2008年2月20日ポールソンはベアースターンズ最高執行責任者であり最高財務責任者であるサミュエル・モリナロから
ランチの招待を受けた。モリナロは20分にわたる演説を始めた。ベアースターンズがいかに財務状態を改善してきたか、いか
に健全な経営をしているか、どれほどの現金を保有しているか、といった説明である。そして最後にマスコミはベアー・スターン
ズのことをあれこれ言っているが、実際にはさほど酷い状況ではないことを強調した。それから20分間は質疑応答の時間と
なりモリナロがヘッジファンドマネージャーからの簡単な質問によどみなく答えた。その時ポールソンが手を上げた。
御社のバランスシートにレベル2資産やレベル3資産がどれくらいあるかご存知ですか?」 ポールソンが尋ねたのは高リスク
などの理由から値付けが難しい資産のことである。
「すぐにはわかりませんね」
「だいたいでいいんです」
「推測でものを言いたくないものですから。机にも出れば正確な値をお教えできますが」
いえ、私がお教えしましょう。2200億ドルです。何が言いたいのかというと御社の株主資本は140億ドル、レベル2、レベ
ル3資産は2200億ドルです。このような状態では資産にわずかな動きがあっただけで、株主資本はすっかり消えてなくなって
しまいますよ

>わぉ・・・
モリナロはこの事実を知らなかった。一方、ポールソンはこれまでに何週間もかけて自社の保有資産を再検討し、何十種もの
株式を売り払い、大手金融会社の破綻を見込んだ取引に力を入れていた。その対象となった企業には、リーマン・ブラザー
ズ、ワシントン・ミューチュアル、ワコビア、ファニーメイのほか、ベアー・スターンズも含まれている。ポールソン&カンパニーは既に
世界一人気の高い投資会社として、前年には60億ドルもの資金を投資家から集めていた。ポールソンはその資金の大部
分を利用し、バランスシートの脆弱な銀行や投資銀行の破綻にかけていた。
ランチに参加したヘッジファンドマネージャーが帰社すると、間もなく会議の噂は至るところに広まった。この噂はもはやふらふら
のベアー・スターンズにとどめの一撃を与えた。これを機にベアー・スターンズからの資金の引き上げが再び活発化した。ルネサ
ンス・テクノロジーというヘッジファンド会社は50億ドルもの資金を別会社に移している。株価は急落し、資金は減っていくば
かりだった。1ヵ月後、FRBと財務省の支援を受け、一株たった2ドルで急遽JPモルガンに救済買収されることに決まった。
リーマン・ブラザーズを救済しないという政府の決断を受け、同社は倒産した。倒産額はこれまでの最高記録の6倍に達した。
9月にリーマン・ブラザーズが倒産すると世界中の投資家や金融業者の間で恐慌に近い状態が発生した。これによりアメリカ
政府は金融システムに対し大々的な救済プランを断行せざるを得なくなった。政府はFRBとともにファニーメイとフレディマック
の救済に踏み切り3000億ドル以上の債務を保証した。また、バンク・オブ・アメリカが経営難にあえぐメリルリンチを買収する
のを支援した。しかしこのような措置も部分的にしか効果が無かった。株式市場は急落を続け、2007年秋から2009年
初頭にかけて60%以上も下落した。世界大恐慌以来最大の下げ相場になると同時に、第二次世界大戦以来最悪の景
気後退となった。こうした一連の騒動により、ポールソンが購入していたCDSの価値はことごとく跳ね上がり、ポールソン&カ
ンパニーは50億ドルもの利益を上げることに成功した。またリーマン・ブラザーズが破産申請に追い込まれた秋には、その債
務に対するCDSの支払いがあり、数億ドルを手に入れた。ポールソンの会社はまた、ロイヤルバンク・オブ・スコットランド、バ
ークレイズ、ロイズTSB、HBOSなどのイギリスの銀行株の空売りを行い、10億ドルを稼ぎ上げた。いずれもイギリスの住
宅ローン債権を大量に保有していた銀行である
。後に法律の改正によりポールソンのこうした取引が公表されると、ポール
ソンはイギリス人から公衆の敵とみなされた。
>世界のルール、売りで儲けると犯罪者扱い。
>日本のルール、株で儲けると犯罪者扱い。
アンドリュー・ラーデの手紙
私が今回成し遂げた成功に対し、心から感謝したい人は大勢います。しかし私は賞をとったハリウッド俳優のようなスピーチ
はしたくありません。報酬はお金だけで充分です。
私はもうほかの投資家や組織の資金を運用するつもりはありません。すでに運用するのに充分な財産を手に入れたからです。
私の純資産を相応に見積もり、たったそれだけの稼ぎで終わりにしてしまうのかと驚く人もいるかもしれません。しかし、それで
いいのです。私はこの報酬に満足しています。もっとお金がほしいという人は純資産を9桁、10桁、11桁と積み重ねていけ
ばいい
でしょう。しかしそういう人の生活は最悪です。次から次へと人に会わなければならず、3ヶ月先まで予約がいっぱいで、
楽しみにしていた二週間の年始休暇の間もPDAやら携帯電話につきっきり
なのです。その結果どうなのでしょう。どうせ50
年後には忘れ去られてしまいます。スティーブ・バルマー、スティーヴン・コーエン、ラリー・エリソン、みな忘れ去られる運命な
のです。遺産とは何なのでしょう。未来永劫称えられる人などほとんどいません。歴史に名を刻もうとするのはさっさとあきらめ、
PDAなど打ち捨てて人生を楽しみましょう。
>うん、こういう考えも大事。それはその人生アリね。

史上最大のボロ儲け ジョン・ポールソンはいかにしてウォール街を出し抜いたか
史上最大のボロ儲け ジョン・ポールソンはいかにしてウォール街を出し抜いたか グレゴリー・ザッカーマン 山田美明

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