大臣になれば自分でリーダーシップを発揮して役人に法案を作成させるべきだが、現実は役人のレクチ
ャーを聞いて彼らの言葉をオウムのように繰り返しているだけ。大臣になって何かをするのが目的ではな
く、大臣になること自体が目的になっている。政治家の多くに法律を作る知識も力量も才覚もないからで
ある。ところが戦後政治の歴史を振り返ると例外が一人いた。田中が議員の間に自らが起草して成立さ
せた法律の数は33本。田中が成立させた法律のうち主なものを眺めれば、例えば住宅関連法。ときの
片山首相に対して「コメもない、着物もない、住宅もない。衣食住がない。一家の団欒の場所の住むとこ
ろがない。民主主義を標榜されている片山内閣は何をしておられるのか
」とかみついた。そして二つの法
案を提出した。住宅金融公庫法。住宅不足は深刻だったが、国民ひとりひとりに国家資金で家を造って
やるわけにはいかない。自己資金を持ち意欲のある人々に対して、新しく作る政府系金融機関から資金
不足分を貸し付ける
というアイディアだった。この金融機関ができたおかげでどれだけの人々が家を持つ
ことができるようになったことか。その後、住宅金融公庫は政府の景気刺激策の重要の柱にもなった。
もう一つが公営住宅法である。当初は母子家庭や大陸からの引き揚げ者などに対する住宅を供給する
目的で作った法律
だが、次第に対象が普通のサラリーマン家庭になろうとしているが、大都市の郊外に
忽然として生まれた団地は大衆社会の文化の場にもなり、テレビ、電気冷蔵庫、洗濯機の三種の神器
の大マーケットにもなった。
>なぁ。母子家庭は公団住宅は優先的に入れる。普通のサラリーマンに使ってもらっては困るなぁ。ぇえ?
田中が作った法律の中で特筆されるべきは道路三法と呼ばれる道路関係法だろう。昭和28年に成立さ
せた「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」は堅い呼称だが、要する道路を造る財源のために自
動車の使うガソリンに税金をかけようという法律だった。いわゆるガソリン税である。衆議院の建設・大蔵
連合審査会では田中がほとんど一人で答弁に立っている。
「自動車を走らせるには道路がいります。歩道なら別ですが、自動車道は舗装しなければならない。舗
装するには金がいる。その金をどこから出すか。世界各国を眺めると日本は道路に出す金が極端に少な
い。一人あたりの道路費用はインドが39円。日本はインド並み。こんなことでいいのでしょうか」
どこから調べてきたのか、インドの一人当たり道路費などを持ち出し質問者を煙に巻く。
テレビの免許は歴代郵政大臣が頭を抱えていた難問だった。NHKと正力松太郎率いる日本テレビが始
まって以来、テレビの人気は高く前途洋々たる将来性を示し、全国からテレビ会社設立申請がどっと押
し寄せていた。郵政官僚は申請者全てにテレビ局を開く技術的背景があるとは思っていなかったから、
免許数を絞りたい。しかし、そうしようとすると、政財界や地方のボスたちがひしめき合って競い、らちが
あかない。ところが、田中は事務局の反対を押し切り、数ある申請者を地域別にひとつにまとめ一挙に
民放36社、NHK7局に予備免許を与えてしまった。
陳情団から受け取った案件は目白を経由して中央官庁の役人に伝達され、事業が決定し国庫補助が
出ることになる。ものによっては80%が国庫から補助となるだから、市町村にとっては打ち出の小槌の
ようなものである。事業計画が決まると、土木業者が指名入札を受ける。事業の配分は談合で決まる。
陳情について田中は独自の考え方を持っていた。「現代は陳情の時代だ。陳情という言い方が悪けれ
ば、主権者の提言といってもいい。マスコミは陳情をいけないことのようにいうが、これは旧憲法的思想
でものの見方が逆立ちしている。国民が立法や行政府に対して、あれをしてくれ、これをしてほしいと陳
情するのは、株主が取締役会に対して累積投票権を要求するのと同じこと。主権者の請願、陳情権は
憲法上の大権といっていい
。」
>さすが角栄、天下の器。そう、民は自らは何もしないのに、文句と不平と私利私欲の主張だけはする。
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