検察が描くシナリオ
日歯連事件についての検察の不可解な捜査がある。「一億円献金隠しで政治資金規正法違反の罪を問われた派閥の会
計責任者は、橋本龍太郎氏から『はいこれ。日歯からです。』と小切手を渡されたと説明している」ことを根拠にして橋本総
理を一方的に悪いと決め付けていることだ。私が問題にしているのは会計責任者の滝川氏が、拘置所の独房の中という特
殊な状況の中で行った供述がすべて正しいとどうしていえるのかということだ。普通の神経を持った人間ならおかしくなって当
然の状況であることは437日間も勾留されていた私が一番よく知っている
。外に出るために誰もが検察のシナリオに迎合し
てしまうのだ。夏は40度近くにもなる拘置所の独房は、風もろくに入ってこない4畳の密室だ。私もその圧迫感に、当初は
精神に異常をきたすのではないかと思った。こんな状況で朝から晩まで取り調べられれば、一日も早く外に出たいと思い、検
察の狙っているシナリオ通りに供述してしまうのが普通だ。これに耐えるためには超人的な精神力が必要になる。自分が捕ま
って初めて知ったことだが、検事調書というものは裁判で万能の力を持つ。だから検事は全力をあげて自分たちに都合のいい
調書を作り、それにサインさせようとする。滝川氏もまた、その検察のシナリオに沿った供述を強要されただけだ。そんな供述を
根拠にして捜査が進む恐ろしさは、私は身に沁みて経験している。
三井物産ディーゼル発電施設疑惑
択捉、国後、色丹の各島に日本が供与したディーゼル発電施設を私が無理やり造らせたというものだった。しかも、80億円
で正式に受注した三井物産との間で密約を交わし、口利きの見返りとしてリベートを受け取ったと言うのだ。このプロジェクト
は、1998年4月の橋本・エリツィンの日露首脳会談で決まった。私が関与する余地などまったくなかった。一時期検察は
私が自民党の総務局長だった時期に、私の口利きで三井物産が党に献金したという話を作ろうとした。これも根拠がない。
そもそも自民党は大手総合商社から長年にわたって政治献金を受けている。もちろん三井物産も例外ではない。それぞれ
の企業の献金額は毎年決まっており、1994年から三井物産と三菱商事は8600万円、住友商事、丸紅、伊藤忠は
6500万円だ。疑惑をもたれた時期、私は自民党の総務局長で党の要職についているのだから何かあるだろうというわけだ。
しかし、総務局長は選挙対策を担当するポストであって、政治献金の窓口は経理局長である。私と三井物産は金銭的な
付き合いが一切ないうえに、党内のポストから考えても私と三井物産のつながりはなかった。しかも、このディーゼル発電プロ
ジェクトが始まる前も後も、まったく同額の政治献金がなされているので、「この政治献金は便宜を図ってもらった見返りだ」
というのはどう考えても無理がある。
国策捜査を阻止するために
国策捜査というと官邸から特別な指示が出て検察が動くと考えがちだが、じつはそうではない。もちろん、官邸を含めたあらゆ
る組織は、それぞれ思惑を持って動いている。そして、現実には新聞記者などを通じて自分たちの考えを相互に伝達しようと
するのだ。また、そこには検察が世論や政治の動きに過敏になっているという事情も関係している。世論や政治の動きに過敏
になっている原因は、捜査能力が低下しているからだ。操作能力が高ければ、なにも世論に迎合して流れを作る必要などな
い。しかもポピュリズムを前面に押し出す小泉政権になって、世論の意向=官邸の意向になってしまったので、よりいっそう世
論を気にするようになった
のである。私へのさまざまな圧力が頂点に達したころ、最後に検察の背中を押したのは官邸だった。
小泉政権の官房長官だった福田康夫氏は、担当記者を集めて行うオフレコの懇談会、通称「記者懇」で「鈴木宗男の捜査
はドンドンやったほうがいいな」「鈴木宗男が逮捕されても政権に影響はない」などと発言し、新聞各紙は間髪入れずこれに
同調した。この発言をきっかけにして、検察は動きを急速に早めた。検察といえども行政機関の一つだ。官房長官は事実上、
政権のナンバー2だ。その人が懇談で発するメッセージを検察が「鈴木宗男を逮捕しろという官邸のシグナル」と受け止めるの
は当然だ。こうして権力を背景に、特定の意図=「鈴木宗男の逮捕ありき」を持った捜査-国策捜査が始まったのだ。
司法記者クラブに所属する特装担当記者が検察から情報を手に入れるのは、ジャーナリストとして当然の行為だろう。いっぽ
う疑惑の渦中にある鈴木宗男に取材するのも至極まっとうなことである。ところが、私から聞いた話を一行も書かず、それを検
察に伝える記者が非常に多く居たのである。私の話を伝え、その見返りに、検察から別の情報を耳打ちさせる - こうした
一種の交換条件が成立していたことは容易に想像が付く。これでは捜査機関の手足に過ぎないではないか。これは個々の
取材記者に帰する問題ではなく、記者クラブ制度を含むシステムに根本的な原因がある

私は一つの考えを持っている。それは検察とメディアを切り離すことである。そのためには、まずメディアの側は記者クラブ制度
を手放すことだ。取材するスペースを与えられ、さまざまな便宜を受けると言うことは、いつの間にか権力の手先になることを
意味する。また検察に対しては捜査員の陣容を大きくするために予算を手厚くすべきだと考えている。30人の特装検事で
できることには限界があるし、無理にやろうとするからメディアを手足に使ってしまうのだ。メディアを捜査機関の下請けにする
ことを即刻やめなければならない。
【治外法権領域】
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