指示を仰ぐ余裕はない。後藤田暗黙の了解で独断専行しよう。私は決心した。
「私が処理した機動隊運用によるライオット・コントロール回数は、990日間約6000件。検挙15000名、警察側負傷者12000名。双方に死者は出さなかったし、一発の拳銃も撃っていない。百万人の不法集会を解散させた経験はないが、20万人規模なら何回もやった。それでは私の責任でコツを伝授しよう。
(1)「汝殺すなかれ」。軍隊を使えばどうしても興奮して発砲する。350万人民解放軍のうち50万の武器を置かせ、警防と盾の臨時機動隊を一般警察や武装警察隊と別に編成する。
(2)群集処理の武器は「音」と「光」。相手より協力なラウドスピーカーを。闇は敵、強力な投光器を。
(3)放水車、催涙ガス銃を緊急調達する。(日本は売れないが韓国の国家安全企画部に頼め)
(4)座り込みは決して「押すな」。時間をかけ、一人ずつひきずり出せ。
(5)手錠をかけるな。隊列の後へ手送りして釈放しろ。これが諸葛孔明が孟獲に対してとった「七擒七縦」の策だ。
(6)群集心理が怖い。参加者を「個」に戻す呼びかけをやれ、公安に調査させ「どこそこの何々さん、やめなさい」と呼びかける。
(7)大きな政治的嘘を言え。例えば「党中央は君らの要求を受け入れた。みんな家に帰ろう」。流血を避けるための政治的プロパガンダの嘘は人道上許される。
(8)天安門の一方向はあけておけ、去る者、逃げるものは追うな。etc
深々と頭を下げ謝辞を述べて帰っていく苗少将を、私はグッドラックと心の中で呟きながら見送った。真剣に教えたつもりだっただけに「6・4大虐殺(天安門事件)」が始まったとき、私は怒髪天を衝いた。
「なぜ撃ち殺した!!自国民を射殺して何が『人民解放軍』だ。なぜ私の助言を求めた。私は職を賭して貴方に誠心誠意流血を避ける術をお教えした。人の忠告をきく気がなかったら初めから私のところに来るな。貴方の駐在武官とは1972年の呉新安大佐以来長い長い友好の付き合いだったが、今日限り絶交する!!」
こいつ・・・アフォなの?
日本における20万人規模の集会とは?
中国の事情を知ってるのかい? 中国はデカイ。中国政府が最も恐れているのは、アメリカの核兵器でも経済制裁でもない。内部崩壊、すなわち革命だよ。これは、国の存続に関わる一大事なわけ。「軍隊でなく、警察を」とか言ってる場合じゃないの。”平穏に解散させる”の主語はね、国家が平穏に、なのよ? デモの参加者や鎮圧隊の生死を問うている事態ではない。中国の大使も困っちゃったんじゃないかな。最初の5分で、「あ、それ中国で通じません」と言う間もなく勝手な話をされちゃってさ。
とまぁ終始こんな感じの本なわけだが、つきあって読んでみたよ。

後藤田正晴と十二人の総理たち―もう鳴らない“ゴット・フォン” 後藤田正晴と十二人の総理たち―もう鳴らない“ゴット・フォン”
佐々 淳行

文藝春秋 2006-06
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