「これがルールだから、そうしろ」と言われても、すぐに「はい」と従ってはいけない。「ルールは
人間が作ったものなのだから、もし少しでも疑問があるなら、なぜそうなのか、必ず答えを得る
ように
」と教えられるのだ。ユダヤ教では常に「クエスチョン、クエスチョン、クエスチョン」で「
対的価値を疑え
」と奨励している。それがユダヤ人の普通の勉強の仕方だ。
またユダヤ教では、グループで行動するのではなく、自分独自の考えを持つようにと教えられる。
物心ついた頃からずっと、他人がやっていることを見たら、それとは違うことをするように言われ
続けて育つのである。
私が受けてきた教育と同じだ。私の父と母は、日本人。育ちも日本であったがな。
暗号というのは極めて戦略的な技術で、軍事技術のソフト面でのキー・テクノロジーでもあるの
だが、数学的な面から言えばアルゴリズムそのものであって、ネットセキュリティの「ファイア
ウォール」などはいかに優れた演算処理プログラムを開発できるかに全てがかかっていると
言ってもいい。業界標準となったチェックポイント社の「Firewall-1」は、まさにイスラエルが誇る
優れた数学的才能の賜物と言えるだろう。暗号と言えば、米国はテロ組織や麻薬取引グルー
プの通信に悪用されるのを防ぐため、高度な暗号技術の輸出を厳しく規制してきたが、それを
昨年末緩和した。このまま輸出規制が続けば、イスラエルのように優れた暗号技術を持ち、
なおかつ暗号輸出の自由な国が暗号の世界標準を握ってしまうことを恐れた
からだ。
もともとイスラエルは天然資源に恵まれないうえ、人口が少なく、国内市場の規模が小さい。
量産志向の組立加工型産業んい取り組むのは不向きである。その点、数学なら設備投資に
必要なのはペンと紙だけ。工場も要らないし、工作機械も不要だし、従業員を雇う必要もない。
ただ、独創的で優秀な頭脳がありさえすればいいのだ。イスラエルでは情報通信やソフトウェ
アのような頭脳集約型のハイテク産業が大きく開花したのは、ペンと紙と頭だけでいくらでも
勝負できる数学の世界こそがその土台だったからだ。
建国前にできていた科学技術の土台
ハイテク国家への道筋を考える場合、1948年の建国以前にこの国の科学技術の土台が出来
上がっていたことだ。建国後、完全なゼロ状態からスタートしたわけではないのである。
たとえば農業研究は、1870年のミクベ・イスラエル学校の設立に始まり、1921年にはテルアビ
ブに農業試験場が創設され、今日の農業研究機関へと発展した。医学・公衆衛生の分野では
第一次世界大戦以前にヘブライ衛生拠点が設立され、その後1920年半ば、ヘブライ大学に微
生物学研究所、生化学、細菌学、衛生学の各部門が設置され、研究が進んだ。これが有名な
ハダッサ医療センターの土台になった。また工業研究の分野では、1930年代に死海ラボラトリ
ーが先駆的な役割を果たしたほか、テクニオン・イスラエル工科大学(1924年創設)、ダニエル
・シフ研究センター(1948年創設)などで基礎的な科学技術の研究が始まっていた。つまり、建
国時にはこの国の科学技術の下部構造はほぼ出来上がっており、その上に国家的に重要な
研究が優先的に積み上げられ、それを土台に諸産業が段階的に開発されていったのである。
その意味で、シオニズムの建国運動は3つの段階に分けて考えることができる。第一段階は
農業による国の基礎作り、第二段階は国防力強化による安全保障の確立、そして第三段階
が今日のハイテク産業を中心とした国家の確立
である。
第一段階 農業による国の基礎作り
「アシュケナージ」と「セファルディ」、イスラエルへの移民は、ドイツ、東欧、ロシア系のアシュ
ケナージとポルトガル、スペイン、北アフリカ、地中海沿岸、中東、南米系のセファルディという
二つのグループに大別できる。両者の違いは歴然としている。シオニズムを通じて建国に馳せ
参じ、独立戦争を戦ったのはその多くがアシュケナージだった。彼らは、ロシアの農奴やヨー
ロッパのゲットー出身者が多い。貧困の時代が長かったせいか、進歩的思想、社会主義的傾
向が強かった。ユダヤ教への帰依も純粋で、イスラエル政界の主流は圧倒的にアシュケナー
ジが占めている。これに対してセファルディは、宗教的に言うと、アシュケナージほど敬虔では
ない。現実主義的で商人が多い。医者や哲学者なども少なくないが、ビジネス・エリートの多く
はセファルディの系列と考えていい。こうしたグループの性格の違いから建国後、キブツ(集団農
場)の運営を担ったのは社会主義的な傾向の強いアシュケナージだった。またイスラエルが長
く社会主義的な色合いの濃い政策を続けたのは、キブツに象徴されるように彼らが政界をリード
してきたからだ。今ではキブツの収入の半分以上は工業製品になっているが、かつては農園で
オレンジを栽培するなど、完全に農業中心だった。農業こそが国の基礎であり、その育成はユ
ダヤ人国家建設の最重要課題
だった。だから建国からしばらくは、人も技術もお金も農業分野
に集中的に投下された。それを象徴するのが砂漠の緑化事業である。緑化システムを開発した
結果、耕作地は110万エーカーとなり、灌漑地も60万エーカーに増えた。砂漠緑化のための灌漑
システムや土壌改良の技術においても世界のパイオニアと言われるようになった。搾乳量世界
位置を誇る乳牛種や最上質のトマトなども開発されている。輸出総額に占める農業の割合は1950
念の60%から現在では3%程度に落ちているが、輸出額そのものを見れば当時の2000万ドルから
現在では約8億ドルへと拡大している。砂漠をオレンジ畑に変えた奇跡の結果である。
第二段階 国防力強化による安全保障の確立
迫害の歴史が、彼らに強烈な恐怖を蘇らせ、自ら迫害者となってパレスチナ人を難民へと追いや
ったことは、悲しい歴史の皮肉というしかないが、以後、イスラエルにとって「国防力強化による
安全保障の確立」は国家的大命題
になった。イスラエルの場合、文民統制(シビリアンコントロー
ル)が完全に失われた軍事独裁政権というわけではないから、厳密に兵営国家というわけではな
いかもしれないが、少なくとも財政事情や米ソの緊張緩和などを背景に軍縮政策が始まった80年
代半ばまでは、その色合いが濃かった。
戦車メルカバ、戦闘機クフィル、対艦ミサイル・ガブリエル、軽機関銃ウジなど、世界的に有名な
兵器も少なくない。イスラエル製の兵器は世界中に輸出されており、同国は世界有数の武器輸出
国でもあるのだ。イスラエルの軍事技術の特徴の一つは「改良」である。それを象徴しているのが
戦闘機クフィルと言えるだろう。その生い立ちは実に数奇で、武器禁輸で困ったイスラエルがフラン
スの戦闘機ミラージュ5(サンク)の設計図を盗み出し、勝手にコピーしたものだと言われている。
ミラージュにアメリカ製の強力なエンジンを搭載したのがクフィルだというのだが、真偽のほどはわ
からない。
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